空へ

豆君は陽に照らされ

泥にまみれ

雨に打たれ

だんだん赤い色が落ちて

梅の種

本来の色に近づいていた

豆君は

自分を漬けてくれた

お母さんのことを

思いだしていた

ヘタをとってくれた

やさしい手の感触を・・・

きょうだいたちと

瓶の中で一緒に過ごした

日々を思い出していた


豆君は立ち上がり

そばにあった

木端をひきずり

とてつもなく大きな水たまりに

挑んでいった

木端は

豆君が乗るには十分な大きさだった

徐々に流され

だんだん陸も遠くなり

まわりは水しか見えなくなった

自分がどこから来たのか

どこに進んでいるのか

そんなことはもうどうでもよかった

風がやさしく

豆君を後押ししていた

太陽は変わらず豆君を照らし続けていた

豆君は退屈だったので

そのまま眠ってしまった


いつの間にか辺りは真っ暗

細い細い月が空に浮かんでいた

ときおりきこえる バチャン バチャン

という音を聞きながら

豆君はまた眠ってしまった


強い衝撃で目が覚めた

豆君は宙に浮き

そのままボチャンと水たまりに落ちた

プカプカと浮いている事しか

豆君にはできなかった


やがて太陽が昇ってきた

しばらくすると向こうのほうから

鳥の集団が飛んできた

豆君は大きく手をふり

声の限り叫んだ

「お~い お~い こっちだ~」

数羽の鳥が気付いたようだった

豆君の頭上を旋回し

そのうちの一羽が

豆君を口にくわえ水たまりから拾い上げ

他の一羽の背中に乗せた

豆君はその背中の羽根に

しっかりとつかまった

「一緒に来るか?」

その鳥は尋ねた

豆君は「うん」と答えた

鳥たちと一緒に

空高く舞い上がった

「どこにいくの?」

「からだがおぼえているんだ」

鳥は答えた

鳥の背で

豆君は目の前に広がる

青と白の世界を眺めていた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る