滝壺

豆君は

あれからずっと

歩き続けていた

歩いていることも忘れるくらいに

考えることも忘れ

ただ歩きつづけていた

崖があるのも気が付かず

崖からまっさかさま

崖の下は川

川の中に落ちる

急な流れに

身をまかせ

その先には滝

そのまま落ちて

滝つぼでぐるぐるまわる

目もまわる

水のあぶくを眺めながら

ここまでか…


気づいた時には

水の底

前に見たよな

水の底

きらきら光って

ゆらゆらゆれる

ここはあの世か

天国か

天使はどこだと

みわたすと

さかなが

きらきら泳いでる

さかなに

「ここはどこ?」とたずねると

返事もしないで

泳ぎ去る

しかたがないので

浮き上がる

ドォ~という音

滝の音

岸を目指して

泳ぎだす

ようやく岸にたどり着き

そのままそこに横たわる

そらには

ひかる月と星

星をつないで

星座をえがき

いつのまにか

ねむってしまう…


まばゆく

あたたかい光で

目が覚める

まだあの世ではなかったらしい

「まだ歩くのか」

そういって

立ち上がる

まわりは木々が生い茂り

木の根もとにいくと

そこには

木の実がいっぱい落ちていて

木の実からは芽が出ている

その芽にふれると

少しほほえみ

けもの道をみつけ

歩き出す


豆君はだいぶ色あせていた

もう梅干しの種だか

なんだかわからなくなっていた

ただの白っぽいかたまりになっていた

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