第30話 歴史の授業を受ける

 〜 オークダンジョン 〜


 Dクラス以上のギルドが入場可能なオークダンジョンに来ている。オークは猪豚に似た顔をしていて強靭な体が特徴のモンスターだ。身長は2メートル前後あり、筋肉の鎧を着ている様な立派な体格をしている。


 ダンジョンは中々の混雑具合だね。

 Dランクの冒険者はかなり人数が多い。さらにCランクの人数は多くて、B、A、Sと人数は減っていく。Eランクは1番人数が少ない。


 Bランクの冒険者になれば1人前の冒険者と認められる感じだね。


 初めてのダンジョン、敵なので慎重に戦闘をする事にしている。

 ミンフィーはようやくワンパンで倒せなさそうな敵に巡り会えて嬉しいみたい。


 ダンジョンの入口で強化魔法をしっかり唱えておく。フェンが索敵スキルで敵を探し、パーティーに適した小部屋に案内してくれる。

 

 小部屋にはオーク3匹パーティーがいる。まずはザリウスが睡眠魔法で敵を眠らせる。


 僕が中央の敵にウォーハンマーを振り下ろす!


 ドゴッ!!

 

 オークの頭部を確実に捉えた!!


 何と1撃で敵をほふってしまった!



 左の敵にフェンがムチで攻撃した!


 ビシ! ビシ! ビシ!


 高速の3連撃が見事に決まった!


 フェンのムチスキル『3連撃』だ


 そしてオークの背後からウォーウルフが首に噛み付いた!


 鮮やかな連携攻撃でオークを倒した!


 ミンフィーがファイティグポーズから一気に間合いを詰めて鋭いローキックを放った!


 ビシ!


 …………


 ドーン!!


 ローキック1発でオーク倒れて戦闘不能になった……


「様子見で軽く蹴ったのに体力馬鹿って聞いていたけど全然ね」


 オークは叫び声を発することすら出来ずに足を抑えてピクピクしている。


「ニャーゴ!」


 ニャンタが動けないオークに近づいていく。


「ニャー」


 プニュ


 可愛い肉球でオークの額に軽く触れた……


 オークは魔石化してしまった!!


「ニャンタのスキル『ニャンタッチ』です! 瀕死の相手にトドメを刺し、魔力を全て奪う恐ろしい技です」


 ティアナが興奮して説明してくれたけど……


「凄そうだけど別に恐ろしく無いような……」


「このスキルによって奪った魔力が自分の魔力上限を超えた場合、魔力が体内にストックされ、その魔力を他者に分配する事が可能なのです!」


「ニャンタ様! 魔力を下さい!」


 ザリウスがニャンタに頼み込んでいる……


「恐ろしいと言ったのはこれです! このスキルにより多くの魔術師を従えた伝説の魔猫ニャンゴラが北のゴラス帝国の基礎を築いたと言われています」


 ティアナから聞いた話は有名な話みたいだ。学校では必ず習うらしい。


 僕達、サポーターコースではそんな授業は無かった。


 3日間、走ってドロップ品を集める練習をしただけだ。


 ゴラス帝国は僕達の暮らしている国『エストアール王国』の北に位置している巨大魔法国家だ。好戦的で周りの小国を次々に吸収して勢力を拡大させている。

 今は各国が同盟を組み、必死にゴラス帝国に抵抗したので休戦状態だけど、いつ戦争が始まるのか分からない危うい状態なんだ。

 

 国が冒険者の育成に積極的なのは質の良い兵士を多く確保する為だ。


 ダンジョンも体系的にしっかりと整備されている


 どうせ徴兵されるなら生き残りたいので農民を辞め、冒険者になり戦闘訓練をする人が多いそうだ。

 

「ニャ!」


「男性には魔力供給はしないと言っています」


「そんな……」


「じゃあ、栞さんにはいいんだね」


「わ、私は……」


 あら? 魔力が回復出来れば喜ぶと思ったけど?


「モッシュ……歴史を学ばないと駄目ね……栞さん、悪意は無いのよ……モッシュはサポーターコースしか卒業していないから」


 何かマズい事を言ってしまったみたいだ。


「いえ、愚かな行ないをしたのは聖心教徒も同じですから」


「魔猫ニャンゴラはスキル『死へのいざない』を使って魔術師を従属したわ」


「ニャンタの尻尾は真っ直ぐなので従属は出来ないから安全です」


 ティアナが『死へのいざない』と『ニャンタッチ』の違いを教えてくれた。


 『死への誘い』は魔力を供給した者を従属させるが、『ニャンタッチ』は魔力の供給だけらしい。


 『死への誘い』を使用出来る魔猫はニャンゴラの血族の中で尻尾の曲がった『カギシッポ』を持つ黒猫だけと分かっているみたいだ。


 ニャンゴラの血統はゴラス帝国で完全に管理されているので他国へ流出する事は絶対に無いらしい。


「ニャンタッチは魔力の残量管理が出来なくなる『人をダメにするスキル』と言われているわ」


 魔力切れを気にせずに魔法を連発する為、魔力の残量を意識する事を忘れてしまうらしい。魔猫に依存してしまいバンバン魔法を唱えるダメ魔術師になってしまうんだね。


 睡眠魔法を多用する戦いがザリウスの負担を多くしていたみたい。


 睡眠魔法の量を減らして、魔力の残量を上手く管理してもらう事にした。


 僕達も睡眠魔法に依存していたかもしれない。


「前衛も頑張って後衛の負担を減らそう!」


 シャバニさんの援護射撃をもらいながら睡眠魔法無しで戦う練習をした。


 ザリウスの魔力残量も余裕が出てきたそうだ。



 

 ミンフィーがギルドハウスに帰ってから過去の出来事を教えてくれた。


 〜 3000年前 〜


 魔物に襲われて行き倒れになっていた「野良猫」ニャンゴラをたまたま見つけた聖心教『大聖女』が必死に治療を施した。治療は成功したがどうしても折れた尻尾だけは治す事が出来なかった。


 その事を逆恨みし続けた「野良猫」ニャンゴラは『魔猫』へと変貌して『大聖女』に復讐した。


 猫を恐れた聖心教徒は『魔猫狩り』と称して、世界中の猫を迫害した。魔猫ニャンゴラは怒り狂い、秘技『死へのいざない』を編み出した。魔術師に魔力を供給し従属させるスキルだ。

 ゴラス帝国を築いて聖心教との戦いを宣言して2000年もの間、戦争を続けていたそうだ。


 1000年前、猫の迫害は誤りだったと聖心教徒が認めた為、停戦が成立してしばらくの間、世界は平和であった。

 しかし、ゴラス帝国が世界に住む全ての者を『魔猫』ニャンゴラを神として崇めるマタータ教にすると宣言した為、再び戦争状態になってしまった。


 以来、戦争と停戦を繰り返して現在に至っている。


 猫は魔法使いが普通に使い魔としているし、何の偏見も無くなったけど敬虔な聖心教徒は「ニャンタッチ」による魔力の供給を受けるのはあまり好んでいないらしい。

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