第104話 地獄の番人

 〜 エドワード領 伯爵の屋敷 〜


 贅の限りを尽くした伯爵の屋敷にミンフィーと僕はやって来た。


「伯爵様。レザムールズ領ミンフィー様が謁見を願い出ています」


「うむ。通せ」


 ミンフィーはとても質素なクリーム色のドレスを着ていた。こんな地味なドレス持ってたんだ……僕はこういう時に着るいつもの黒いスーツだね。ミンフィーの従者としてついて来た。


「伯爵様。ご挨拶に伺うのが遅くなり申し訳ありません。レザムールズ領主ミンフィーです」


「うむ。若いな。私がエドワードだ。隣りにいるのは我が娘のエリザベートである」


 エリザベート嬢はミンフィーを上から下まで舐める様に見てフンと鼻で笑った……


「エリザベートよ。よろしくね」


「エリザベート様。噂通りのお美しさですね。お着物もとても綺麗で羨ましい限りです」


「フン! 当然でしてよ!」


 ミンフィーの方が100倍綺麗だぞ!! それに何だ! あのドリルみたいな髪型は! ちょっと話しただけで嫌な奴なのが丸わかりだ!


「今日来て貰ったのは他でもない。開発が思う様に進んでいないと聞いてな。国からレザムールズ領を支援する様に指示されているのだ。私の優秀な領民達を支援に出そうと思ってな」


 スラム街に住んでいる人達がまともな扱いを受けていない事は知っているぞ……


「聡明なエドワード伯爵からご支援して頂けるとは光栄です。ですが……そんな大事な領民を頂いてもよろしくのでしょうか……」


 ミンフィーが遠慮がちに言うとエリザベートが前に進み出てきた。


「本来ならとても渡せる者達では無いわ。でも未だに村の様な所に住んでいるのでは国の面子は潰れよ。あなたも貴族になったのだから何とかしないといけないわ。ここは伝統ある我がエドワード家の支援を黙って受けなさい!」


「承知しました。エドワード家のご慈悲に感謝致します」


 ミンフィーが深々と頭を下げた。僕も一緒に頭を下げてみた。茶番過ぎてどうでもよくなってきたんだけどミンフィーが頭を下げたしさ……


「人員はもう選定してあるわ。馬車ごと差し上げるから早く連れて行きなさい」


「迅速なご支援に感謝致します。これで何とか開墾を進める事が出来ます。本当に有難うございました。こちらは感謝の品です。どうかお納め下さい」


 僕は用意していた箱を差し出した。それを召使いが受け取って中身を確認し、エドワード伯爵に耳打ちした。


「ほう……ミンフィー殿は中々話が分かるお方のようだ。今後も最大限の支援を約束しよう」


「感謝致します。では失礼します」


 ふぅ……あんな奴に何でここまでするんだよ……


 あれが貴族なのか……鈍器でぶっ叩いてやりたいよ……


 屋敷を出ると馬車の荷台にギュウギュウ詰めにされた人達がいた。馬車は6台もあった。


「あなた達がレザムールズに来て下さる方達ね。私はレザムールズ領主のミンフィー。Bランクの冒険者でもあるわ。間違っても逃げようなんて考えないように。命は大事よね?」


 馬車に乗せられている人達は顔を真っ青にしている。


「ちなみ従者のモッシュもBランクの冒険者よ。あんな顔をしているけど地獄の番人 狂犬モッシュと呼ばれているわ」


 馬車に乗せられている人達は震え上がっているよ……


 本当にこんな事を言わないと駄目なのかな……


「俺は女、子供にも容赦しね〜ぞ! 大人しく馬車に乗っている事だな! そうすれば手は出さないでおいてやる!」


 はぁ……やだな……


 こうしないと逃亡する可能性があるんだってさ。この人達は奴隷として売られたと思っているらしい。


 エストアール王国で奴隷は禁止されているけどね。


 レザムールズ領に向かって馬車が出発した。エドワード領からも監視の兵士達が付き添っている。


 やっぱり領地に入るまで我慢してもらうしかないな……


 監視兵はしっかりとレザムールズ領東砦までついて来て馬車を睨み続けていた。


「お勤めご苦労様でした。無事に到着したと伯爵様にお伝え下さい」


「うむ。では我々はこれにて失礼するが最後にエドワード領民に伝えておく。逃げ帰って来てもお前達の住む所は無いからな! もし見かけたら死罪だぞ!」


 分かったから早く消えてよね……


 監視兵が帰って行くのを見届けからフェン達が馬車に乗った領民達を案内し始めた。


「長旅ご苦労様でした。とりあえず名簿を作りたいので協力をお願いします。終わった方から食事にして下さい。向こうに準備してありますので!」


 フェンの指差す方に食事がある様には見えないけどね!


「ちゃんと家族毎にテントを用意するから安心しなさい。それと綺麗な衣服を準備してあるから着替える様に。お風呂にも入ってもらうからそのつもりで」


 ミンフィーが大きな声を出しているけどその声にはさっきみたいな怖さは無い。とても優しい口調で語りかけている。


「もし体調が悪い人がいたら言って下さい。僕が病院へ連れて行きますからね」


「び、病院なんて何処にも無いじゃないか!」


「ここには無いけど確かにあるわ。安心なさい。さあ早く行動して。せっかくの料理が冷めてしまうわ」


 ミンフィーに言われるとみんな半信半疑で動き出した。僕の所にお年寄りを連れた家族がやってきた。


「おじいちゃんが体調を崩してしまって……」


「分かりました。僕が背負って病院へ連れて行きますよ」


「地獄の番人様がですか?」


「それは嘘ですよ。そんな風に見えないと思うけど……」


 見えたらとてもショックだよ……


「そうですね……確かに弱そうです!」


 ぐっ……それもどうなんだろう……


「とりあえず応急処置でこのポーションを飲んで下さい。後は聖心教会病院で治療してもらいますので安心して」


「聖心教会病院!? そんな所で治療を受けても払うお金がありません!」


「え? お金なんていりませんよ? 誰でもタダですから」


「「はい!?」」


 ここで話をしていてもしょうがない。


「治療が終わったらお連れしますのでまた後ほど」


 おじいちゃんを背負って病院へと向かうよ!

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