第103話 占領

 〜 レザムールズ ギルドハウス 会議室 〜


 情報収集に出ていたシャバニさん達が帰って来た。


 辺境のレザムールズ領の東には辺境領、エドワード伯爵領がある。シャバニさん達が集めた情報によると西の魔女を恐れた伯爵が有力な冒険者ギルドの派遣依頼を国に求めたらしい。それが目覚ましい発展をしていたレザムールズ区に目を付けた聖心教会の思惑と合致して今回の移住案になったのが事の真相だそうだ。


『レザムールズ領は西の魔女とエドワード領との間にある単なる緩衝材に過ぎない』


「伯爵領はどんな感じ何ですか」


「住民達は重税に苦しんでいるな。集めた税はわがままな伯爵令嬢が贅沢三昧な暮らしをするのに使われているそうだ」


 シャバニさんが新しくなったギルドハウスを満足そうに見回しながら教えてれた。


「スラム街の住民をこちらに押し付ける算段のようだぞ。そろそろ動きがあるだろうな」


「開発が進まない様だから人的援助をしてやるってとこね」


「まあそんな感じだろう。どうする?」


「人手が足りないのは事実よ。有り難く頂いておくわ」


 ミンフィーがいち早く取り組んだ農地では作物が実り始めていた。食料は問題無く確保出来そうだね。

 伯爵領への対応を協議して会議は終了した。


「そうだギルマス。俺が呼んだ大工達が家族を連れてここへ移住したいと言っているんだがいいか?」


「こちらはいいけど移住には国の許可が必要よ。技術者の移住は許可があまり出ないと聞いた事があるわ」


「その辺は俺が何とかしよう」


「……どうやるかは聞かないでおくわ」


 

 〜 レザムールズ領 東砦 〜


 村の偽装をしているレザムールズ領の東砦に隣りの領地から使者がやってきた。

 砦を守備する責任者のフェンが対応する。


「私はエドワード領から来た使者だ。新たにに着任されたミンフィー様へ我が領主からの伝言を伝えに来た」


「それはご苦労様です。申し訳ありませんが領主のミンフィーはダンジョンに出稼ぎに行っております。伝言は私が伝えておきます」


「ははは! 領主が出稼ぎだと? 新進気鋭の冒険者ギルドと聞いていたが領地運営は上手くないようだな」


「ご覧の通りです……」


 使者が見ているのは貧しい村に偽装した砦だけどね!


「まあ良い! エドワード伯爵からの伝言だ。国からの要請で援助をするから1度、こちらに顔を出す様にとの事だ」


「承知しました。近日中に伺わせます」


「うむ! 確かに伝えたぞ!」


「ははあ〜〜」


 フェンが大袈裟に頭を下げると使者は上機嫌で帰途についた。



 〜 エドワード領 領主の屋敷 〜


 使者から様子を聞いたエドワード伯爵は笑いを堪えるのに必死だ。


「ククク! 所詮は冒険者風情と言う事だな!」


「ええお父様! わたくしの計画通りですわ! このまま汚らしいスラム街の貧民共を押し付けて差し上げましょう!」


 金髪をドリルの様にグルグル巻きにした伯爵令嬢エリザベートも笑いが止まらない!


「これが上手くいったら次の計画も進めましょう」


 エリザベート嬢は極悪の微笑みを浮かべて父親に進言する。


「ゴミ共を押し付けて金が貰えるんだから笑いが止まらないな! さすが我が娘だ!」


「フフフ! 当然でしてよ! 既に近隣の都市とは話がついていますわ!」


 スラム街を抱える領主から金を貰って貧民達を引き取り、レザムールズ領に押し付ける計画だ。


「これは国から要請された人的支援ですわ!」


「その通りだ我が娘よ! 我々は国の指示に従っているのだから何の問題も無いのだ!」


 確かに国からは人的支援をする様に命令出ていた。それを逆手に取って不要な貧民を排除する魂胆だ。

 エリザベート嬢はこういった悪略を練る事だけは超一流だった。その悪略は常に領民を苦しめるものであった。



 〜 聖都 セントフォース 〜


 聖都 セントフォースではレザムールズ区民が退去した場所に聖心教徒達が転入して来ていた。聖心教会へ多額の寄付をした者達だけが転入を認められる。

 冒険者ギルド協会にも各地から聖心教徒が集まってきて表面的には活気があるように見えた。

 

 裏では……


 聖心教徒では無い者達は徐々に肩身の狭い想いを抱く様になってきていた。本来はあまり認められない他の都市への転出も聖心教徒以外の者は容易く認められるので転出する者が続出していた。

 そんな中、旧レザムールズ区の近くで暮らしていた者達は冒険者ギルド協会支部にいるミシェルの所に「レザムールズ領へ一緒に連れて行って欲しい」と相談しに来る者が少なからずいた。


「ミシェルさん。来月にはレザムールズ領へ出発するんですよね。俺達のパーティーはモッシュさんのアドバイスに何度も助けられました。あの人がいる所なら行ってもいい。ぜひご一緒させて下さい!」


「また猫ちゃんから助言を貰いたいわ。あの猫ちゃんの言う通りにすると不思議と上手くいくのよ」


 ミシェルは既にミンフィーにこの事は伝えていた。そしてミンフィーから指示も受けていた。


「受け入れには条件があるのよ。それを守れる人だけ一緒に連れて行く事ができるわ」


「「 何ですか! 」」


「領主のミンフィー様はとても綺麗好きで有名だわ。身の回りを清潔にする事を領民にも徹底しているのよ」


「確かに異常なくらい住民達は清潔にしていたな……」


 レザムールズ区内にはゴミ1つ落ちていなかったからね。


「レザムールズ領で暮らしたいなら領民達と同じかそれ以上に清潔にする事が条件よ」


 決して守れない条件では無いよね。多くの者達が条件を了承して移住の手続きをした。


 もうこの都市に聖心教徒では無い者の居場所は無い。みんな何処かへ移住しないといけなくなるのは明らかだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る