第6話 生まれた時から10歳ね!

 2個のカンテラが薄暗かった小屋の中を明るく照らしてくれる。はっきりと見える過ぎて小屋が汚いのが気になる。


「掃除した方がいいね」


「うん! なんだかやる気出てきたよ!」


 弟くんが元気一杯に掃除を始めた。楽しそうに掃除をしているけど……時折、動きを止めて何かを真剣に考えている。


 言わないと……


「シュン……私、モンスターを倒してもレベルが上がらない特異体質なんだって」


「え!? なるほど……それで……でもモンスターは倒せるんでしょ?」


「ゴブリンくらいなら……Bランク冒険者並の魔力があるって言っていたけど」


「そっか! 全然いけそうだね!」


 何がいけそうなのか分からないけど、弟くんは賢いのでいけると言われればいけると思えるから不思議。


「それでね……シュンのジョブなんだけど……」


「知ってるよ。商人なんでしょ? 自分で選んだから驚かないよ。黙っていてごめんね」


「そうなの? 何で商人なんて選んだの?」


「モンスターと戦うのが嫌だったんだ。神様が好きなジョブを選んでいいって仰ったからね。お姉ちゃんが大魔道なのもお姉ちゃんが選んだからだよ」


 そうだったんだ……


 私と弟くんは転生してこの世界に来たらしい。同じ転生者でも2人には決定的な違いがあった。



『私には前世の記憶が無く、シュンには前世の記憶が有る』



 私は10歳でこの世界に生まれた。弟のシュンは6歳。私は生まれた時には10歳で王都の小さな小屋に居た。


「お姉ちゃん、ちょっと生活が厳しいからスキルを使うね」


 王都での生活は弟くんが支えてくれた。生活に困ると弟くんが何とかしてくれた。

 自分で働きたいと言ったら、教会に連れて行ってくれた。職業診断を受け、ギルドに入るのを薦めてくれたの。


「スキルを使うのはいいけど何をするの?」


「もちろん商売だよ。でも、まずは掃除だね!!」


 弟くんは底抜けに明るいからいつも助けられる。小屋の中をピカピカにするととても良い気分になった。


「魔力は大丈夫?」


 魔力の減り具合を検証する為に2個のカンテラに狐火を灯したままにしてある。


「全く問題無し! 減っているかも分からないくらい!」


「うんうん! じゃあ、部屋でロウソクを使うのはもう止めよう。汚れちゃうしクサイからさ」


 それから私達は村の中を散策した。建物は私達の小屋、ドンガさんの小屋、鉱石を保管する小屋の3軒だけ。小さな井戸が1つ。村の外周は木の柵で囲われている。鉱山の入口の左側に他のドワーフ達が住む洞窟の入口があった。


 ドンガさんは村の外周をもっと広く囲うのがメインの仕事みたいだ。外柵の更に外側に柵を作っているのが見えた。


 村にはお店が無い。鉱石を引き取る為に週に1、2回馬車が来るらしい。その時に欲しい物を頼んでおけば、次に来る時に買って来て貰えるそうだ。

 

「楽しいな〜 何も無い所が最高だよ〜」


 可愛い弟くんだけどこういう変わった所があるんだよね。私はかなりツライんですけど……


「とりあえず着る物が有ればいいよね?」


「食事は貰えるからそうね。着る物は欲しいな」


「お姉ちゃん、今持っているお金は幾らなの?」


「銅貨が10枚残っているよ」


 勇者がくれた手切れ金。


「クエストの報酬は家賃と食事代ってとこかな?」


「そう。だから働いてもお金は増えないの」


「あの仕事内容で家賃と食事ならかなりお得だよ」


 カンテラの整備と火をつけて配るだけだもんね。食事も食べきれない程多いし。住む所だって他のドワーフさん達が洞窟で暮らしている事を考えると断然いい。


 スキルを使うと言った弟くんはさっそく動き出した。


「お姉ちゃん銅貨10枚借して。ちょっと出掛けてくるよ」


 弟くんがやっているのは物を買ってそれを売るだけらしい。私が困ると必ず弟くんが助けてくれるので問い詰めたら教えてくれた。悪い事は絶対にしてないと言っているので安心したけど……

 

 転移と言う特殊なスキルで行った事のある町や村へ瞬時に移動して転売って事をするみたい。


 弟くんが銅貨の入った小さな袋を持ってパッと消えた。


 数時間後に戻って来た時には私達の着替えを手に持っていた。銅貨10枚は袋に入ったままで返してくれた。


「お姉ちゃん、僕達が幾らお金を持っているかは絶対に言わないでね」


「う、うん。お金が無いのに物が増えたらおかしいもんね」


「そうそう! さすがお姉ちゃん!」


 そんなに簡単に稼げるならササっと稼いでくれればいいのに何故かそれはしてくれないんだよ……


 トホホだけど弟くんに頼ってばかりじゃあ駄目だから言えないんだけどね!

 

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