第122話 大賢者

 〜 ティアナのダンジョン 〜


 冒険者達はレザムールズ領に貢献すべく、ダンジョン探索に励んでいた。

 しかし、第2層まで進めたパーティーはわずかであった。広大なフロア、嫌なモンスター、悪辣なトラップが行く手を遮る。

 ただでさえ攻略が難しいのに週に1度、内部構造が変わってしまう。敵の種類、トラップの配置も変わるのだ。

 最も冒険者達を苦しめているのは「ソロギミック」だ。第1層の終盤にあるソロギミックをクリアしないと先に進めない。

 パーティーメンバーが魔法陣に乗ると個別で長い通路に飛ばされる。そこにいるモンスターを1人で倒さないと合流出来ない仕組みだ。

 

 冒険者として最低限の実力があるか試される。


 攻撃だけ、魔法だけそんな冒険者はクリア出来ない。


 荷物を持っているだけのサポーターは絶対無理だね。


 ティアナのダンジョンはギルド レザムールズのメンバーとミシェルさんがこれまでの経験を活かして設計した。

 ギルド協会のミシェルさんが加わっているので冒険者に適切なアドバイスが出来る。攻略が難しいダンジョンだけど今のところ死亡者、重傷者ゼロだ。


 現役の冒険者である僕達がその経験を注ぎ込んだ渾身のダンジョンになっている。

 

 必ず冒険者達の実力は上がるはずだ!!


 特に回復役とサポーター役が苦しむ事が予想されたので、冒険者訓練学校に救済策として特別コースが設置された。

 特別後衛コースを栞さん、特別サポーターコースを僕が担当して戦闘の指導をしている。



 ティアナのダンジョンを作る際、シャバニさんが魔王に相談をした。あの2人は仲がいいからね。

 西の魔女のダンジョンに似せるノウハウを教えるのに、一つだけ交換条件を出された。


『 ティアナが大賢者を目指し続ける事 』


 大賢者になるという事は魔王を倒す事を意味する。あくまで目指せばいいと魔王が言うのでティアナは了承した。

 そして魔王はノウハウと古ぼけた鍵をティアナに授けた。


『 魔猫と一緒に入れるスペシャルダンジョンの鍵 』


 この古ぼけた鍵は魔王とその使い魔だった魔猫ニャンゴラが共に強くなる為に作ったスペシャルダンジョンの鍵らしい。


 シャバニさんは言った。


「これを託すから魔王を倒してやってくれ」と……


 シャバニさんの語った魔王の話は衝撃的だった。

 魔王は自分を倒せそうな者と契約を結んで援助をしているそうだ。


「西の魔女も援助を受けたその1人だ。西の魔女は配下を育てて魔王に挑んでくるそうだ」


「じゃあ、あの小さな魔女様と弟子のお爺さんも?」


「いや。その2人は違う。元々ダンジョンを作る才能がある者らしいな。ダンジョンマスターというジョブだ」


 あの2人は国から委託されて兵士や冒険者の育成を行なっているみたいだね。


 もし西の魔女が魔王に勝ってしまったら……


 世界はどうなってしまうんだろうか?


「西の魔女は勝てそうなんですか?」


「今の所は無理みたいだな……一度だけ追い込まれたと言っていたな」


「へぇ〜、変な話だけど魔王が勝って良かったですね」


 おかしな話だよね。でも魔王のおかげで世界は均衡を保っている。一方で混沌の種を蒔いてもいる。


「魔王は自分の役割を果たしている。世界は混沌としているからな。まあ弱い人間にとってはまともな大勇者や大賢者なんかが魔王を倒して世界を統一してくれるのを希望だな」


 まともなって所が重要だね。ティアナが魔王を倒してくれればきっと良い世界になるだろうな〜


「そうだ! 魔猫と一緒なら入れるんですよね? 僕でも入れるのかな?」


「ああ。魔猫プラス1と言っていた。人間でも魔族でもとにかく1だな。だがな……最初の敵はアトラスだぞ」


 昇格試験で戦った巨人族の上位モンスターだ。


「ええ!? アレを2人で倒すんですか??」


 アレはパーティーで戦う様な敵だよ……魔王とニャンゴラはそんなの相手にしていたのか!


「俺とギルマス以外はまだ無理だろうな」


 え……2人は倒せるって事??


「そうね……」


 ミンフィーはそう言って肯定した。倒せるのか……


 今、僕達はティアナのダンジョン 第4層にいる。CランクからBランク向けに設計されている階層だ。

 クルミがBランクのダンジョンに対応出来るかを慎重に確かめながら進んでいた。


 クルミが必死にトラップ解除や宝箱開けをやっている。戦闘も頑張っていた。


「いい感じだね。これなら問題ないかな」


 シーフとしてのスキルはBランクに達している様だ。後はレベルだけだね。


「攻略法が分かっていてもこのダンジョンは難しいわ」


「はい。だから良い宝箱が出せます」


 攻略が難しく、リスクの高いダンジョンは得られる報酬も良いというのがダンジョンのルールだ。


「Sクラスのギルドさえ来なければ、しばらくクリアはされないでしょうね」


 クルミが嬉しそうにBランクの宝箱に挑戦している。この宝箱に仕掛けられている罠は開錠に失敗すると呪われるという物だ。


 呪われるとずっと笑い続けてしまうそうだ。


 その呪いは栞さんが治癒出来るのでいくらでも失敗出来るんだよね。


 即死や大爆発する罠なら凄く良い宝箱が出せるんだって!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る