第100話 寝る子を起こす

 国内では無名のギルドがBクラス昇格試験を初挑戦でクリアしたのはちょっとしたニュースになった。

 冒険者達の間で特に話題になったのはレザムールズのパーティー構成だった。


「モンク、テイマーとウォーウルフ、魔剣士、シーフ 、黒魔術師、吟遊詩人に白魔術師それに魔猫とサポーター1名だってさ」


「マイナージョブばかりだぞ? そんな構成でどうやってクリアするんだ? 盾役いないじゃん」


「サポーターが盾役だって噂だな」


「はぁ?? ありえね〜〜」


 一般の冒険者達はこんな感じだが、サポーター達の間では全く違う事が話題になっていた。


「2泊3日分の物資を1人で運んだらしいぞ」


「サポーターがパーティーのリーダーで盾役らしいな!」


「シャングリラで店をやっているって噂だ」


「それサポーターか?? さっぱり分からね〜〜」



 ギルド『レザムールズ』のメンバーはクルミを除いて全員Bランクに昇格し、ギルドもBクラスになった。

 


『モッシュはサポーター初のBランク冒険者になった』



 エストアール国内においてはC、Dランクの冒険者は数が圧倒的に数が多い。その内訳は何とかしてBランクにまでは上がりたいと思う者とその日暮らしで今のランクに満足している者とに分かる。

 サポーターでも努力次第でBランクまで上がれるというのは少なからず衝撃であった。


 

 〜 レザムールズ 総合店 〜


 昇格試験ダンジョンをクリアして以来、総合店は連日大盛況だった。ここに来れば店長のモッシュからアドバイスが貰えるからである。

 今日も全国各地から多くのサポーター達が店を訪れている。多くの者がキャンプグッズとホルダー類を購入し、ミシェルが支部長を勤める冒険者ギルド協会支部を見学するのが『サポーターの聖地巡礼』と呼ばれていた。


「モッシュさん、サポーターでも強くなれますか?」


「もちろんなれるよ。最近はサポーターだけで構成されるパーティーもあるからね」


「ええ!? サポーターのみですか??」


「うん。Cランクまで上がったパーティーも増えてきたよ。募集も多いからパーティーに参加させてもらえばいいよ」


 他の地域では認知されていないけど、ここ『シャングリラ』ではサポーターでも戦えるのは常識になりつつあった。

 以前みたいに荷物を持つだけのサポーターを探す方が難しい状態だね。


 

 〜 ギルド レザムールズ ハウス 〜


 多くの冒険者がシャングリラに訪れ、ウチの店で買い物をしてくれるのでレザムールズ区は活気に満ちていた。

 一方で最近のミンフィーはどこかおかしい。いろいろ忙しくて大変なんだろうな。

 今日はミンフィーから話があるそうなのでメンバー全員がロビーに集合していた。

 ミンフィーが暗い表情でロビーに入ってきた。


「重大発表があるの……」


 どうしたんだろ? かなり深刻みたいだ。


「ここシャングリラはセントフォースという名に変わるわ」


「「セントフォース……」」


「でもシャングリラは残るのよ。レザムールズ区を移転させる形でね……辺境地に行く事になったの」


「「「 えええ!? 」」」


「私は辺境伯として貴族になるそうよ……」


 平民のミンフィーが貴族の仲間入りだって!? 凄いじゃないか!


「お、おめでとうなのかな?」


 スラム化寸前の貧民区を再建した手腕を買われたそうだ。


「ようやく区内が安定してきて、これからなのにまた移転なんて……さすがの私も今回はキツいわ……しかも辺境地なんて……」


 シャングリラは辺境の小都市として新たに建設される。各地から住民を移住させるそうだ。


「問題は場所よ……エストアールの西側と決まったわ」


 西の魔女に対抗する最前線都市になるんだってさ。


「どこかの都市がベースになるんじゃないの?」


「今は全くの荒地よ……ゼロからの出発だわ」


 ミンフィーは辺境伯として新都市建設の全権を任されているらしい。予算もそれなりに貰えるそうだ。


「もしここに残りたいならこのギルドを残る人達に譲るわ」


「ミンフィー……僕は当然一緒に行くよ!」


「ありがとうモッシュ……みんなはよく考えて決めてね」


 みんなすぐには決めれないみたいだ。


 当然だよね……


 レザムールズ区民の移住は決定事項だ。国からの命令なので逆らう事は出来ない。区民はみんなミンフィーを慕っているからどこでも喜んでついて行くだろう。


「ひとつ聞きたい。移住してここはどうなる?」


 シャバニさんが落ち着いた口調でミンフィーに問いかけた。みんな移住先の事ばかり気にしていたよ。


「今のレザムールズ区には各地から聖心教徒が移住してくるそうよ……」


「ほう……前回の区画整理はまだ理解できたが……これは略奪だな」


 そうだ……苦労に苦労を重ねてようやくここまで来たんじゃないか! 建物も畑も全て奪われてしまう。代わりに荒地を自由にしていいって言われても納得出来ないよ!!


「静かに眠らせてくれればいいものを……」


 シャバニさんが何を言いたいのかは分からないけど……今までとは全く雰囲気が違うのだけは分かる。


 ヤバいぞ……かなり怒っているみたいだ……


「残るのは可能性があるのは店舗だけってことだな。あそこはレザムールズ区外だ。資金調達の為に絶対残すべきだ」


 シャバニさんから静かな怒りが伝わってくる。店を残す事だけ提案して後は黙って話を聞いているけど……


 眠っていた転生者を起こしてしまったようだ。

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