第113話 ギュッと

 古代迷宮第1層はC、Dランク冒険者向けの層と判断した。但し、トラップ解除や箱開けの技能が必要だ。

 この事をミシェルさんに伝えた。


「古代迷宮の事はレザムールズ領のトップシークレットです。通常のダンジョンでは無いのでここのギルド協会のみの情報として扱います。領内でもしばらく秘匿します」


「トラップ解除や箱開けの教育してくれる人が必要ですね」


 クルミを指導者にするにはまだ早い。


「AもしくはBランクのシーフもしくはレンジャーですね。箱開けだけなら魔法でやる人もいますが……」


「魔法もあるんですね?」


「レアな魔法なので持っている人はほとんどいません」


 また指導者不足か……


「僕が訓練学校の責任者だから初級レベルは教えないと」


「そうですね……書物を取り寄せます。それを見ながら自分で学ぶしかないですね」


 確かクルミが箱開け訓練をしていたな。訓練用の箱をホクトさんに作ってもらおう。トラップも相談してみるかな。


 クルミに簡単なレクチャーを受けてからに古代迷宮第1層をソロ探索する様になった。シーフも大変だな……


 でも宝箱を開けるのはワクワクして楽しいね! クルミが開けたがるのもよく分かるよ。

 

 僕も何とかEランクの宝箱は開けれる様になった。


 トラップは引っかかっても命を落とす程の威力は無い。

 怪我や毒を受ける程度だ。


 わざと引っかかってみたんだよね。ミンフィーには内緒だけどさ。


 それからしばらくミシェルさんが取り寄せてくれた指導者向けの本を読みながら石材を作る日々が続いた。

 主要な建物は全て完成したよ。今は住民達の戸建て住宅の建築が進行しているね。

 聖都 セントフォースからミシェルさんが連れて来た冒険者達は3つに分かれて新規ギルドを立ち上げた。そのギルドハウスも既に完成している。


 冒険者訓練学校も完成したよ!!


 開校はまだちょっと先だけど……


 そろそろ小都市シャングリラを隠す必要が無くなるね。


 まあわざわざ教えて回る必要も無いけどさ。


 東砦と南砦を本当に砦にする計画が進んでいた。領内の警戒にも万全の態勢が整えられつつあった。


 ネズミどころか悪い虫すら侵入出来ないらしい!


 

 このところギルドハウスに1人でいる時間が増えてきた。いつも一緒だったザリウスも最近はどこかに出掛ける事が多い。

 まだ開店していないレザムールズ総合店に行って、埃が積もらない様に掃除をしたり、都市内のゴミ拾いをして時間を潰した。


 みんな忙しそうなのに申し訳なくなってくるよ……


 スペシャルダンジョンにも頻繁に行ったよ……


 取って来た素材や装備をミシェルさんに全部渡して終わりだけどね。


 自分の部屋に戻ってベットに横になった。


 コン! コン! コン!


 誰かがドアをノックする音がした。


「どうぞ開いてますよ」


 ドアを開けて入って来たのはミンフィーだった。


「ミンフィーどうしたの?」


「モッシュの元気が無いってミシェルから聞いたのよ」


「う、うん」


「モッシュこそどうしたの?」


「僕だけ何もしていないんだ。みんな忙しそうに飛び回っているのにさ」


「……あなたは十分に働いているわ」


「そうかな……」


 僕にも何か出来る事はないだろうか? 近頃、そればかりを考えてしまう。


「じゃあモッシュ。あなたにしか出来ない仕事をあげる」


「え!? 何だろう! 何でもするよ!!」


「絶対よ! 私の事を抱きしめて……」


「え!? そ、それって仕事?」


 ミンフィーはとても疲れた様子で僕に寄り掛かってきた。


「だ、大丈夫? 少し痩せたんじゃない?」


「そうね……また美味しいディナーを食べに行きたいわ」


 ミンフィーをそっと抱きしめてあげた。とても冒険者とは思えない様な体だった……


「少し休むわ……」


 ミンフィーはそっと目を閉じて眠ってしまったよ……


 こんなになるまで働いていたのか……


 僕はちょっと仕事が無いだけでウジウジして最低だ!


 ミンフィーにまで心配をかけて……


 ミンフィーをそっとベットに寝かしてあげる。

 

 僕は僕に出来ることを頑張ろう! 


 探せばやる事なんていくらでもあるじゃないか!


「ごめんよ。ミンフィー」


 今はミンフィーを抱きしめるのが仕事だ。ギュッと力を込めて抱きしめるとミンフィーが嬉しいそうに微笑んだ。



 〜 冒険者訓練学校 〜


 馴染みの冒険者達に集まってもらって、箱開けとトラップ解除を教えてみる。


 僕が教える練習だよ!


 みんな喜んで参加してくれた。ついでにいろんな話が出来たし良かったよ。


「まずはみんなサポーターコースを受講するんだ。それから一般コースを受講だね。ウチのギルドに体験入会さ」


「いいな。それなら実力もつきそう」


「それが終わったら一般コースのガチャも引けるよ」


「「ええ!? 羨ましいな……」」


「そうか……君達はサポーター出身だったね」


「はい。サポーターガチャしか引いてないです」


「じゃあ今から一般のを引きに行こう」


「「ええ!?」」


 もう一緒にダンジョンに入っているし、全員体験入会済みだからね。


「一般コースの人はサポーターコースを引いてね」


「いいんですか?」


「勿論さ。どちらも無料だよ」


 ミシェルさんに話を通してみんなをガチャマシーンへと案内した。


 みんなワイワイとガチャを引いている。


「スゲーー こんなにスキルが沢山付いているんだ!」


「滅茶苦茶いろんなの上がった!!」


「うう。後衛なのに3連撃が出ちゃった」


 良さそうなスキルが当たって喜ぶ者とハズレで悔しそうにしている人。いろいろだね。


 そう言えば……僕が一般コースを引いた時には何も上がっていなかったな……


 もう既に持っていたって事か……それに……


「スキルも重要だけど大事なのはしっかりと基本通りに鍛える事だよ」


「それは一緒にダンジョンに入って痛感しました」


 僕は派手なスキルなんて無いけど戦ってこれた。ミンフィーがしっかりと基本を叩き込んでくれたからだ。


「その事が分かっていればこれからもきっと大丈夫さ」


 それは自分にも言い聞かせる言葉だった。

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