第91話 猫の気持ち

 朝になってもニャンタはクッションの上でちゃんと寝ていたよ。ロビーではいつも通りに栞さんが掃除をしている。軽く挨拶をして作業場の矢尻を確認した。やっぱり付与処理は全て終わっていた。ニャンタは夜中に起きてやっているね。

 自室に戻ってニャンタに声を掛ける。


「ニャンタ、朝のトレーニングをしよう」


 ピクッとニャンタが反応して目を覚ました。ノタノタと歩いて僕の後を追ってくる。動きが悪いな……

 訓練所で軽くランニングをする。ニャンタは全然ついて来れない。素早さではニャンタの方が上のはずだ。


「それじゃあ訓練は出来そうもないね」


 バテバテになっているニャンタは放置して、カカシをボコボコと叩いて訓練をした。


 冒険者達が活動を始める前に店を開けないといけないので、僕とクルミの朝食時間はみんなより早い。


「ニャンタ、どうせ謹慎中でダンジョンには行けないんだから店においで」


 ティアナからニャンタを入れるポーチを借りて、強引にニャンタを連れ出した。

 レジカウンターの上に小さなクッションを置き、ニャンタを乗せた。


「ニャーゴ……」


 猫好きのお客さんは結構多いみたいで、すぐにニャンタは人気者になったよ。


「あら、可愛い猫ちゃん。魔猫かしら?」


「はい。ウチのギルドに所属している魔猫ですよ」


 Dランクの常連さん、女性の戦士さんだ。


「今日は剣を新しくしようと思って」


「今は鉄の剣ですね。少し重いですが鋼の剣ですかね」


 女性戦士さんに手ごろな鋼の剣を選んで渡した。軽く素振りをしてもらったよ。


「ちょっと重いかしら……足がフラつくわ」


 そうか……腕力的には問題なさそうなんだけど……


「もう少し細身の剣にしてみましょう」


 スタンダードな鋼の剣は長さ、太さも色々取り揃えているから合うのを見つけられるよ。


「ニャーゴ!」


 ニャンタがクッションから飛び降りて近寄ってくる。どうしたんだろう?


「ケンハソレデ、クツガアッテナイ」


 ニャンタはレジカウンターの前に貼ってある工房のチラシをポムポムと叩いた。


「猫ちゃん、そこで靴を作った方がいいのかしら?」


「ニャ!」


「そうみたいですね。飼い主は魔剣士なので剣技をよく見ていると思います。工房で相談してはどうでしょうか?」


「先に靴から変えてみようかしら。行ってみるわ」


 いつもは店が終わったらスペシャルダンジョンに行く。今日はニャンタと訓練をする事にした。

 僕は普段通りの装備をした。武器だけは棍棒だけどね。


「よし! 1か月も篭った成果を見せてもらうよ!」


 ニャンタの雰囲気が変わった……


 僕はスッと後ろへ下がった。何だか間合い近い気がした。ニャンタがピタッと動きを止めた。魔法だ!


「ニャ!」


 盾を前に出して防ぐ! 火球が盾に炸裂した。かなりの威力だな。直撃したら大変だ。


 ドン!


「ん……」


 何だ! 腹部に何かが突っ込んできた! ニャンタか?

 少し油断したな。まさかニャンタが魔法以外の攻撃をしてくるとはね。でも軽い! スライム並だ。


「物理攻撃スキルまで上げてきたね。でも、次は防ぐ!」


 スキルを上げたといってもEランクレベルだ。僕はCランクのモンスターの攻撃を受け続けているんだ。全く威力が違うのが初撃で分かった。


 ニャンタが魔法を唱えた! 突っ込んで来たらカウンターで迎え打つ! 小さな水球が飛んできた。今度はウォーターボールか。盾で簡単に弾き飛ばした。


 この魔法は軽い! 注意するのは火だけ!


 ニャンタの動きをよく見て蹴りを放った! ニャンタの位置が低いので蹴りの方がいいと判断したんだ。シュッとニャンタは僕の蹴りを回避した。回避が高いのは分かっている。連続で蹴り放ってドンドン追い詰めていく。ニャンタに周りこませない様にして壁際まで追い込んだ。


「ニャーーー!」


 魔法! グラビティか! すぐに間合いを詰めて蹴りを放った! 僕の方が早い! ピタッ……


 蹴りを放つのを止めてグラビティを受けた。ズン! と何かがのし掛かった様な重さを体全体に感じる。


「ニャーゴ……」


「君は装備も何もしてないのに蹴る訳にはいかないよ」


「装備は俺が準備してやろう」


 いつの間にかシャバニさんが訓練所にいた。僕達の戦いを見ていた様だ。


「女のスリーサイズは分かるが猫は分からない。工房まで来てもらうぞ」


「でも、マントだと蹴りは防げないですよね」


 ニャンタの位置が低く過ぎるからどうしても蹴り主体の攻撃になってしまう。


「猫用のプレートアーマーを作ってやる。まず試作からだがな」


 鎧を装備している猫なんて居ないからね! 


「鎧は作るがな……訓練してもお前の体で強い攻撃が出来るとは思えないんだが?」


「マホウガキカナイテキモイル」


 低レベルの敵にはそんな敵はあまり居ないけど、これからは魔法耐性や物理耐性が極端に高い敵が現れる可能性がある。ゴーレムはちょっと魔法が効きにくいそうだ。


「兜に角でも付けるか……」


「ケンガイイ」


「まあ考えてみるか」


 ニャンタはシャバニさんに連れられて工房に向かったよ。


 これでいい。少しずつ距離を縮めていこう。


 ほんの少しだけどニャンタの事が分かった気がしたよ。

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