ヌルい日常は全力逃走
赤羽 椋
第0話 プロローグ
雨の止む気配がない六月。ようやく高校という新生活にも慣れた。しかし本当に止まない雨に俺――
「なあ俊、どうしたんだ浮かない顔して? 変なものでも食べたか?」
「違う違う、ずっと雨ばっかりだから気が滅入っちまってな」
こう話しかけてくれるのは幼馴染のた
「ほんと、止む気配ないわね。三谷がそういうのも頷けるわ」
この二人の幼馴染と同じクラスになり、俺はぬる〜い高校生活を送っていた。
そして、そのぬるさを凍らせるかの如く、転校生がやってきたとの一報を耳にする。それにしても入学から二ヶ月での転校とは早い。親の事情でもあるのだろうか。そしてその人の転校初日を迎える。
朝のSHR。扉が開き、見慣れない制服に身を包んだ生徒が一人、教室に入ってくる。紛れもない、転校生だ。
「初めまして。私転校生の
聞き慣れない言葉だ。イントネーションも、自己紹介の言葉も。これが生の関西弁か……。
「ええっと、向、お前の席はあそこだ、三谷の隣……じゃ分からないか、窓際の後ろから二番目だ。三谷、仲良くしてやれよ〜。じゃ、ショート終わりな」
そう言うと転校生――向は俺の隣の席に座った。
容姿はそれなりに端麗と言えるだろうか。しかし方言なんて人生で初めて聞いた。何と言うか、耳にすんなりと入ってこない。でも、新鮮味があっていいな、とも思った。
なんて思考に耽っていると隣は騒がしくしている。やはり方言は人を惹きつける何かを持っているのだろうか。初対面のはずなのに二人ほどに囲まれている。一人は出席番号の女王の
――君に、会いたかったんや。
ふとそう聞こえた。俺は勢いよく顔を上げる。しかし、向は何事もないように喋っている。案の定夢だ。まさか、俺に会いにここに転校してきたとか自惚れが過ぎる。一瞬でも脳裏を過っただけでも気持ち悪い。俺はふっ、と自嘲し、再度意識を闇の方へと手放した。
今日この日が、ヌルい日常との別れの日、高校生活の転換点だとは知らずに。
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