第3話 没落お嬢様

 卒業式の後はギルドハウスでお嬢様の卒業記念パーティーが行われる。


 もちろん僕は下働きさ……


 Sクラス冒険者ギルドには60名の冒険者が登録出来る。


 今は満員状態だ


 今日でギルドマスターと奥様が引退するので、お嬢様と僕が代わりに登録される事になっている。


 卒業式を終えてギルドハウスに入ると何だか様子が変だ。

 いつも賑やかなのにやけに鎮まり返っている。


「おい……お嬢様がハズレスキルを引いたそうだな?」


「え?」


 一緒にパーティーの準備をしている先輩サポーターが話しかけてきた。


「もう半分はメンバーが抜けたぞ……」


 なんてヤツらだ!


 世話になったギルドをそれだけの事で見限るなんて!


「ハズレって訳では無いと思いますけど……」


 先輩のサポーターは疑わしそうな顔をしている。


「残っているヤツらも怪しいぞ。俺も他を探す事にするかもしれないな」


 この人はとても真面目でいい人だ。でも、戦闘職がいないギルドにサポーターは必要無い。


「Sランクの冒険者は残っているんですか?」


「昔からの人はさすがに残っているみたいだな……中間と下の方はごっそり抜けたぞ……」


 上の方が残っていれば安心だ。多分まだSクラスギルドのままでいられると思う。


「一緒に戦ってもいないのに……かなり強いと思いますよ」


「お前は確かお嬢様と幼馴染だったな……」


 いや! 本当に強いはずだって!


 どれだけ言っても理解されないだろうな。お嬢様は箱入り娘で、ほとんどの人が素性を知らない。


「失礼します。モッシュ君は居ますか?」


 ギルドハウスの入口に豪華な装備をした人が立っている。


「おい! モッシュ、エクスカリバーの勇者が来たぞ!」


 んん? 何の用事かな……


 話をした事も無い、雲の上の人だよ


「はい。何でしょうか?」


「君、ウチのギルドに来ないかい? 僕のパーティーに入って欲しいんだよ」


「は? あの……もうお嬢様と専属契約を結んでます」


「む? 遅かったか……さすがミンフィーだな……」


 エクスカリバーの勇者は残念そうに帰っていった。


「お前凄いな! Sクラスギルドのエース候補から直々にスカウトなんて滅多にないぞ?」


「よく分からないですけど、お嬢様と契約しましたので」


 何であんな人が僕の所に来るのかさっぱり分からない。

 多分、他の誰かと間違えてたんだな。


「すみません! モッシュ君は居るかしら?」


「おい! 今度はイージス持ちの美人勇者が来たぞ!」


 ギルドハウスの入口に豪華な装備の美人が立っている。


「はい。何でしょうか?」


「君がモッシュ君ね。私のパーティーに入らない? 絶対に後悔させないわよ?」


「えええ? もうお嬢様と専属契約をしたので無理です」


「チッ! 相変わらず手が早いわね!!」


 何だか怒ってイージスの美人勇者は帰っていった。


「フフフ! さすがね、あの2人は。でも全然遅いわ!」


 2階からお嬢様が螺旋階段を優雅に降りてくる。

 上から一部始終を見ていた様だ。


「いいこと? モッシュ。これからはあの2人が私達のライバルよ。特にあの『ガチガチ女』に負けては駄目よ。あの女は自分が1番強くて美しいと勘違いしている愚か者よ」


「お嬢様……確かあの人はSクラス冒険者ギルドでも最上位ギルドのお嬢様だったはずですけど……」


 もう既に負けているよ……


 ウチなんて赤字スレスレのギリギリSクラスじゃないか。


「何を言っているの? 既にあなたを先に確保して勝ったわ。今の悔しそうな顔を見たでしょう? フフフ」


 よく分からない勝負だ


「そんな事より、どうするんですか? メンバーが沢山辞めてしまったそうですよ」


「別にいいわ。興味が無くてよ」


 そうだよね……自分の事にしか興味が無いんだからさ


「お嬢様、乾杯の際は何を飲まれますか? もうお酒を飲んでいいのでお好きな物を準備します」


「そうね。初めてお酒を飲むから女性向きの軽いお酒にしてもらうわ」


「では、女性に人気のあるアルコール3%のチョロ酔いのレモン味でいかがでしょうか?」


「それで結構よ」


 お嬢様のご両親はどちらも酒豪なので、多分お嬢様も凄くお酒に強いはず。

 大体、冒険者はみんなお酒に強い。

 ここのギルドが赤字寸前なのは酒にお金が掛かり過ぎているかららしい。


 毎晩、宴会ばかりしているからね……


 パーティーの準備が整ってホールに残っている全員が集まった。


「ミンフィーお嬢様、ご卒業おめでとうございます!」


「「「 乾杯 !!!」」」


 乾杯と同時にみんなのグラスが空になってしまう。


 毎日こんな感じなんだけどね


 お嬢様も一気に飲み干してニコニコ微笑んでいる。


 僕はみんなのグラスにお酒を注いで回らないといけない。


 お嬢様にチョロ酔いのおかわりを持って行く 


 突然……


 バタン!


 お嬢様が真っ赤な顔をして倒れてしまった!!


 …………zzzzzz



 お嬢様は酔っ払って寝てしまったようだ!


「おい! モッシュ! お前、お嬢様に何を飲ませた?」


 Sランクのベテラン冒険者が凄い怖い顔で聞いてきた。


「え!? チョロ酔いレモン味ですけど……」


「はぁ!? お子様向けの飲み物じゃないか!」


 どうもお嬢様はお酒が飲めないみたい


 親がお酒に強いから子供も強い訳では無いんだね



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               ふぐ実

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