第96話 歴史と歴史

 〜 ゴラス帝国 猫耳族の町 〜


 ホクトさんがすれ違った1人の少女に話しかけた。


「ねえお嬢ちゃん、旅人さんにニャンゴラ様の事を教えてあげてくれないかな?」


 猫耳族の少女は満面の笑みで話し始めた。


「うん! いいよ! むか〜し、むか〜し、偉大なニャンゴラ様は宮廷猫として王様にとても愛されていました。

 それに嫉妬した悪い大聖女はニャンゴラ様を酷い罠に嵌めました。大きな怪我を負ったニャンゴラ様は必死に逃げました。でもどこまで大聖女はニャンゴラ様を追ってきます。

 ニャンゴラ様は大聖女の手が及ばない魔国へと逃げ、立派な魔猫になりました。そして何も無かった北の地に苦しんでいる人が幸せに暮らせるゴラス帝国を作り上げましたとさ」


 んん? 全然違うよ?


「ニャンゴラは野良猫だったはずだよ?」


「ニャンゴラ様曰く、野良猫も宮廷猫も同じ猫なのでどうでも良い事。多くの人が苦しめられた事実は消せない」

 

 少女は自信満々に堂々と答えた。


 確かにそうだけど……少女の語った昔話は僕の知っている話と所々違うんだよね。


 でも……事実も多い……


 ニャンゴラは魔国で魔王の魔猫になった。そして、ゴラス帝国を築いたのは事実だよね。


 ホクトさんが少女にお礼を言うとニコニコ笑って歩いていった。きっと模範解答が出来て嬉しかったんだね。


「事実は1つですが2つの歴史があります」


 少女を見送りながらホクトさんは呟いた。


「ホクトさんはどちらが正しいのか知っているんですか?」


「知りません。他国に行けば違う視点の歴史がありますし、都合良く改編されている場合も有りますね」


 猫耳族しか居ない町、マタータ教徒しか居ない町をホクトさんと2人で散策した。猫耳族達は気ままな生活を送っているみたいだ。とても平和だな。


「ゴラス帝国は何処に行ってもこんな感じです。交戦中の地域には魔猫と魔術師がいます」


 1匹の猫と1人の人間のトラブルが数千年にも渡り、影響を与え続けている。きっとこれからも続いていくんだろうね。空位だった大聖女の事なんてゴラス帝国の人達にとってはどうでもいい事の様に思える。


 はっきりと分かったのはゴラス帝国の人達は全く戦いを望んでいない事だね。


 シャングリラに戻ると異世界に来た様な感覚になっちゃうよ。特にレザムールズ区はのんびりとは程遠いね。毎日、頑張って働かないと生活出来ないんだからさ。

 でも、僕は悪くないと思う。むしろシャングリラの暮らしの方がいいかもしれない。少しずつだけど良くなっている感じがとても好きなんだよね。


 

 〜 スパイダーダンジョン 〜


 今日はスパイダーダンジョンのクリアに挑戦する。みんなスペシャルダンジョンでかなり鍛えてきたみたいだ。個々の実力がはっきり分かるくらい上がっている。

 右手の小僧のミョルニルをしっかりと握りしめた。僕だって必死に積み重ねてきた。自信を持って敵に立ち向かう。

 難なくボス部屋まで辿り着いた。


 名前付『雨のちレインボースパイダー』に挑む!


 既に幾つかのパーティーに倒されているので攻略法も判明している。僕の役割はボスを引きつけるだけだ。敵の大きさは雑魚のクモと変わらない。


 いつもと同じ様に僕が先頭でボスに突撃した! 


 ミンフィーが右側、フェンとスノウが左側から攻撃するのもいつも通りだね。ボスの背後にはティアナとニャンタだ。栞さん、ザリウス、アイリスは僕の背後にいる。クルミは僕の近くでチョロチョロと移動しながら攻撃する。


 ニャンタが僕の背後に移動してきた! ファイアボールを狙っているね。ボスからニャンタが見えない位置取りをすると……


 ボン!!


 ニャンタのファイアボールがボスの目玉に直撃した!


 ボスが狂った様に僕を攻撃してくる! 


 雑魚と同じ行動パターンだけど強さも速さも断然ボスの方が上だ。受け流しと盾の防御で必死に耐えつつカウンターで反撃を加えた! 徐々にミンフィーとフェン、スノウの攻撃が激しくなってきた。ボスの敵視が僕に集中してきたからだね。


 軽い反撃では駄目だ! 強く! 早く! 正確に!


 周りの状況もしっかりと把握しながら攻撃を重ねる!


 ボスがピクピクと震え出した!


「ギミックくるよ! 散開!!」


 僕の合図でみんながボス部屋全体に広く散開した。天井から無数の小さなクモが糸を出しながら降りてくる。それを各自で撃退していく! 雨の様に降り注ぐクモはみんなに任せて、僕は目の前にいるボスとタイマン勝負だ!


「ファイアボール!」


 ボン! しっかりと目玉に命中させた。絶対に一歩も退かないぞ! この時の為に訓練を重ねてきたんだ! 


 ボスから激しい攻撃を受けた。毒も受けたが……


「キュア!」


 自分で治療して戦いを継続する。ここは僕の持ち場だ。必ず1人で乗り切ってみせる! ボスと向き合いながらもみんなの様子も確認する。危ない人がいれば助けに行くつもりだったけど大丈夫そうだ。後衛でも最低限の戦闘が出来ないといけない様になっているみたいだね。


 ウチのメンバーは鍛え方が違うよ!


 ファイアボールとキュアを使いながら耐え抜くと……


 雨の様に降り注いでいた小さなクモが発生しなくなった。ボスの目玉が緑色から青色に変化した。


「水属性に変化!!」


 ラッキーだ! 目玉の色が変わると敵の弱点属性が変わる仕様なんだけど、水属性の弱点は僕が得意な雷属性だ。


「いっけーーーー!」


 ドゴッーーーー! バリバリバリ…………


「え!?」


 ボスに渾身の一撃を繰り出したら強い電撃まで加わった。しかもボスは感電して動きを止めている。チャンスだ! みんなボコボコに攻撃を加えていく!


「武器が!? 進化した!!」


 単なる木工用のカナヅチだった小僧のミョルニルが普通のメイスに似た外観に変化している。ちょっと金色っぽい色で強そうだ!


 またボスの目玉の色が変化した。今度は….


「赤色だ! 火属性に変わったよ! ウォーターボール!」


 魔法を唱えながら栞さんの位置を確認した。ボスと栞さんの間に位置取りを変えた。栞さんは水属性が得意で魔法の威力が強い。ボスが栞さんを襲わない様にかばう位置に変更したんだ。僕が移動した瞬間に後衛陣から魔法が放たれた!

 次々に魔法が着弾してレインボースパイダーは魔石になった。


 強い! まだ2回しか属性変化していないのに倒した。


「もうCランクのギルドは卒業みたいね」


 ミンフィーは誇らしげにレインボースパイダーの魔石を僕に手渡してくれた。

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