あそぼ

青に浮かぶ

黒い群れ

その中に

色あせた梅干しの種

とてつもなく大きな水たまりを越え

新しい大地にたどりついた

そこは

緑に囲まれた青

再び水たまりに舞い降りた

「ついたぞ」

鳥はいった

「ここはどこ?」

「うちだ」

忘れないうちにと思い

豆君は聞いた

「あんたの名前は?」

「ない」

「みんなになんて呼ばれるの?」

「誰も呼ばない」

「へぇ~」

豆君は感心した

「これからどうするの?」

「ここでなんもしない 食べて寝るだけだ」

「へぇ~」

また感心した

豆君は

「あっちまで送ってくれないかい?」

岸を指さした

「いいぞ」

そういって鳥はもう一度羽ばたき

豆君を岸まで送り

そこで豆君は鳥の背から降りた

今までより柔らかい土の感触

「ここでさよならだな」

「ありがとう 助かった」

そう言ってそこで別れた

お互い振り向きもせず

別々の方向へむかっていった


あっちから来たから

とりあえずこっちに行こう

豆君はまた歩き出した

森の中へ


奇妙な声がいたる所から聞こえる

キャキャキャキャ

ジジジジジッ

チョチョチョチョチョチョ

姿はみえない

声だけ聞こえる

豆君もまねして

「ウシシシシシシシ・・・」

と言いながら歩いていった

姿のみえないみんなと

同じになれた気がした

森の奥へと進むにつれて

だんだんうす暗くなり

声も聞こえなくなってきた

「誰かいないの~?」

豆君は叫んだ

返事はない

もう一度叫んだ

「誰かいないの~?」

「いないよ~」

返事が返ってきた

ばかだなあ

と思いながら

豆君は

「いないのかぁ 」

と大きく独り言をいって

知らないふりをして

「ウシシシシシシ・・・」

と言いながらまた歩きはじめた


「無視するな」

後ろから声がする

聞こえないふりをして

「ウシシシシシシ・・・」

と言いながら歩いていった


「いるよ~」

また声がする

しつこいなと思いながら

まだ知らないふり


「いるよ~」

「ウシシシシシシ・・・」


すぐうしろで

「いるよ~」

豆君は

「うるさいっ」

と言って振り返った


そこには

羽の生えた虫が

ニコニコして飛んでいた

「なにしてるの?」

虫は聞いてきた

その笑顔に

豆君もニコニコしそうになったが

我慢して

「見ればわかるだろ」

と言った

「歌ってたね ウシシシシシシ・・・って」

「あれは歌じゃない」

「じゃあなんなの?」

「・・・」

豆君は答えられなかった

知らないふりをして

また歩き出した


「ねえねえ 遊ばない?」

「いい」


「いいってどっち?いいの?だめなの?」

「だめだ」


「どうして?」

「どうしても」


「ど~しても?」

「そうだ!!」


立ち止まって

大きな声で虫に向かって言った

虫はちょっと悲しそうな顔になった

虫は背を向け

飛び立った


豆君は

「お~い むし~」

と呼んだ

「むしじゃない!」

虫は舞い戻ってきた

じゃあなんだ?

「鳥なの…本当だよ くちばしあるでしょ」

「確かに」

「ねっ」

「なんでもいい 何して遊ぶんだ?」

豆君は聞いた

「散歩してお話する」

「それは散歩じゃないか」

「いいの」

「まあいいか…」

「おまえ歩けるのか」

「ちょっとなら」

鳥はちょんちょんと

しばらく歩いていたが

「飛ぶね」

と言って

飛んで一緒についてきた

「一緒にいても楽しくないぞ」

豆君は言った

「いいの」

鳥は言った

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