第26話 神が遣わし者
〜 聖心教会 〜
とんでもないことになった。
ガチャから悪人が出た……
「この者には神より戒めの腕輪が嵌められている。転生者を引き当てたビショップの監視下に置く事とする」
どうなっちゃうんだろうか……
栞さんはショックで座り込んでいる。ミンフィーが栞さんを支えてこちらに連れてきた。
転生者の悪人は教会関係者から事情を説明されているらしい。
「すみません……こんな事になるなんて……」
誰も栞さんに声をかけれない……
しばらく待っていると教会関係者が悪人を連れてきた。
「教会では預かれないので、そちらのギルドで監視して下さい」
「ええ?? 私はどうなるんですか?」
「教会から出て行ってもらう事になりました」
悪人はウンザリした様子でこちらを見ている。
「おい! 早く行くぞ!」
栞さんの手を掴んで外に出て行こうとしている。
「手を離せ!」
僕が怒鳴ると悪人はパッと手を離した。
「おお怖い怖い、ここに居ては話も出来ないが?」
周りは教会関係者で囲まれている……
確かにこの悪人の言う通りだ。
「栞さん、ギルドハウスに行きましょう」
栞さんは何とかコクンと頷いて歩き出した。
教会関係者が僕達を冷たい目で見送った。
〜 ギルドハウス ロビー 〜
「ふーん、まあまあいい所だな」
悪人は異世界に来たばかりというのに堂々としている。
ソファにどっしりと腰を下ろして呑気に紅茶を飲んでいる。
「あなたの名前は?」
ミンフィーが悪人の向かい側に座って会話をする。
「シャバニでいい」
ミンフィーは軽く頷いた。さすがミンフィーだ。
こんな状況でも気丈に振る舞っている。
「シャバニさん、あなたは転生してこの世界に来ました」
「その辺の事はさっき教会で聞いた」
「そうですか……ではあなたはこれからどうしますか?」
「ここで暮らす他に無いだろう?」
「ここは冒険者のギルドでモンスターを倒して生計を立てています」
「殺しか……まあ得意だが」
何かちょっと違うけど……いや違わないか?
「ところでここのボスはいないのか?」
「私がここのギルドマスターです」
「女がボスか……大丈夫なのか?」
むむ! ミンフィーは最強だぞ!
「ここの組織はこの部屋にいるだけか?」
「そうです」
「少ないな……アイツらが乗り込んできたら死ぬぞ」
あんたが居なければそんな事は起きないよ……
「何も罪を犯していないのにそんな事は起きません」
「俺はすでに罪人扱いのようだがな」
左手首に嵌められている戒めの腕輪を見ながら紅茶を飲んだ。
「なあ? メシにしないか? 腹が減った」
「もう少し話を聞かせてくれたら準備するわ」
「何を話せばいいのか分からない」
「マフィアとは何?」
「簡単に言えば悪い組織の事だ」
「あなたはそこで何をしたの?」
「全部だな、老いて死んだ時はマフィアのボスだった」
「神はあなたに何か頼んだのかしら?」
「あまり覚えていないんだが普通に暮らせばいいらしい」
「そう、分かったわ」
ミンフィーはみんなに部屋へ戻るように指示を出した。栞さんは憔悴しているのでティアナと一緒に部屋に入った。
「ここには目的があるからそれに協力してもらうわ」
「組織の一員になるんだから当然だな。組織ではボスが絶対だ。俺はボスに従う。これでいいだろう?」
「ミンフィーよ、それとボスでは無くギルドマスターよ。ギルマスと省略して呼ぶ者もいるわ」
「じゃあギルマスと呼べばいいか?」
「ええ、いいわ。モッシュ、シャバニさんの部屋は階段の1番近くよ。案内して」
シャバニさんを部屋へ案内した。階段の前なら監視がしやすいかな……
ミンフィーは食事の支度する為にキッチンへ向かった。
「あまり広くないが贅沢は言えんな……」
シャバニさんを部屋に案内したらベットの寝心地を確認して横になった。
「気持ちは分かるがあまり警戒をする必要は無い」
「悪人と聞けば誰でも警戒するでしょう」
「それは前の世界での話だろう? ここの世界では俺は赤ん坊のようなもんだ。何もこの世界の事を知らないんだからな」
ギルドハウスを案内していく。
「俺達の世界と似ている部分もあるな」
トイレ、キッチン、お風呂の場所とギルドハウス内でのルールを説明した。
「ルールには従う」
町の中を見たいと言われたけど、服が目立ち過ぎるので待ってもらう事にした。
食事の準備が出来たのでロビーで食べる事にした。
トマトソースのパスタだ。
「おお! 美味いな! 俺のいた世界と変わらない味だ」
何かこうやって見てると普通のおじさんだ……
「ワインが飲みたいな」
「ここは貧乏ギルドなのでお酒はまだ買えないんです」
まあ僕がワインを出す事は出来るけどね。
「貧しいのか……俺は貧しいのは嫌だ」
「モッシュ、ワインを出してあげて」
大きな『コップ』を取りに行ってスキルを使う。
ワインなんてほとんど飲んだ事が無いけど、何となく味は覚えているのでやってみる。
「ワイン出ろ!」
コップに赤いワインが出た!
「おお!? 何だそれ? 手品か?」
シャバニさんが興奮している。僕が飲み物を出すのを初めてみる人も多い。
「これはスキルです」
出したワインを適当な空瓶に移し替えて、グラスに注いでシャバニさんに渡した。
「味はどうかな?」
嬉しそうにワインを口に含んだけど、不味そうな顔をしている。僕もグラスに注いで飲んでみた。
「うう……薄いかも……」
「色からいうと濃そうなんだが、味は真逆で水のようだ」
「舐める程度しか飲んだ事ないからね……」
「まあいいさ! ありがとな」
シャバニさんはワインが入った瓶を持ってみんなに勧めている。みんなお酒が好きなようで嬉しそうに貰っている。
「薄いわ……」
「水といった方がいいですね」
「葡萄水といった感じでしょうか」
「ニャーゴ……」
かなり評判が悪い……ニャンタまで呆れている。
「ワインは高級だから滅多に飲めないわ」
「僕は料理に使っているのをちょっと舐めさせて貰ったんだよ」
ミンフィーもちょっとだけ味見をしたけど、すぐに水を飲んでいる。
他の安いお酒なら出せるからそれで我慢してもらおう。
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