第2話 お嬢様のガチャ

 幹部候補生の『ガチャ』が始まった。


 勇者、賢者、聖者……


 ジョブだけでも凄そうな人達が『ガチャ』を引いてチートなスキルを手に入れていく。

 そして、卒業記念装備として伝説級の装備が授与される。


「あの勇者の人は聖剣エクスカリバーだってさ」


「あっちの勇者はイージスの盾だぜ」


 みんなSクラス冒険者ギルドの子息達だ。何処からどう見ても最高級の装備で上から下まで揃えていて強そうにしか見えない。

 わざわざ格好をつけなくても普通の衣装を着てくればいいのに。


 金持ちの見栄にしか思えないな……


「ミンフィーさん『ガチャ』を引きに行って下さい」


 控え室で待っていたお嬢様は全く鏡の前から動かない。


 いつもの事だ……ずっと自分を見ている……


「モッシュ、あなた飲み物が作れる様になったそうね?」


「うん、コップ1杯だけどね……」


 ミンフィーが全く鏡から視線を移す事無く聞いてきた。

 僕は出番が終わったのでミンフィーの従者をしている。

 幼馴染だから誰もいない所ではミンフィーと呼んでもいい事になっている。人前ではお嬢様と呼ばないといけない。


 僕はひどいゴミスキルを習得したのでちょっとした有名人になっているらしい。


「今後、あなたを私の専属にしますわ。よろしいわね?」


「僕が君の専属に? ギルドにはベテランのサポーターさんが沢山いるから……幼馴染だからってそんな事、通らないよ……」


「これにサインしなさい」


 ミンフィーは準備してあった専属契約書を差し出してきた。


「私以外の者とパーティーを組むのは認めません」

 

 ミンフィーは1度決めたら全く考えを変える事は無い。


「別にいいけどさ……」


 一応、中身を確認したけど対等な契約書だった。


 つまり……


『ミンフィーも必ず僕とパーティーを組まないといけない』


 こっちにはいい事しか無い。必ずギルドマスターのパーティーに入れるんだからね。


 専属契約書にサインをした


 すると契約書が光ながら宙に浮かび、炎をあげて消えてしまった。


 契約魔術じゃないか……違反したら死んでしまうらしい


「時間が無いわ。このコップに『運』が上がる飲み物を出して」


 そう言って小さなコップを僕に差し出してきた。


「え!? そんなのズルじゃないか……」


「ズル? みんなの装備を見なさい。全部『運』が上がる装備よ」


 あの無駄に豪華な装備にはそんな意味があったのか!


 でも、ミンフィーは社交用の純白のドレスを着ている。『運』の上がる装備では全く無さそうだ。


 コップを持たされてしまった。


「ミンフィーさん、時間です。『ガチャ』を引いて下さい」


 よく分からないスキルだけどやってみるしかない。


 コップを両手で持って……


 『ガチャ』から良いスキルが出ますように……


「運が凄く良くなる飲み物出ろ!」


 するとコップの中に金色の飲み物?が突然現れた!


「あなたね……もう少し美味しそうなイメージを持ってスキルを発動させなさいよ。これでは飲み物に見えないわ」


 確かに飲み物に見えない……


 金色のドロッとした液体がコップに入っている。


 とても不味そうだ!


「初めてスキルを使ったんだから仕方ないよ。次は美味しそうなイメージで作ってみるけどさ……」


 1日1回しか使えないスキルだから作り直す事は出来ない。我慢して飲んでもらうしかない。


「どれ位の効果時間があるか分からないわ 直前に飲むから一緒に来なさい」


 ミンフィーは最後に自分の姿を上から下までしっかり確認して控え室を出た。

 『ガチャ』のマシーンが置かれている舞台の脇まで来てコップを僕から受け取り一気に金色の液体を飲み干した。


「次は10年ぶりの『モンクガチャ』です ミンフィー様、お願いします」


 ミンフィーは颯爽と舞台に上がって早足で歩いていく


 美しいピンク色の長い髪がふわりと舞っている


 純白のドレス姿も綺麗だ……


 他の卒業生とは全く違う格好なのでとても目立つ


 冒険者にはぜんぜん見えない


 本当のお嬢様だ


 ミンフィーがガチャマシーンに冒険者カードを差し込んだ


 ドン!


 そしてすぐにガチャマシーンの赤いボタンを叩いた!


 ガチャガチャ音を立ててカプセルが掻き回されている。


 ポトン……


 虹色に輝くカプセルが排出された!



 スキル  酔拳  酔えば酔うほど強くなる



「おーー!? 酔拳? 有名だけど……」


「うわ……アレってハズレじゃね?」


「微妙ね……」



 卒業記念装備として


 『黄金の瓢箪ひょうたん』が贈られた!


「この瓢箪ひょうたんは不壊属性を持った特別な物です……」


 進行役の人まで微妙な感じで喋っている……


「いらねーーー」


「何に使うのか全く分からないわ……」


「ヤバくねーーー」


 ミンフィーは満面の笑みで受け取っている


 とても満足しているみたいだ


 舞台に上がった時と同じように颯爽と戻ってきた


「モッシュ、美味しい飲み物を作りなさい! 不味くて吐きそうだったわ」


「お嬢様すみません……あまり効果が無かったみたいで」


「何を勘違いしているの? 私はガチャなど関係無く最強ですわ。私は最強でしかも最高に美しいのです。当たり前過ぎて言うのも嫌だわ」


 そう言うわりには『運』の上がる飲み物を欲しがったけど、もう忘れているみたいだ……


 白いドレス姿に金色の瓢箪ひょうたんを腰に装備している


 全く合わない気がするけど……


 そして控え室に戻っていろんな角度から自分を見て


 何度も頷いている


 はぁ……もう30分も自分を眺めているよ……


 ん? 待てよ……


 酔拳だって!?


 酔えば酔うほど強くなる??


 は! やばいぞ! 


 確かにミンフィーは最強だ!


 恐ろしいスキルを手にした……


 ミンフィーは



 『 極度の自己陶酔者 』だ!



 常に自分に酔っている!


 ありとあらゆる面で!


 容姿 性格 強さ 頭脳……


 とにかく全てだ!


 自分の全てに酔っているんだ!


 これは間違いなく『チートスキル』だ!!!

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