辺境のお嬢様

第101話 貴族のお嬢様

 辺境への移転をギルドメンバーに発表したその夜。全てのメンバーが同行する事を決心してくれた。


 ダンジョンへの挑戦は一時中断して、移住の準備を進める事にした。

 まずは与えられた領地の何処に拠点を設置するかを決めないといけない。これは風水にも通じているホクトさんが担当してくれる。早速、ペガサスに乗って現地へ向かってくれた。

 シャバニさんとアイリス、クルミは情報収集に出た。他のメンバーは店の営業と移転の準備をする。


 

 僕は総合店の店員を育成しないといけない。レザムールズ区は無くなってもこの店舗は残る。代わりの店員はシャバニさんが探してきてくれた。あくまで店長は僕のままでいくんだってさ。


 しばらくして移転計画の全容が発表された。


 領主は当然ミンフィーだね。行政長官はホクトさん、都市防衛担当はフェンとティアナ、目玉はギルド協会長としてミシェルさんが来てくれる事だ。ミンフィーが国に要望した人材はミシェルさんだけだ。

 シャングリラは小都市として整備される予定なので当然冒険者ギルド協会は必須だ。ミシェルさんが有能なのは分かっているので冒険者ギルド長と商業ギルド長を兼務してもらうんだってさ。


「小都市なんて名ばかりではっきり言って村よ……」


 ミンフィーは表面的には落ち込んで見えるけど実は違う。辺境地に行けば国からとやかく言われる事はほとんど無いそうで好き放題に出来るらしい。


「……ごめんね。Sクラスギルドは遠ざかってしまったわ」


「まだこれからだよ。僕は全然諦めてないよ」


「私もよ。私達を切り捨てた事をきっと後悔するわ」


 ギルドハウスのロビーに全員集合した。ホクトさんから移転計画の説明がある。

 テーブルの上に領地の地図が拡げられた。そこにはギッシリと書き込みがされている。シャングリラの移転候補地も書き示されていた。

 それは領地の西側だった……そこは道も無い未開拓地らしい。


「領地には人が住んでいないので道などありません。まず東側に仮拠点を築いてそこから本拠地の開発をしましょう。ただし……対外的には仮拠点が『シャングリラ』という事にして下さい」

 

「もう2度と積み上げた物を奪われない為にも私達は更に力をつける必要があるわ。自己防衛も重要ね」


 必死に開拓してまた奪われるなんて御免だからね。


「本拠地はかなり西側ですね。西の魔女が脅威なのでは?」


 ティアナが地図を見つめてホクトさんに尋ねた。


「西の魔女は国の重要拠点を狙っています。逆に辺境地は相手にしていませんので安全です。占いによるとこの地に移住する事は『大吉兆』と出ています。素晴らしい土地のようです」


 まずギルドメンバーが先発隊として現地に行き、レザムールズ区民の受け入れ準備をする事になった。

 最初に出発するのは僕とミンフィーだ。


 

 〜 レザムールズ領 〜


 ミンフィーとペガサスに乗って新たな領地へと向かった。そこは見渡す限りの森林だ。とても人が住む場所には思えない。仮拠点にする場所には小さな旗が立ててあるらしい。ペガサスはとても頭が良いので勝手に向かってくれるそうだ。

 

「少しだけ平地があるわ。あの辺りじゃないかしら」


 ミンフィーが指差す方を見ると小さな湖と平地が見えた。ペガサスがその平地に降りると目印の旗があった。

 ここにテントを張って宿営地にするんだね。


 テントを設営したらすぐにミンフィーは畑作りに取り掛かった。僕には別の役割がある。


 『塩と砂糖、飲み物製造』が僕の役目だ!


 スキル『 飲み物 』を最大限活用する事にした。塩水、砂糖水を煮詰めれれば簡単に作れるからね。しかも結構稼げちゃうんだよね! ミルクもお酒も作れる物は何でも作る。後はシャバニさんが捌いてくれる。


 今までは禁じ手だったんだけど手段を選んでいられない。これから辺境地を開拓していく上で重要な資金源になる。


 次にペガサスに乗って来たのはフェンとスノウだ。到着してすぐに周辺の索敵に出た。

 夜にはザリウスが到着した。ザリウスは木工が得意なので仮設住居を作ってくれる。


 真夜中になってもペガサスは飛び続けている。今度はシートに包まれた巨大な荷物を吊り下げて飛んできた。


「これが例のアレか……」


 シャバニさんがホクトさんに依頼してゴラス帝国から手に入れた物だ。


「ああ。朝まであと3体くる事になっている」


 ザリウスがシートを外して中身を確認している。


 ゴラス帝国製の魔導ゴーレムだ。ゴラス帝国で見た物と違う点は攻撃能力が無く開墾専用だという事だ。動力は魔力なんだってさ。


「さっそくやってみるか……」


 ザリウスが腕輪を装備して魔導ゴーレムに触れると腕輪と魔導ゴーレムが白く光った! そしてザリウスの指示に従って木を引き抜き始めた。


「凄いパワーだね!!」


 魔導ゴーレムは木を根っこから引き抜いている!!


「ああ。魔力の消費も思った程じゃないな」


 そんなに動きは早くないけどパワーはあるみたいだ。


「よくこんな物を手に入れたわね……」


 シャバニさんとホクトさんがあらゆる手段を用いて暗躍しているらしい。


「ゴラス帝国と取引してはいけないという決まりは無いから問題ないそうだ」


 引き抜いた木をザリウスが加工して丸太にする。さすがにこの作業は魔導ゴーレムには出来ないみたいだ。


「これは魔力を鍛えるのに最適だ。最近は魔力が枯渇する事も少なかったからな」


 限界まで魔力を消費して回復するのを繰り返すと魔力の総力が少しずつ上がる。

 ちなみにこの魔導ゴーレムを動かせるのは黒魔術のスペシャリストであるザリウスだけだ。

 魔猫がこの魔導ゴーレムを使おうとすると爆発するらしい。

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