第31話 清らかな水のように

 〜 ギルドハウス ロビー 〜


 アイリスが竪琴で素敵な旋律を奏でている。シャバニさんが竪琴を奏でている美しいエルフをモデルにスケッチしている。みんな僕が出したワインや紅茶を飲んで静かに演奏に耳を傾けている。

 ニャンタは栞さんの膝の上で丸まっている。

 僕はミンフィーから借りた本を読んでいる。最近、本を読む事が増えた。教科書もよく読む。


 こうして知識が得られるだけでも幸せだね


 今日は栞さんの誕生日だ


 ちょっとしたプレゼントを用意してあるんだ


 貯まっていた教会のポイントを全部使って立派な聖書と小さな聖心教の女神像をプレゼントした。


 教会から酷い目に合っても彼女は聖心教徒であり続ける


「こんなに嬉しい事はありません……ありがとう」


 祈りはここでも捧げられる


 僕も勉強として聖心聖書を少し読んだ。素晴らしい内容で感動した。

 

 ウチのギルドは個々を尊重している。お互いを認め、尊敬して、高め合っている。


 サポーターコースしか卒業していない僕にみんながいろんな事を教えてくれる。


 シャバニさんが教えてくれた。


「組織の事をファミリーと呼んでいた」と。


 ファミリーを自分が死ぬまで守り続けたそうだ。


 僕はギルドメンバーの事を家族と考える事にした。


 ギルドを辞めて、離れていく人も居るかもしれないけど、一緒にいる時はファミリーだ。



 プレゼントはもう一つあった。

 シャバニさんとミンフィーが製作した法衣だ。

 栞さんがさっそく着替えて階段を降りてくる。


「わぁーーー」

「素敵ね」

「ほぉーーー」


 水色と白色を基調としてシンプルな装飾を施した洗練された印象を持つ法衣だ。サラッとした感じでとても軽そう。


 聖心教の司祭は濃い青色の重厚な法衣を着ているけど……


 この法衣は全く逆だね


 清らかな水のような感じがする……


「栞の黒髪には濃い色より薄い色の方が似合う」


 シャバニさんが服の解説をしてくれた。


「栞はスタイルがいいからボサッとした衣装を着るのは勿体無い」


 いつも見習い用のもっさりした法衣を着ていたから分からなかったけど……


 かなりスタイルがいい!!


 新しい法衣は腰の辺りがキュッとしまっている。


 出る所が出ているデザインだ!


「この法衣は生地が薄いのでとても涼しくて軽いです!」


 栞さんはニコニコ笑ってとても喜んでいる。


「気持ちまで軽くなりました」


 ミンフィーが栞さんの頭に水色の帽子を被せてあげた。


 司祭の帽子だ……


 本来なら、栞さんは見習いを卒業してプリーストになる予定だった。必死に頑張った事により更に上のビショップになった。ジョブで言えばビショップだけど教会的に言えば司祭だ。


 一緒にビショップになった他の2人は濃い青色の司祭の法衣を教会から貰い、それを着て活動しているらしい……


「暑いのに分厚い衣装を無理して着る必要はない」


 そうだよね。体調を悪くしてしまうよ。


「それは普段着用で戦闘には使えないわよ」


「これを着て戦えば動きやすそうですが……」


「さすがに布が薄すぎる」


 栞さんは決められた法衣を着ていたけど、動きにくかったそうだ。


「戦闘用も考えてあるからちょっと待ってくれ」


 シャバニさんは栞さんの分だけじゃなくて、みんなの服を考えているんだって。


「ここはトップを目指す所だと聞いたから相応わしい服装をした方がいい」


「服装だけではなく言動にも気をつけて欲しいわ」


 低クラスのギルドは粗暴な所も多いんだよね。ウチはSクラスを目指すんだから今の内に上位クラスの振る舞いを意識した方がいいって事だね。


 Sクラスのギルドはサポーターでも良い服を着ていた


 もちろん見習いだった僕もそれなりの服を与えられた


「もう少しセクシーにすれば信者も増えると思うんだが、ギルマスに止められた」


 そう言って法衣のボツ案のデッサンを見せてくれた。


「こ、これは……」


 すっごいミニスカートの法衣だ!!


 露出もすごいぞ!! 顔はハッキリ書かれてないけど……


 栞さんにしか見えない。


「こ、この絵を下さい!!」


 ザリウスがシャバニさんに絵を譲って欲しいと頼み込んでいる。


 ダークエルフのクールなイメージが崩壊していく……


「すまんが絵は誰にも譲らない事にしている」


「そうですか……残念です」


 かなり残念そうだけど、女性陣のザリウスを見る目の方が残念そうだよ。


 シャバニさんがデザートにケーキを作ってくれた。イチゴのショートケーキだ。


 こんな贅沢品は食べた事が無い


 甘くてとても美味しい!!


 プリンは不思議な味と食感でちょっと苦手だったけど、ケーキは見た事があるし、1度食べてみたいと思ってたんだよね。


 僕が砂糖水とミルクを出せるから安く作れちゃう


「砂糖や塩を売れば簡単に儲かるんだがな」


 それをすると僕のスキルが露見しちゃう可能性があるんだってさ。何処から仕入れているか説明出来ないからね。


 ウチのキッチンには高価な砂糖が常備されている


 休みの日はスキルが勿体無いから砂糖水、塩水、ワインなんかを出しているんだ。これだけでもかなりの節約になる。


 砂糖がかなり貯まってきたから、ほんのり甘いクッキーを露店で売る事にするみたい。それくらいなら砂糖の事がバレないし、町民でも購入できる値段で出せるからね。


 砂糖がタダなのを考えるとぼったくりだけど……


 お洒落な帽子も少し売り物として出しているけど、売れないみたい。まだ馴染みがないんだね。

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