第90話 始まりの鐘が鳴る
〜 ギルド『レザムールズ』ハウス ロビー 〜
効率良くスキルが上がる。その方法が分かってしまった。
「お前ら、ギルドマスターの指示に従えないのか? それなら出ていくか俺に消されるか選べ」
あ! ぼ、僕は……そんなつもりじゃあ……
「そうね。これはとても危険な事なのよ。絶対認めないわ」
ミンフィーがスペシャルダンジョンのルールを決めた。
・ 故意に敵の攻撃を受けるスキル上げの禁止
違反者はギルド除名
・ 必ず晩ご飯までに帰る事
違反者はスペシャルダンジョン1か月禁止
・ ホクトさんに伝えてから入場する事
違反者はスペシャルダンジョン禁止
みんながまた沈黙している。
またクルミがパクパクとクッキーを食べている。
何を考えているのか……
分かるよ……それ以外はいいって事だ。ルールを守って出来るだけの事をするつもりなんだ。
「……深刻ね。私の目は誤魔化せないわよ」
「性能のいい防具を用意してやる。それを装備してCクラスダンジョンでスキル上げパーティーをやればいい」
「1番安全なのは訓練所よ。Cランク同士で訓練すればスキルは上がるはずだわ。私のローキックを受け続けてみる?」
アレを受けたら死んじゃうよ!!
「それ以上に危険な事なのよ。モンスター相手は」
そうだね……倒れてもモンスターは攻撃を止めない。死ぬまで攻撃を続ける。それなら訓練所がいいな。
みんなスキルを上げたいみたいだね。特に後衛は防御する機会がほとんど無いからね。
〜 2週間後 〜
ニャンタがやっとスペシャルダンジョンから出てきたらしい。ティアナ同席でミンフィーから延々とお説教を受けたみたいだよ。
「モッシュ、これを見ろ」
シャバニさんがボロボロの布キレを僕に渡した。
「ゴミですか?」
「ニャンタに作ったアラミド繊維のマントだ」
ボロ雑巾よりボロボロじゃないか……
「ここまでいくと修復不可能だ」
「それはそうでしょう。もう原型を留めていませんし」
「ヤツにはここまでしないといけない理由があるって事だ」
とてもこんな真似は出来ない。普通じゃないよ……
「このままではヤツは駄目になる。今ならまだ間に合う。ヤツの相手をしてやってくれ」
1か月もダンジョンに籠もるのは異常だよね。
「僕がですか?」
「お前は常にパーティーの盾役だ。恐らく前衛スキルが1番高いのはお前だろう。ギルマスは別でだ」
シャバニさんに頼まれたのでニャンタと話をしてみよう。ティアナの部屋の扉をノックした。
コン! コン! ティアナが扉を開けて出てきた。
「ニャンタはいるかな?」
「え? ニャンタは私の部屋には居ませんよ?」
「ん? 何処か行ったの?」
「いえ。普段から私の部屋には居ませんよ」
「そうなの? 知らなかったよ」
ティアナとニャンタはセットだと思っていた。
「ハウスの何処かに居ると思いますよ。謹慎処分なので」
ティアナによるとミンフィーから1週間ダンジョン禁止の謹慎処分が出たんだってさ。
ニャンタは何処に居るんだろう……
何となく分かる気がした。ニャンタが居る可能性がある場所は2ヶ所ある。
作業場に行ってみる。貯めてあった矢尻がかなりの量、付与の処理がしてあった。あっちか……
ニャンタは訓練所に居た。カカシの横で丸まっている。
寝ているな。シャバニさんの言う通りだ。これではニャンタは駄目なってしまう。
「ニャンタ、ここは寝る所ではないよ。僕の部屋においで。少し話をしよう」
「ニャーゴ……」
「君にとっても悪い話じゃないよ。とにかく来るんだ」
「ニャー……」
僕の後をフラフラと歩いてついてくる。魔力切れだな。ニャンタを抱えて僕の部屋に連れていった。大きなクッションを床に置いて、そこへニャンタを乗せた。
「今日からはそこで寝るんだ。聞けないなら矢尻を作るのは止めるからね」
「 ………… 」
「モンスターの代わりに僕が相手をしてあげるよ。僕も考えたんだ。死んでしまったら全てが無駄になると思うけど?」
「 ………… 」
「君が強くなるのをサポートするよ。僕に出来るのはそれだけだよ。忘れないで欲しいんだ。僕達は同じギルドのメンバーだろ? 助け合って強くなればいいんだよ」
「……タノム」
「ああ、一緒に強くなろう。ここは最高のギルドを目指しているんだ。必ず強くなれるさ」
ニャンタに魔力回復のミルクを出してあげた。ペロペロと美味しいそうに飲んでいるよ。
作業場に行って木工道具を持ってきた。扉にニャンタ用の出入口を作ってあげた。
それから部屋に飾ってある武器を手にした。この武器をまた使う時が来るなんてね。
僕が初めてモンスターを倒した武器「棍棒」。これならニャンタに大怪我させる事は無いよね。
ミルクを飲み終えたニャンタはクッションの上で
『ニャンタは急ぎ過ぎている』
以前、運を盛り過ぎていた僕達にホクトさんは警告してくれた。同じ様な事がニャンタにも言えるはずだ。もしニャンタが少しでも選択を誤ったら全てが崩れ落ちてしまう。
僕はニャンタの事を知らなかった。何処に寝ているのかも知らなかったんだ。
僕はギルドメンバーの事もあまり知らないな……
冒険者は互いに干渉しないのが普通だと思っていた。
でも……
相手の事を知らないでどうやってサポートするんだ?
このままだと僕は『最高のサポーター』になれない。
ニャンタを変える前に僕が変わらないと!
すべては今! ここから始めるんだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます