第98話 基本は大事

 〜 Bクラス昇格試験ダンジョン11層 〜


 全20層のダンジョンなのでちょうど中間まで到達したことになる。

 下へと続く階段を降りていく途中で明らかな変化があった。これまでオーソドックスな洞窟タイプのダンジョンだったのが一転して石造りのダンジョンになったのだ。

 僕達は立ち止まった。


「少し装備を変えるわ」


 ミンフィーが『鉄の爪』を装備した。打属性メインのモンクが突属性や斬属性の攻撃をする為によく使用する武器だ。


「ミンフィーが爪を装備するの初めて見たよ」


「ここからが本番みたいだわ。みんなそろそろ本気を出していいわよ」


 みんな装備を変更し始めた。今まで本気じゃなかったのか……僕はずっと本気だったよ……

 僕は敵対心UPの飲み物を飲んだ。これ位しとかないと敵からの攻撃を引き受ける盾役を担えなくなりそうだからね。


 第11層に到着した。綺麗に整った石畳の地面と壁、天井はとても高い。


「いかにも超大型の魔物が出そうな雰囲気だね」


「もう見えてますよ。単独みたいです」


 先頭を行くクルミが前方を指差している。


「巨人……サイクロプスか……」


 身長5メートル位の単眼の巨人だ。恐ろしい程の怪力で非常にタフな魔物らしい。もちろん戦った事は無い。

 サイクロプスは立ったままで動こうとはしない。その大きな単眼だけがこちらを睨みつけていた。キョロキョロと目を動かして僕達を見ている。武器は持っていおらず素手で戦うみたいだ。


「行くよ!!」


 いつも通りに僕が先制攻撃を仕掛ける! サイクロプスは僕を踏みつけようと足を上げた。僕は盾を前に出して防御態勢だ。


「こい!!」


 敵の動きはそれ程早く無いので楽に回避出来そうだけど、敢えて盾で受ける事を選択したんだ。


 ドン! 


 サイクロプスが僕を踏みつけ、凄まじい衝撃が左腕に伝わった。


「ぐっ……」


 踏ん張って少しずつ押し返す! そして右手に持ったミョルニルで隙だらけの足をぶっ叩いた!!


 ズドォーーーン!


 サイクロプスは仰向けに転倒した。追撃はせずに様子を見る。寝転がった敵が暴れると予測出来ない攻撃がくる。立っている敵の方が次の攻撃を予測しやすい。

 のっそりと敵が立ち上がり僕を凝視している。かなり怒っているみたいだね。大きな単眼はキョロキョロせずに僕だけを明確に捉えていた。

 サイクロプスの右側にはミンフィーが、左側にはフェンとスノウが配置についていた。


 サイクロプスの左足をミンフィーのローキックが襲い、同時にフェンのムチが右腕に巻きついた。左膝を地面につき右腕の自由が奪われた敵は苦悶の表情を浮かべいる。それでも大きな単眼は僕だけを見ている。

 敵の背後から首筋に目掛けてクルミとスノウが攻撃をし、大きな単眼にニャンタのファイアボールが炸裂した!


 サイクロプスは魔石になった。


 瞬殺だ……


 開戦してすぐに身動きを封じ、的確に急所を突き倒す。


「ヒール」


 栞さんが僕に回復魔法を唱えてくれた。敵の初撃を受けた左腕が少しだけ痺れていたのが消えていく。


「次の敵来ますよ〜 サイクロプス2体です」


 さすがに2体のターゲットを僕が固定するのは難しい。


「片方は俺が引き受ける」


 ザリウスが睡眠魔法を唱えて敵を眠らせた。


「ポロロン♪」


 アイリスが竪琴で魔力を回復する曲を演奏し始めた。


「アークポイズン!」


 ティアナが敵2体を同時に毒状態にしたみたいだ。


 動いている敵に波状攻撃を仕掛け、手早く仕留めて睡眠状態の敵に移動してボコボコにする!


 サイクロプス2体は魔石になった。


「デカイだけね……相手にならないわ」


「ミンフィーのローキックが強烈だから」


 あのローキックを受けて立っていられるはずがない。サイクロプスが無防備に足を晒している時点でミンフィーの餌食になるね。大きな敵の態勢を崩して有利に戦いを進めるのは基本だ。


「基本通りに戦えるか試されているみたいね」


「敵の大きさに惑わされず冷静に対応出来たからいけそうだね」


 修正すべき所は全く無い。探索を進める事にした。

 この層にいる敵はサイクロプスだけで同時に現れる数は多くても3体までのようだ。迷路も単純だった。


 僕達の前に巨大な扉がある。どうも中ボス部屋みたいだ。


 扉を開けて中に入ると……


「アトラス……しかも2体ね……」


 サイクロプスの上位種で2倍位の大きさがあり、赤色の体をしているので『赤鬼』とも呼ばれる事がある魔物だ。


「いえ……2体じゃない。索敵反応は3体分あるわ」


 フェンの索敵スキルには反応が3つあるみたいだ。


 

「あ! アトラスの肩に小鬼がいる!」


 クルミが指差す方を見ると青色の小鬼が確かにいた。


「杖を持っているな……魔導士っぽいね。厄介だな」


「ニャーゴ!」


 ニャンタが少しだけ前に出た。


 その小さな目は小鬼に向けられていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る