数日後。

 珍しく、その日は店に来客があった。

「頼みますよ『相談屋』さん! もう一度だけ、もう一度だけ千代田様の所についてきてくださいっ!」

「……勘弁して下さいよ、清兵衛さん」

 清兵衛さんの話を聞いた私は、げんなりしながらそう言った。

 高木様と千代田様の一件は、美談として君主の細川越中守の耳に届いたのだという。良き話を聞き、良き家来を持ち、余は幸せである。高木佐久左衛門並びにその茶碗、目通り許すとなって、高木様は衣服を正し、茶碗を桐の箱に入れ、主君の前へ罷り越したそうな。

 そしてその茶碗を細川越中守が見た瞬間、目利きが呼ばれ、衝撃の事実が発覚する。

 千代田様が二十両のかたとして高木様に渡した、あの茶碗。何と名器、青井戸の茶碗であるのだという。新羅、百済、高句麗辺りで焼かれた一国一城にも勝るとも劣らない名器だとして、細川越中守がこの茶碗を所望したのだ。

 細川のお殿様が、家来からただで物を取り上げるようなことをするはずがない。茶碗の代わりに三百両という金が、高木様の元へ払い下げとなったのである。

「お願いしますよ、『相談屋』さん! 五十両であの騒ぎだったんですよ? 折半することになったんですが、それでも百五十両! 五十両で刀に賭ける人ですから、百五十両なんて言ったら千代田様、きっと大砲持ってきちゃいますよっ!」

「そう言われましても……」

「大丈夫ですよ、清兵衛さん。そのまま千代田様の所へ、その金子をお持ちください」

 弱っている私の代わりに、二階から降りてきた先生が、清兵衛さんへ耳打ちをした。

「……本当にそれで、大丈夫ですか?」

「大丈夫です。それでどちらもご納得いただけるでしょう」

「そうですか? では、それで話を千代田様にしてみます」

 そう言って清兵衛さんは、うち店を後にした。

「先生。清兵衛さんに、なんておっしゃったんですか?」

「前回と同じようにしてください、と言っただけですよ。何かかたのようなものを千代田様から出して頂いてください、と」

「……でも、百五十両ですよ? そのかたになるようなものって、早々ないんじゃないですか?」

「借金のかた、というのであればそうかもしれませんが、受け取る名目を作るのなら、選択肢は増えますよ。幸い、そのお膳立てはしてきたつもりですので」

「はぁ……」

 先生の言っていることがよくわからないまま、私はその日の仕事に出かけた。

 

 その日の夕方。

 清兵衛さんから、私は高木様と千代田様の御息女がご婚約されたことを聞かされた。

 高木様が娘を娶ってくれるのならその百五十両、支度金として受け取ると、千代田様がおっしゃられたのだという。

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