第93話 訓練ですから

 ニャンタが僕の後ろを歩いている。もう大人なので歩いて店まで来るんだってさ。

 店で寝ているだけでニャンタ目当てのお客さんが来てくれるので、とてもいい集客になるんだよね。

 たまにニャンタがアドバイスしてくれるのも好評だよ。


 ニャンタは僕の店が終わったら工房に行く。そこでも基本的には寝ているだけなんだけど、たまに付与の仕事をもらえるんだってさ。


 もう1人、僕達の後をつける様に追ってくる人がいる。


 ティアナだ。


 遠くからニャンタの様子を見守っている。気になってしょうがないのでクルミに探りに行かせた。

 すると2人で店の中に入ってきた。


「ティアナも働いてみたいそうですよ」


「そうなの? 遠慮なく言ってくれればいいのに」


「ニャーゴ……」


「ん? 駄目なのかい?」


「ニャーゴ……」


 ニャンタは駄目だと言っているな……


「あ! ティアナ!」


 ティアナが泣きながら走って行っちゃったよ……


「ニャンタ、喧嘩でもしたのかい?」


 …………


 黙っているつもりか。すぐに寝てしまったよ。全く困ったもんだな。


「クルミ、ちょっと話を聞いて来てくれ」


「はーい」


 

 クルミによると、ニャンタはティアナが働いたり、戦ったりするのを嫌がっているらしい。自分が頑張るからいいと言ってティアナを遠ざけているそうだ。


 うーん。どうしたものかな……ちょっとミンフィーに相談してみようかな。

 お風呂上がりのミンフィーの髪を櫛で梳かしながら聞いてみた。


「ニャンタとティアナが喧嘩しているみたいなんだよ」


「仕事の事ね。クルミから聞いたわ」


「何かいい解決法はないかな?」


「ギクシャクするのは嫌ね……ホクトさんの事務仕事を手伝ってもらおうかしら? それとシャバニさんの店舗ね」


「ニャンタとは別の所で働いてもらうのか……」


「少し距離を置いた方がいい事もあるわ。それで様子を見ましょう……」


 ミンフィーはとても疲れているみたい。


「ミンフィー、無理しすぎなんじゃないの?」


「そうね……もう少し仕事が欲しいのよ」


「区民の仕事はかなり増えたよね?」


 農場、工房、店舗……貧民区と呼ばれていた頃に比べると雲泥の差だよ。薬草採取とかして生活していたんだからね。


「もう少し収入が欲しいわ。それでね……モッシュに助けて欲しいのよ」


「ん? 僕に? 僕で出来る事なら何でもするよ?」


「あまり気が進まないの……収穫さえ安定すればいいの。それまで助けて」


 翌日、ミンフィーとシャバニさんと一緒に郊外の農場へ向かった。広い畑の中央に建物がある。そこには牛が2頭だけいた。


「ここは牧場にする予定よ」


 建物の中に入って奥の部屋に行くと……


『大きなコップ』が置いてあった。お風呂よりデカイ!


「ここにミルクを出して欲しいのよ……」


「乳製品を作って売り捌く。農場の資金繰りを助けてくれ」


「そんなに厳しいならダンジョンで稼いだお金を渡すよ?」


「それは駄目よ。そこは分けないといけない所よ」


 シャバニさんが小さなコップに牛乳を入れてくれた。味見をしてみたらとても美味しい。


「いい乳を出す牛を2頭だけ仕入れる事が出来た。これから増やす予定だが売るにはミルクの量が全然足りない」


 店が終わったらここに来て、スキルでミルクを出すだけでいいみたいだね。簡単だよ。


「シャングリラ以外の都市で俺が売ってくる。作るのは俺とギルマスの2人だけだ」


 密造ってやつだね!


「作るのはバターとチーズよ。ここを牧場と乳製品工房にする予定なの。かなりの人数が雇用出来ると思うわ。収入も安定するはずよ」


「僕も作るのを手伝うよ」


「モッシュはダンジョンで頑張って。これはギルドとは別の事なのよ」


 そうだけど……困っているミンフィーを助けたい。農場でも働かせてくれないしさ。


 何か少しだけティアナの気持ちが分かる気がした。


 1人でハウスに戻り、スペシャルダンジョンに行く。時間的にEー3は厳しい。Eー2でスキル上げをしよう。普段の装備で最奥付近まで突き進んだ。そろそろだな。

 異次元リュックサックから鋼の剣と骨のナイフ+5を取り出した。そして、水筒に用意しておいた「スキルが上がりやすくなる」オレンジジュースを飲んだ。

 状態異常魔法(黒魔術)スロウで先制攻撃をして、剣とナイフの二刀流で攻撃をする。ファイアボールを途中で唱え、蹴りも多用する。


 冒険者カードに書いてあるのはガチャで得たスキルだけ。だからほとんどのスキルは数値化されていない。黒魔術、剣、短剣、二刀流、精霊魔法、カードには表示されていない。でも、少しずつ上達しているのを感じる。


 冒険者カードに書かれていない事の方が多いな……


 知識、経験、敵との駆け引き、それが重要だ。


 しばらく戦ってから武器を替える。次は鋼の槍だ。魔法はウォーターボールを唱える。


 魔法がいい目安なるな。最初に魔法を唱えた時はとても弱い。それが徐々に強くなってくる。強くならなくなったらEクラスの上限だ。そこで武器も替えよう。店に売っている主力商品を試す目的もある。自分が使ってみるに事よって、より良いアドバイスが出来るはずだからね。


 最後は素手だ! ミンフィーの動きを真似して攻撃する!


 やれる事は全てやる。慣れない事すると敵から攻撃を受ける事も多い。決してワザとではないよ。

 ダメージを受けたら回復魔法で治す。アイテムは極力、消費しない。これもスキル上げだね。


 夕方、ダンジョンをクリアして訓練所に戻った。扉の近くに簡単な武器立てを作り、今日使った武器を並べておいた。

 全部、店で売っている主力商品だ。

 鋼シリーズの片手剣、両手剣、片手斧、両手斧、短槍、長槍だね。それから自作の骨のナイフ+5。

 更に鋼の盾、片手棍、両手棍を置いた。同じ様に鉄シリーズも並べていく。


「やってるな」


 ニヤリとザリウスが笑って話しかけてきた。


「ここから好きな物を使っていいよ。扱いに慣れないとダメージを受けやすいから注意してね」


「なるほどな。確かに注意した方がいい」


「効果は分からないけどスキル上げ用の飲み物もあるよ」


 後は特殊な武器だね。フェンが使うムチとか鎌なんてのもあるね。使う人が少ない武器は店には置いていない。オーダーメイドで対応しているんだよね。


 でも……用意しよう。とても扱いにくいそうだ。


 そんなの使ったら攻撃をもっと受けちゃうかもね!

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