第126話 続々・夢プラン
深い森の中を馬車はゆっくり進んで行く。そろそろレザムールズ領に入るはずだ。
しばらく進むと東砦が見えた。
「やっと帰ってきたわ……」
ミンフィーは王都で領主としての務めを果たして来た。本当はペガサスで飛んで行きたかったが、領主ともなると国に旅の行程表を提出しなければならない。
そして行く先々で冷遇を受けた。とても領主を遇するものとは思えない侮蔑に満ちた対応。いくら屈強なメンタルを誇る冒険者でも貴族のネチネチした嫌がらせにはさすがに心が折れる寸前までいった。
農業区に入ると多くの顔見知りが作業をしていた。
それを見ると少しだけホッとした。
居住区に入りしばらく進むとふと花の香りがした……
その香りは馬車が進むにつれ強くなり、やがて……
大きな花畑が姿を見せた。
そこには2つの建物がある。花畑の横で馬車から降りてお店に入る。
紅茶専門店 『 ムーンライト 』
フワッと紅茶の香りが広がった。そこの店には王都にも引けを取らない種類の紅茶が揃っている。
紅茶好きの彼女でも知らない銘柄があった。
気になった物を一つ買うとダークエルフ族の女性店員がオープン記念のサービスだと言って紅茶のクッキーをくれた。
貰ったクッキーを近くのベンチに座って食べる。クッキーには彼女の好きな紅茶の銘柄の茶葉が練り込まれている様だ。ほんのりとした砂糖の甘味と豊かな紅茶の香りが絶妙だった。
「やるわね。モッシュ」
そう呟いてもう一軒のお店に向かう。
敷地の大部分は芝生だが所々に大きな花畑があり、とても計算して設計されているのが分かる。
敷地の中心、最大規模の花畑の中にお店はあった。
カフェ 『 ソレイユ 』
中に入ると待ち構えていた様に猫耳族の店員が現れて席に案内してくれた。客は自分だけの様だ。外の花畑が良く見える席に座って店員にオススメを聞いてみた。
ランチセットがオススメと言うのでそれを注文した。お腹は減っていたけどもう夕方でランチという時間でない。
ひょっとしたらオープンしたばかりなのでメニューはそれしか無いかもしれないと思い付く。
ずっと自分だけを待っていたみたい。
運ばれてきたのはミンフィーの1番好きな銘柄の紅茶だった。そしてサーモンと野菜のサンドイッチが来た。
「美味しいわね」
王都で食べたどんな豪華な食事よりも美味しい。旅の道中で出されたおかしな料理など比べ物にならない。
最後に少しの生クリームが乗った紅茶のシフォンケーキがデザートで出た。
女性でもペロリと食べれる丁度良い量のランチだった。
店を出る頃には旅の嫌な思い出もすっかり忘れ、素敵な夢の中にいる様な気分になっていた。
〜 ちょっと前の話 〜
ミンフィーが領主会議に王都へ旅立つ。これはサプライズの最大のチャンスだった。旅の工程表を確認したモッシュはすぐに動き出した。
まず生産者交流施設『サロン』で園芸ギルドの人に造園を依頼した。木は使えない。花と草だけで敷地を埋めないといけない。
大量の草花が必要になるので冒険者ギルドに依頼しないといけない。でもそれはポラリスカンパニーから依頼してもらう。各生産ギルドへの依頼も同様だ。
自分は要所だけ押さえて動く。
そうしないとスタッフが育たない。
大量のクエストがポラリスカンパニーの名で発注された。その様子をしっかり確認し、各ギルドに支払いを済ませた。
モッシュはクエストをしっかりこなした者を続けて使う事があるので皆、手抜きなく必死にクエストをこなす。評価されれば次のクエストが直接依頼されるかもしれないからだ。
現に漁師ギルドは大きく躍進していた。
次は自分達だとみんな張り切ってクエストをこなす。
普段は見向きもしない草花を採集するクエストにも冒険者達は群がる様に受注したがった。
モッシュがギルド協会に草花採集クエストの報酬として現金1000万ゴールドを渡している光景を冒険者達はいつまでも忘れないだろう。
草花採集クエスト以外にも南の中都市へポラリスカンパニーが行く為の護衛、珍しい紅茶を探してくるクエストもあった。
仕事は次から次に湧き出てくる。
都市全体がポラリスカンパニーとモッシュを中心に激しく動き回っている様だ。
その影響は周辺領地まで及んでいた。まず動いたのは商人達だ。次に冒険者達。どちらも移動の制限が少ない。
レザムールズ領が空前の好景気だと噂がどんどん広がって行く。そして、多くの人がレザムールズ領に向かう。
商品を仕入れる者やクエストを受けにくる冒険者が連日の様に押し寄せて来た。冒険者の中にはギルドを移籍して移り住む者もいる様だ。
特に隣領のエドワード領で噂は大きく広がっていた。移住した貧民達が自分達よりも良い暮らしをしているというのだから当然だ。
ギルドさえ移籍すれば移住が出来る冒険者達は真っ先に移住し始めた。
そして……
衰えを見せるエドワード領に魔の手が迫りつつあった。
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