第4話 底辺へ行こう

 お嬢様を背負ってお部屋まで連れて行き、ベットに寝かせてあげた。


 全く困った人だな……今日の主役なのに


 パーティー会場に戻ると微妙な空気が漂っていた。


 ボソボソと聞こえない様に話をする人が多い……


 料理をどんどん並べるけどみんなあまり食欲が無いのか減っていかない。


 とても盛り下がってパーティーは終わってしまった


 結局、お嬢様はずっと寝ていただけだ。


 翌日の朝……


 『ギルドハウスには誰もいなかった』


 いるのは僕とお嬢様だけ……


 ご両親は置き手紙をして旅に出てしまった!


『後はミンフィーに任せた。旅に出る。探さないでね』


 大量の脱会届がテーブルに積み上げられている。


 多分、全員分あるんだろうな……


「あら? やけにサッパリしたわね」


 ミンフィーが赤いドレスを着て途方に暮れる僕の所にやって来た。


「みんなここを辞めてしまったよ」


 酔拳使いのお嬢様がお酒を飲めないのはかなりの衝撃だったみたい。


「そうなの。いいんじゃない」


「みんなここでお世話になった人ばかりなのに……あんまりだよ」


「そう? 冒険者なんてそんなものよ。それより朝食の準備は出来ているの?」


「すぐに作るよ。驚いてそれどころじゃ無かったよ」


「丁度いいわ。外で食べましょう。行くわよ」


 お嬢様に連れられてお洒落なカフェに入って行く。


 こんなお店来た事無いや……


 お嬢様は慣れた感じで朝食のセットを2つ頼んでくれた。


「モッシュ、ここの紅茶はとても美味しいのよ」


「へぇ〜 そうなんですか……」


「分からないの? 味を覚えなさいと言っているのよ?」


 ええ? 真似をして僕に作れという事か!


 上品な店員さんが美味しそうなパンとスクランブルエッグそして新鮮なサラダの乗ったプレートを持って来てくれた。


 そして、問題の紅茶が運ばれて来た。


 とても豊かな香りだ。色はかなり濃い。味は……苦い。

とても複雑な味だ。香りと味が混ざってよく分からない。


「とても複雑な香りと味だね……」


「そうね。素晴らしいわ。美味しいという感動を覚えるのよ? 細かな事を考えては駄目。素晴らしさを味わって」


 深呼吸してもう一度飲んでみる。


 ああ……本当だ……感動的な美味しさだ……


「最高のイメージを持つ事はとても重要だわ。みんな目の前の事ばかり考えているわね」


「これからギルドはどうするんですか?」


「あなたに任せるわ。とりあえず冒険者ギルド協会だけは行かないと駄目かしら」


 ギルドマスターの交代とメンバーの脱会を連絡しないといけないよな。


 そうすると多分……


「最低クラスEのギルドになると思うよ」


「でしょうね。私もあなたもランクEレベル1の初心者ですからね。最底辺のギルドね」


 お嬢様は優雅に紅茶を楽しんでいる。自分は強いから周り何て関係無いと思っているみたいだね。


「ギルドハウスも引っ越しですよ? あそこはSクラス専用の建物です」


「当たり前ね。売りましょう。Eクラス用のギルドハウスを買えばいいだけよ。さすがにボロでしょうから内装は改築ね」


 なんかあっさりしているな……


「僕は裏切った人達を許せないよ、絶対に見返してやる」


「いいんじゃない? あなたの自由よ、基本的にあなたに任せるわ。でも、ギルドメンバーだけは私が選ぶわよ」


「ミンフィーがギルドマスターなんだから当然だよ」


 メンバー選びだけはミンフィーがやって、他の全部は僕がやるのか……ミンフィーはあまりやる気が無いみたいだ。


 冒険者ギルド協会に2人で行くとやっぱりギルドはEクラスに降格になると言われてしまった。


「いっそ解散して新たに立ち上げ方がいいですよ。そうすると新規ギルドの助成制度が受けれますから」


 可愛い受付嬢に同情混じりで提案されてしまった。


「ではそうしますわ、ギルドハウスの空きはあるかしら?」


「今、Eクラスに提供出来るのは……潰れた宿屋くらいです」


「そこでいいわ。おいくら?」


「新規ギルドの助成制度で1年は無料で貸し出しです。その後、買い取るか移転するか選んで貰います」


「あら? 良心的ね、素晴らしい制度だわ。改築はしてもよろしくて?」


「新規のギルドがほとんど出来ないので困っているんです。出来てもすぐに潰れますし……改築は許可されています」


 ミンフィーが珍しく考え込んでいる。この人は何でも即決する人なのだ。


「貸し出し期間は要らないからその分お安くして欲しいわ。もちろん即金でお支払いするわよ」


「ミンフィー、それは駄目だよ。1年でギルドが大きくなったら困るよ? Eクラス用って事は10人くらいしか住めないよ」


 Eクラス10名、Dクラス20名、Cクラス30名

 Bクラス40名、Aクラス50名

 Sクラス60名が定員だ。


「もちろん分かっているわ。あなたこそ分かっているの? SクラスギルドはSランクの冒険者が10人居ればいいのよ。もうゴミみたいな人材を抱え込むのは嫌よ」


「まさかメンバー全員をSランクで揃える気かい? 僕はサポーターだし無理だよ」


「当然だけど、あなたもSランクにするわ。サポーターがSランクなのに他が下では変よね」


 もう駄目だ。絶対に言っても聞かないよ。本気でそう考えているから自信満々で話をしてくる……


 Sランクのサポーターなんて存在しないよ


 良くてもCランクくらいなのにさ


 揉めている間に受付嬢が上司を呼びに行っていた様で偉そうな人がこちらにやって来た。


 ギルド長さんらしい。


「話は伺いました。売り値の半額にしましょう。更に周りの土地も多少加えます。ミンフィーさんのギルドの今までの貢献とこれからの期待を含めた特別処置です」


 今までは分かるけど、これからは前途多難だよ?


 まあ安く済みそうだからイイけどね


 こうして僕達はボロ宿を手に入れた

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