第105話 渦
東砦の奥には厳重に警備された関所がある。僕がおじいちゃんを背負って門の前に行くとゆっくりと門が開いた。その奥に見えるのは森の中へと続く細い小道だ。
でも一歩、門の中へと足を踏み入れると……
小道が突然、石畳みの舗装された幅広の道に変貌する。そこを足早にしばらく進むと城壁が見えてくる。
小都市 シャングリラの外壁だ!
僕が近づくと城門が自動で開く。その中に入ると一面の畑が広がっている。ここは農耕エリアだ。更に高い城壁が農耕エリアの先にあり、そこが商業と居住エリアになる。
病院には教会も併設されている。責任者は栞さんだね。栞さんは聖心教会にレザムールズ区が追い出された経緯もあって教会はいらないと言ったんだけど、ミンフィーは関係無いと言って一蹴してしまったんだよね。
「栞さん。長旅で体調を崩した人を連れて来ました」
「はい。そこのベットへ」
ここの病院では栞さんから治癒魔法を受けれる。建築工事で怪我をした人なんかもここで治療を受けているよ。
「もし普段飲んでいる薬があったらここでもお渡し出来ますよ? 何か飲まれていますか?」
「腰痛の痛み止めを飲んでいましたが……最近は高いしお金も無いので買えていません」
「では痛み止めを処方しておきますね。飲んでも痛みが出る様ならまた来て下さいね」
今のところは薬も無料だ。生活物資、食料品も配給制で全て無料だよ! 都市が機能し始めるまでは全て無料なんだってさ。その代わりに報酬無しで働いてもらうけどね!
エドワード領から来た人達の総数は106名だった。この人達はある程度、希望に沿った仕事に就いてもらう。けど、どうしても建築関連の人員が足りないので多少は我慢してもらう必要があった。
〜 レザムールズ領 森林エリア 〜
ホクトとティアナ、ニャンタは広大なレザムールズ領森林エリアを探索していた。
大きな湖と豊かな自然、それだけでこの場所が良いと判断した訳では無いそうだ。
「ここには何かがあるはずです」
最近、ようやく探索に時間を使える様になった。生活基盤を整える事が最優先だったのだ。
「ニャーゴ!!」
ニャンタが何かを見つけた!
「廃坑でしょうか……」
ひどく崩れているが何か入口らしき物がそこにはあった。
「中に入ってみましょう」
崩れた木材を取り除いて中へと進んでいく。中は入口ほど損傷していない様だ。でもやけに薄暗い……少し進むと大きな赤い扉があった。その扉には豪華な装飾が施されている。
「ダンジョンの入口かしら……」
「やはり有りましたか……」
「ホクトさん、これが何かご存知なのですか?」
「恐らくですが古代迷宮の入口でしょう」
「ニャ!!」
現存するダンジョンのほとんどは高位の魔術師等が作った人工の物だ。
「古代迷宮は作った術者が死んでも消えないダンジョンです。その中には既存のダンジョンでは遠く及ばない位の財宝が眠っているとされています」
「そんな物がこんな辺境にあったなんて!!」
「これも星々の導きでしょう……」
「今、中に入るのは危険ね」
「はい。初見は特に危険です。最低でもBランク冒険者のパーティーで臨むべきでしょう」
「この迷宮を上手く活用したらレザムールズ領は……」
「大都市、いえ王都にも負けない都になるかもしれません」
「大変な事になりましたね……」
「ティアナさん。貴女の力が必要です。決断の時が来たのでしょう」
ホクトがティアナとニャンタを静かに見つめた。
「あなたは何かご存知の様ですね……」
それにはホクトは答えない。
「行政長官は私ですが補佐としてその力を発揮しませんか? それなら目立つ心配も少ないでしょう」
「レザムールズを中心に物事が大きく動き始めている」
ニャンタが普通に若い男性の声で喋った。
「それは少しだけ違うわ……その更に中心にミンフィーさんとモッシュさんがいる」
ティアナがニャンタの考えを少し修正した。
「ミンフィー様はあくまでご自身の為に動かれています。それが領民の為になっているのですけどね。私は全ての中心はモッシュさんだと思っています」
ミンフィーの行動基準は自分の為になるかどうかだった。ネズミの駆除に始まり、野菜作りもそうだった。
『しっかりと栄養を取って自分の為に働いて欲しい』
だから農業にも積極的に取り組んでいるのだ。その彼女が領主になった。
『領主の為にしっかりと働ける環境を整える』
それが今の彼女の考えだ。その事は多くの時間を共に過ごしてきたギルド レザムールズのメンバーはよく分かっていた。みんなその考え方を決して悪いとは思っていない。ある意味、当然の考え方だからだ。
王の為、神の為、領主の為、家族の為、自分の為……
みんな何かに為に生きているのだから……
モッシュはどうだろうか?
『ギルド レザムールズをSクラスにする』
それが彼の目的だった。その目的が無ければミンフィーはここまで動かなかっただろう。
『ミンフィーが自分以外の事で唯一動くのがモッシュの為』
モッシュの為にミンフィーが動くと事が加速してしまう。そんな様子を今まで何度もギルドメンバーは見てきた。
そして何故か……
『 善良な人達が報われる 』
ティアナとニャンタだけではなく、関わってきたメンバー全員が決断が求められていた。
この巨大な渦の中で自分がどう動いていくのかを……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます