第123話 学校
〜 レザムールズ領生産者交流施設 サロン 〜
店に来るお客さんは少しずつ増えてきた。けれど、暇なのには変わりないので交流施設で骨細工をやっている。
ドラゴンの骨でドラゴンナイフとドラゴンソードを作る練習をしているんだ。刀身の部分だけが僕の担当で他の部分は親しい木工職人と彫金職人が仕上げてくれる。
職人3人のコラボ商品として売り出す予定だよ!
これをドラゴンシリーズと名付けた。見た目もカッコいいデザインにする。装飾もあるから豪華だよ。
僕が骨を加工する様子を遠くから見ている子供がいた。手招きして近くの安全な所で作業を見せてあげた。
「作業に興味があるのかな?」
「うん! やらせて!!」
「はは、これは硬いから子供には無理だよ」
リュックサックからスケルトンの骨と小さなヤスリを取り出してその子に渡した。
「好きな形して。ケガしない様に気をつけて削るんだよ」
「わーい! ありがとう!!」
子供は喜んで骨を削って遊んでいる。僕は危なくないか確認してから自分の作業に戻った。
何か動物みたいな物を上手に作っているみたい。
「へえ〜 上手だね?」
「うん! こういうの得意なの!」
「いつでも遊びにおいで。遅くならない様に帰るんだよ」
「うん! ありがとうおじさん!」
お、おじさん!? 初めておじさんって呼ばれた!!
少しショックだ……
「僕の事はモッシュと呼んでね……」
「うん! モッシュね! また来るから!」
それから僕が交流施設に行くとその子は必ず遊びに来る様になった。ミーシャという猫耳族の女の子だ。
「コラ! ミーシャ! また勉強しない逃げ出して!」
母親らしき人が来てミーシャを怒っている。
「ミーシャ……勉強しないならもうやらせないよ」
「えーー しなくても私は超一流の職人になるし〜」
「無理だよ……」
僕はミーシャにドラゴンナイフの設計図を見せてあげる。
「職人は設計図通りに物を作るんだよ。文字の読み書き。計算が出来ないと良い職人にはなれないよ」
ミーシャは設計図を食い入る様に見ている。
「本当みたいね……」
「ミーシャ! あんたは職人にはなれないの! パパもママも衛兵なのよ!誰が教えてくれるの!」
「モッシュ……」
ミーシャが僕を見てるけど……
「モッシュさんは冒険者に戦闘を教える人なの。偉い人なのよ。困らせてはいけません!」
「な、何で冒険者には学校があって職人には無いの? 私は冒険者にはなりたくないの! 職人がいいの!!」
うう……確かに職人は親から子供に教えるのがほとんどで僕みたい独学でやるのはとても大変だ。
「……職人の学校もやってみようかな……」
「そうよ! 職人にも学校が必要よ!」
「考えてみるよ。でもね。読み書き計算が出来ない人は学校には入れないよ」
「やるから! ちゃんとやるから!」
必死に叫ぶミーシャは母親に連れられて帰って行く。本当に職人になりたいだな。
まあそんなに職人になりたい人なんて居ないだろうし、ちょっとした学校をやってみようかな。
ホクトさんに職業訓練学校の設立を申請した。
「店の周りの敷地はほとんどモッシュさんの土地です。自由にして下さい」
「いいんですか?」
「はい。ただ、レザムールズ領としては支援しません。モッシュさんの私立学校でもいいですか?」
「ええ。お金も沢山あるし大丈夫です」
まずどこが僕の土地なのか確認した。
「結構広いですね……」
店舗、冒険者訓練学校、交流施設『サロン』とその一帯……全て僕の土地らしい。
「ギルドメンバーはみんな同じ位の土地を持ってます。全員で開墾したのですから当然です」
そうだったんだね。みんな同じなんだ。ホッとしたよ。
「なるほど。僕だけで無いならいいです」
よーし! 後は全部、自分の責任で頑張らないと! 頼ってばかりじゃ駄目だからね!
ギルド協会で学校設立の連絡をして、木工ギルドで建築の発注をした。後は南の中都市『コンテール』の提携している商会から各生産職の初心者セットを購入する。
ギルドハウスで僕のスケジュールを確認して空いている日に初心者講座の予定を入れてっと。
1週間で全部が整った。大工さんの技術力が物凄く高くなっているね。
ギルド協会に行ってクエストを発注した。
初心者を対象にした各生産職の講座の指導者を募集した。
クエストに応じてくれた人と日程を話し合う。そして、店舗と交流施設に生徒募集の貼り紙をしたよ。
第1回 職業訓練講座 革細工 対象 初心者レベル
無料ですが読み書き計算の出来る方限定です。
希望者はレザムールズ総合店 受付まで
うん! これでいいね!
誰も来ないかもしれないから僕も生徒として参加する。これで最低1名は生徒がいるよ!
交流施設の貼り紙をミーシャと母親が見ている。どうも母親もあまり文字が読めないみたいで通りがかりの人に聞いていた。
「モッシュ! ママも一緒にいいの?」
「条件を満たせばね」
厳しいけどここは変えられない。開講まであと1週間あるから頑張れば何とかなる。受付時に簡単なテストをして確認する事にした。
そして開講の日……
出来たばかりの校舎は平屋建てだよ。座席は10席ある。机の上には革細工の初心者セットと羊の皮が置いてある。
お年寄りから子供まで5名の人が集まった。みんな席について待っている。
ミーシャと母親もいたよ!!
まずは僕から挨拶だ。
「皆さん、ご参加頂き有難う御座います。講師の方は革細工Cランクの優秀な方です。基礎をしっかり学びましょう」
講師を紹介して講座が始まった。
講師も初めてだから緊張しているみたい。でも分かりやすく説明してくれていた。
ホクトさんが教室に入ってきた。
「ちょっと見学させてもらいますね」
ホクトさんがお客さんを連れてきたみたいだ。
「どうぞ。見学は自由ですよ」
すると……Sランク木工師ラモットさんとSランク鍛治師ダークエルフのシュナイダーさんが教室に入ってきた。
講師さんガチガチに固まってしまったよ……
緊張しながら職人としての心構えを教えてくれている。
でも実技になれば落ち着いたよ。とても丁寧な指導だった。多分、必死に考えてきてくれたんだろうな。
ミーシャも嬉しそうに教えてもらっている。
講座は途中で休憩を挟んで2時間だ。それで簡単な羊のなめし革を作れる様になった。無事に終了したよ。
「モッシュさん。講師の方。有難う御座いました」
ホクトさんはSランク生産者を連れて帰っていった。
「ミーシャ。どうだった?」
「楽しいかったよ! でもママの方が上手で納得いかない」
「私、昔から手先が器用なんです。子供には負けませんよ」
「む〜〜。私は超一流になるんだから!!」
「次は裁縫講座なので興味があったまた来て下さい」
仲良く2人で手を繋いで帰っていったよ!
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