第108話 ドリルアタック

 無駄に豪華な屋敷で1人イライラしている娘がいた。その名はエリザベート。今日もレザムールズ領に行かせた使者からいつもと同じ報告を受けた。


「ミンフィー様は出稼ぎに行って不在でした。食料不足なので人的支援を受けれる状況ではないとの事です」


 本当なら食料とセットで貧民を押し付けて、他領の領主から金を受け取りたい。でもその食料が自領にも無いのだ。貧民の多くが農業に携わっていた。農夫が減ったのだから食料生産力も落ちるのは当然の事だ。


「きっとミンフィーは食料を買う為に出稼ぎに行っているのね! 健気なことですコト! 仕方ないわ。増税よ!!」


「つい最近、増税したばかりです……これ以上は無理かと」


「来月には王都で舞踏会があるのよ! 新しい髪飾りとドレスが欲しいのよ! 何とか金を稼ぎなさいよ!!」


「む、無理です……お許しを……」


 エリザベートが部下を激しく叱責し始めた。こうなったら誰にも止める事が出来ない。


 エリザベートはヒステリーを起こしながらも考えた。


 レザムールズ領には多額の予算が国から出ているはず。


 まだまだ金はあるはずよ!!


「直接、交渉に行くわ! そうミンフィーに伝えなさい!」



 〜 ギルド レザムールズ 会議室 〜


 会議室に全員が集まりエドワード領から届いた書簡への対応を協議していた。


「エリザベート嬢が来るのは厄介だわ。偽装した村を見抜かれる可能性が高いわ」


 ミンフィーは一度、彼女と会っているからね。僕もミンフィーと同意見だ。あの意地悪そうな女ならおかしいと思うはずだ。簡単に騙される使者とは違う。


「シャングリラはまだ隠しておいた方がよろしいかと思います。もしエリザベート嬢に見つかったら全力で奪いに来ると思われますので……」


 ホクトさんの言う通りだね。アイツはそういうヤツだよ!


「舞踏会に出掛ける資金が欲しいらしいぞ」


「はあ? そんな事?」


「確かな情報だ。それで2度も増税しているそうだ」


「……レザムールズ領は疫病が蔓延していると噂を流しましょう」


 ティアナが珍しく発言したよ。今までは黙っている事が多かったんだけどね。


「ほう……だがそれだけで諦めるとは思えんが?」


「必要なのはお金です。あそこはここと同じ辺境領なので林業が盛んです。優秀な木工職人も多いはずなので家具を買いましょう。職人を招聘出来たらなお良いのですがさすがに手放さないでしょう」


「いや。分からんぞ……良さそうな職人を探しておこう」


「それなら私がエドワード領に行きましょう」


 アイリスが立候補してくれた。吟遊詩人のアイリスも諜報活動が上手だからね。


「各地を回って埋もれた人材を見つけます。有名な職人は渡さなくても無名の者なら……」


「アイリスに任せるわ。ただし、腕が良ければそれで良いという訳ではないわよ?」


「はい。レザムールズ領に合った人材をって事ですね」


「ところで行きたいわけではないけど、私に舞踏会の招待状が来ないのはなぜかしら?」


「調べておこう……」


 なんかちょっとミンフィーが怖いので今日の会議はここまでだね!



 〜 エドワード領 小さな村 〜


 エドワード領の何処に行っても人々の暮らしは厳しそうだった。活気に満ちているレザムールズ領とは雲泥の差だ。


 ポロロン……


 アイリスの竪琴が美しい音色を奏でても虚しく響くだけだった。でも酒場は賑やかだ。みんな口々に領主の悪口を言っている。


「詩人さん。その楽器を見せてはくれんかの?」


「ええ。いいですよ」


 年老いた老人はアイリスの竪琴を懐かしそうに見つめている。


「これはワシが作った物で間違いないの〜」


「ええ!? この素晴らしい竪琴を貴方が?」


「うむ。昔、王都の木工ギルドで楽器を沢山作ってなあ〜。その時に作った物で間違いないの〜 失礼じゃが王族の方かの? これはそこらの者が持っとる物ではないぞ?」


「……いえ。これは母の形見です」


「そうか……まあ王族から下賜される事もあるしの」


「王都の木工ギルドに勤めていた様な人が何故こんな田舎にいるんですか?」


「元々、この地の出身での〜 弟子の育成の為に遣わされたのじゃが……もう必要無いと言われて隠居生活じゃ……まだまだ元気で頑張れるんじゃがの〜」


 アイリスが母から聞いたのはこの竪琴は名品中の名品という事だけだ。まさか王族が使う様な代物だったとは……


「隣りのレザムールズ領は多くの人材を求めています。貴方の様な有能な技術者を特にです」


「ほう……しかしおぬしはさっきまで疫病が蔓延して酷い状態だとみんなに話していたのではなかったかの?」


「貴方が行けば疫病は消えます……」


「それは不思議じゃの〜 よいよい。この年で面倒な事には首を突っ込みたくないわ」


「多くの若者達が指導を必要としています」


「まあ正式に声が掛かれば行くよ。ないじゃろうがな」


 アイリスがレザムールズ領を思い浮かべながら竪琴を弾き始めた。


 みんなが明日への希望に満ち溢れ、安心して暮らしいける希望の都市「シャングリラ」を……


 この曲の名もシャングリラ。


「良い曲じゃ……昔のエドワード領を思い出すの〜」


 老人は静かにアイリスの演奏に耳を傾けて古き良き故郷を思った。

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