第3.5話 閑話の朝

「ふぁ~あ」


 目に容赦なく刺さる眩しい朝の陽ざしが無理やりまぶたをこじ開ける。

 昨日は半ば寝落ちのような形だったため布団を中途半端にしか羽織っていない。

 東北の春先はぽかぽか温かいなんて生ぬるいものでなく普通に寒い。

 特に寒いのが苦手な俺が着込んで寝ないのは自殺行為といっていいだろう。


「そういえば昨日寝落ちしたんだった・・」


 怒涛の1日に体が限界を迎え泥のように眠ってしまったようだ。部屋に掛かった時計を見ると既に午前10時を回っていた。

 なんだろう、いつもより2時間遅く起きただけで1日を無駄にしてる感がすごいな。もっとも、いつも別にやりたいことがあって早く起きているわけではないのだが。

 そういえば、父さんたちは何時くらいに帰宅したのだろうか。少なくとも10時くらいまではどこかに行っていたとみられるが。

 まあいい、そんなことよりもお腹が空いた。なにか適当に作って食べるか。

 そう思い部屋の真新しいドアノブに手をかけ部屋を出ると目の前を義妹が通り過ぎて行った。義妹こと彩花さんの部屋は俺の部屋のとなりのとなりにある。

 なにか声をかけた方がいいのだろうか。迷っていると


「随分と遅かったね。おはよう」


と先に声をかけられてしまった。その声は絶対零度まで冷やされた氷の女王のような冷徹さでもなく熱血スポ根アニメのような暑苦しさでもない。あくまで無関心を掲げる実に俺たちらしい温度と言えるだろう。

 相手がそうしてくれるなら俺もそれに応えなければな。


「まあ昨日色々あったからな。疲れてたんだよ」


「そう。朝ごはん、テーブルに置いてあるから」


「作ってくれたのか?」


「お母さんたちのついでで簡単なものだけどね」


「ん、サンキュ」


 淡泊な会話を済ませ眠い目をこすりながら階段を下り、その足でリビングへと向かった。




 リビングでは父さんと由美さんが話していた。ちょうどいい。昨日どこに行っていたのかを聞いてみよう。


「父さん、由美さんおはよう」


「おお、やっと起きたのか」


「おはよう、優斗くん」


「そういえば昨日はどこに行ってたの?」


「ああ、親戚の家に挨拶に行っていたんだ。遅くなってすまんな」


「いや別にいいんだけどさ」


 なんだ。そんなことだったのか。大したことじゃなかったな。


「ごめんね優斗くん。心配かけたね」


「いえいえ、大丈夫ですよ」


「そう?良かったぁ」


 由美さんは恐らく思春期である高校生男子に母親として認められているか心配だったのだろう。さぞかし安心した様子で息を吐いた。


「あ、そうだ!彩花がね朝ごはんを作ってくれたのよ。これ優斗くんの分だからね」


「あ、ありがとうございます。さっき廊下で会ったときに聞きました」


 随分と自慢げに自分の娘が作ったご飯をすすめてくる。彩花さんの手料理は昨日の夜に十分に堪能しているためその実力はもう知っている。

 テーブルに上がっている皿にはこんがりと焼きあがったトースト、真ん中に黄身が落とされた綺麗な目玉焼き、ベーコンとホウレン草のバター炒めといった定番かつ簡単ではあるがクオリティの高い品の数々が並んでいる。


「いただきます」


 誰に聞かせるわけでもなく、しいて言うなら作ってくれた彩花さんに対して食事の挨拶をして一人遅めの朝ごはんを頂いた。


 一切の手抜きを感じられない彼女の料理がおいしかったのは言うまでもなかった。


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