第27話 安眠するために

 〜 ギルドハウス ロビー 〜


 カラン! カラン!


 玄関から呼び鐘の音が聞こえる。扉を開けるとそこには法衣を着た教会関係者がいた。中に入るように言うと冷たい声で辞退された。


「ビショップ 栞の荷物を持ってきました。それとミンフィー様に手紙とこの袋をお渡しします」


 直接渡すと言うのでミンフィーが受け取りに来た。


「受け取りのサインをお願いします」


「分かったわ……」


 ミンフィーが扉を閉めてイスに座り手紙を読んだ。


「栞さんのガチャは無かった事にするそうよ……」


「「そんな……」」


「その袋にはお金が入っていて、この事を他言しないようにと書かれているわ」


 教会にはかなり多くの人達がいた。どうするんだ。


「教会関係者、他の2ギルドにも連絡済みのようだわ」


「お気楽で良かったじゃないか? 俺なら消す」


 消すって何? 


 まさか……殺すのか!?


 平然と恐ろしい事を言う……やっぱり極悪人だな!


「かなりの大金が入っているわね」


 ミンフィーが袋の中身を確認している。


「門をしっかり作って防備を固めるんだな」


 シャバニさんも袋の中を覗き込んでいる。


 そんな必要あるのかな? もう何も無いと思うけど。


「ワレモオナジイケンダ」


「ニャンタ! あまり喋ってはダメよ! 魔力が減るわ!」


「キョウハタタカワナイ」


「そうだけど……」


 どうもニャンタが喋るにはかなり魔力を消費するらしい。


「面白いな! この世界では猫が喋るのか!」


「ニャンタは魔猫ですからね……防備については私が考案しましょう」


 ティアナがミンフィーに向かって頷いた。


「任せるわ……シャバニさんと栞さんがここで生活する為の資金を差し引いた全額を使っていいわ」


 ミンフィーが任せるなんて……余程信頼しているのかな


 みんなで栞さんの荷物を部屋に運び込んだ。


「ありがとうございます……教会がこんな事するなんて」


「住む所も仲間もいるからいいじゃないか?」


 シャバニさんはかなり楽観的な人みたいだな。普通に考えればショックだよ……


「そう言われればそうですね!」


 栞さん……ここにも楽観的な人がいた! さっきまで食事も出来ない位に落ち込んでいたけど、急にワイン飲みながらパスタを食べている。


「いい子だ、それだけ食べれれば大丈夫だな」


 何か優しい目でシャバニさんが栞さんを見ている。


 とても極悪人には見えないな、この人……


「贅沢をするつもりは無いんだが、絵を書くのが趣味でな……絵を書く道具が欲しいな」


「絵具は高価だから自分で稼いで買うしかないわね」


「紙と鉛筆はあるのか?」


「多少なら購入出来るわ」


 服と紙と鉛筆を僕が買いに行くことになった。服は今着ている「スーツ」がいいと言い張ったけど目立ちすぎからダメとミンフィーに言われると素直に従った。


「お洒落なやつにしてくれよ……」


「ここには似たような服しかないですよ」


「それはかなりショックだな……作るしかないか」


 お洒落にとても気を使っているらしい。身の回りの物を確認して無い物をメモに書いて貰って準備する事になった。


「あのジュウって何ですか?」


 大体、揃えれそうだけどジュウだけは不明だ。


「分からないのか……ガン? 鉄砲というのか?」


「ガン? 鉄砲? 聞いた事が無いです」


「小さな鉄の弾が飛び出す武器だが……」


「飛び道具なら弓ですね」


「チッ! 中世くらいの文明か……トイレとかは現代みたいなんだが不思議な世界だな……弓でいいか……」


 シャバニさんは見た感じ3、40代でかなり体格もガッチリしている。弓より両手剣とか両手斧が合いそうだけど……

 ミンフィーの方をチラッと見ると小さく頷いたからいいって事だね。


「かなり体格がいいので大弓にしますね」


「遠くまで飛ばせるならそれでいい」


「弓はかなり訓練が必要な武器よ?」


 ミンフィーの言う通りだよ。敵に当てるのは結構大変だと思うな。


「小僧がワインを出したみたいなスキルがあるみたいだから大丈夫だ」


 ううう……小僧扱いだよ……


「モッシュ、狩人装備一式と人気のあるワインも一本買って来て」


「話が分かるな、若いのにこれだけの組織を束ねているだけはある」


 それだけ買っても余るほどのお金を置いていったからね。


 教会ってあんなにお金を持っていたんだ……栞さんを見ているとかなり質素な生活をしていたから意外だな。



 乱獲して貯めたお金もあったので、しばらく必要な時以外は外に出ない事にした。ギルドハウスの外周は工事が行われて丈夫な鉄の門が作られた。門には魔術具がつけてありボタンを押すとハウス内の呼び鐘が鳴る。前にいたギルドハウスにはちゃんとあったけど、ここには無かった。


 SクラスやAクラスのギルドハウスなら当然の防備らしい。ウチも何とかAクラス位の防備が整えられたそうだ。


 シャバニさんと一緒に整えられた外周を見ていく。


「中々だが……地面が駄目だ」


「地面ですか?」


「ああ、土の部分が多すぎるから小石を敷き詰めろ」


「どんな意味があるんですか?」


「音だよ、小石を踏むと音が出るから侵入したらバレる」


 なるほど……


「何本か木を植えて外から狙撃されないようにした方がいいぞ? 俺なら簡単に殺せる」


「もうほとんどお金を使っちゃいましたから厳しいですね」


「チッ! 安心して寝れないな……稼ぐか……」


「泥棒とかはダメですよ!」


「そんなセコい事はしない」


 凄くやりそうだけどね。


「このダサい服も耐えれないな……やはり金か……世界が変わっても金だけは変わらないな」


「お金が欲しいならモンスターを倒すか商売するかですよ」


「金を稼ぐ手段は多い方がいい、両方やるぞ」



 月が変わり冒険者ギルド協会の掲示板に僕達のギルドがDクラスに昇格した事が発表された。さらに栞さん、ミンフィー、僕がDランク冒険者になったのも発表になった。

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