第110話 小さな決心

「あの馬鹿女! 500万も出したわ!」


「さすがエリザベートお嬢様! 読み通りでございますね」


「さっそく舞踏会に行く準備をしないといけないわ」


「予算はどう致しますか?」


「勿論、500万ゴールドよ!」


 エリザベートは得た金を全てを費やすのだった。


 

 〜 レザムールズ領 東砦 〜


 東砦には既に木工職人ラモット及び弟子達とその家族が到着していた。馬車から降りてしばしの歓談をしていた。


「おお! 皆、元気じゃったか?」


「はい。先生もお元気そうで何よりです」


「ではご案内しますので馬車にお乗り下さい」


「ん? ここではないのか?」


「ええ。違います」


 ミンフィーとラモットさんが乗った馬車を先頭に奥へと進ん行く。


「な、何じゃコレは?」


「ここは農業区画です」


 見渡す限りの畑には色とりどりの野菜や果実が実る。金色の稲穂が頭を垂れる麦畑も見えた。もうすぐ収穫の時期だ。多くの農民達が楽しそうに働いている。

 頑強な城門を抜けるとそこは居住区だ。


「こ、コレは貴族の家か?」


「フフフ。これは農民達の家ですよ」


「まだまだ建築途中の家ばかりです。アパートメントに住んでいる民も多いですし。皆いずれは一戸建てに住んでもらう予定です。土地だけは広いので」


「し、信じられん……」


 馬車はギルド協会に到着した。ミシェルさんがラモットさん一行を出迎えた。


「ようこそラモット様。私はギルド協会長のミシェルです」


「ラモットじゃ。この辺りは殺風景じゃの?」


「はい。商業系のギルドはまだ無いのです。木工ギルドを設立する事から始めますのでご助力願います」


「おお! 勿論じゃ」


「こちらで建物や住居を準備しようかとも思いましたが、どうせなら指導して頂きながら建築した方が良いと思いましてまだ手をつけて無いのです」


「賢明じゃな。すぐに取り掛かろうぞ」


「宿泊は宿屋にどうぞ。荷物はこちらで運んでおきます」


「で、木工ギルドはどの辺りに建てれば良いかの?」


「ここの隣りにお願いします。お弟子さん達の住居はその近くがよろしいかと思いますが」


「「「 い、一等地じゃないか !! 」」」


 弟子達から驚きの声が上がった。通常、ギルド協会の周辺は超がつく程の一等地だ。


「皆、修業の成果を思う存分発揮し領主様の期待に応えねばならんぞ! その技術を伝える事も忘れるな!」


「「「 はい! 先生!! 」」」


「工房は自由に使って貰って構いません。必要な物が有れば工房の者か私に言って下さい」


 ラモットさんを中心にさっそく作業が始まった。その様子を遠くからレザムールズ領の大工達が眺めている。


「ラモットってあのラモットか?」


「どうもそうみたいだぞ!」


「マジか! 俺も弟子にしてくれないかな?」


「無理に決まってるだろう!」


 僕の近くで大工達がそんな話をしている。


「そんなに凄いんですか?」


「ああ! 伝説の木工職人だぞ!!」


 木工職人なら知らない人はいない様な人なんだってさ。その弟子でも自分達より遥かに上のレベルらしい。


「ミンフィーは指導してもらう為に呼んだと言っていたから教えてもらえるんじゃないかな」


「「それマジか!?」」


 大工達が一斉にラモットさんの所に群がり出した。


「うーん。これじゃあ他の建築が遅れちゃうよ……」


「いいじゃない」


 ミンフィーが隣りに来て大工達を見守っている。


「どんどん学んでその技術を磨いてくれるなら、少しの遅れなんて痒くもないわ」


 後日、エドワード領から買った家具が東砦に届いた。それは建築中の南砦へ運んだ。

 東のエドワード領とはまともな商売は出来そうもないので南の領地と商売する予定なんだってさ。


 これでしばらくエリザベートが大人しくなるだろうね。



 〜 ギルド レザムールズ 会議室 〜


 ホクト、シャバニ、ティアナの政庁首脳陣が集まって今後の方針を検討していた。


「今回の木工職人はラッキーだったな」


 シャバニは大工達の技術力が驚く程急激に伸びていると報告を受けていた。


「アイリスには人材発掘の才能があるのかもしれんな」


「同じ事を各生産ギルドで行わないといけません」


「鍛治、裁縫、革、錬金ってとこか?」


「大まかに言えばそうです。工房の技術力も少しずつ伸びていますが指導者がいませんので……」


「俺は独学だからな。教えるのは得意じゃないんだ」


「私が……私が錬金ギルドを担当します!」


 ティアナが少しずつ変わろうとしていた。


「ほう……いいのか?」


「なるべく目立たない様に工夫して活動すればいいかと」


「錬金術は任せるか……後は探すしかないな」


 見つかるまではシャバニが担当する事になった。工房の中から錬金術が得意な者を選定して錬金ギルドが創設された。男性中心の木工ギルドに対して錬金ギルドは女性中心だ。


 〜 レザムールズ領 商業区 〜


 木工ギルドは2日で完成してしまった。その建物はやけに豪華だけどミンフィーは構わないと言っていた。

 次に錬金ギルドが同じ様に2日で完成した。女性が多いと聞いた大工達がお洒落な建物にしてくれたのでティアナも大喜びだよ。

 更に鍛治ギルド、裁縫ギルド、革ギルドが作られた。まだ使用予定は無いけどいつでも使えるらしい。

 どの建物も素晴らしい出来だった。しかも建築スピードがどんどん増していて工期も短縮されたみたいだ。


 本当に人は宝だった……


 ミンフィーの言っていた事は少しも大袈裟では無かった。

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