初めての手作りサンドイッチ!

 てなワケで。

 魔王城から帰ってきてからも、ありましたよ、イロイロと。


 俺が『勇者と魔王の大戦争』を終わらせた功績を称えて、凱旋パレードとか、なんかよくわからんメダルの授与式とか、周りは知らない人だらけの祝賀パーティーとか、勇者通信に載せるインタビューとか、なんか雑誌の取材とか、その他モロモロイロイロあったのですよ。

 魔王城で。

 なんで勇者の功績を称えるのに魔王城を使うのか、ツッコミどころが多すぎて、もうワケわかんねーですよー。


「カワイー!」

 とか。

「俺と付き合ってー!」

 とか。

「ウケるー!」

 とか。


 って、ウケるってナニがっ!?


 称賛だかヤジだかわかんない声援を浴びつつのパレードは、まあまあ楽しかったけどもっ。

 魔王城って名ばかりで、ただのテーマパークとか、イベント施設みたいなカンジになっちゃってますよ。


 俺ったら、一躍『時の人』になっちゃって、あっという間に有名人!

 目立ちたくなのに目立っちゃいましたよ、男のっ!


 まあ、それも過ぎたコト。

 ようやく戻ってきましたよ、いつもの日常が。時の流れって早いのですよー。


 で。

 明日から、またバイトですよ。

 なんか、勇者の扱いが雑じゃないかっ?


           ◇


 ここはアパート。俺、フィルフィー、ペリメール様の三人が暮らすボロアパートですよ。

 またココから始まるのですよ、いつもの日常が。


「あー、ヒマだなー。かまってくれよ、ヒカリぃー」


「ちょっ!? 止めてようっ!」


 うおお、ゴロゴロしながら俺のジャージをずり下ろそうとするんじゃないぞ、ニート女神っ!

 忙しい時間が過ぎて、いつもの日常が戻ってきたと思ったらコレですよっ!

 

「ペリメール様は女神のお仕事を頑張ってるのに、なんでフィルフィーはヒマそうなのさっ!?」


「あたしの仕事はゴロゴロするコトなんだよっ。文句あっかっ」


 ゴロゴロする仕事ってなんじゃい、それっ。そんなんで収入があるなら、世の中みーんなゴロゴロしまくりだろっ。


「言っておくけどね、フィルフィー! ボクはイケメン勇者になるコトを諦めたワケじゃ無いんだからねっ!」


「ああんっ? だからなんだよっ? ナニ宣言なんだよ、それ」


 だからなんだよとは、なんだよですよ、俺のイケメン勇者になります宣言を軽ーく足蹴にしやがりますよ、ゴロゴロ女神っ!


「イケメン勇者なんかどーだっていーから、遊んでくれよ、ヒカリぃー」


「ちょっ! 止めてってばあっ!」


 だから、ジャージをずり下ろそうとするない、ヘンタイ女神っ!

 ヘタしたらおパンツまで脱げちゃって、俺のカワイイ『コヒカリ君』がコンニチワしちゃうでしょーがっ!


「今からサンドイッチ作るんだから、邪魔しないでよね、もうっ!」


「はあーん? サンドイッチぃー? そーいや、ルルコに食わせてやるって言ってたっけかー?」


「今日はルルコちゃんとお散歩に行くって三日前から言ってたでしょっ! お昼に間に合うようにしたいから、フィルフィーも手伝ってようっ」


「ああんっ? 手伝わねーよっ。あたしもサンドイッチ作るから勝負しやがれっ!」


 ニターリと悪魔の微笑みですよ、ヤンキー女神っ。ペリメール様は『フィルフィーの料理はプロ級』って言ってたから、ド素人の俺が敵うハズがないっ!


 だがしかし!

 俺は絶対に負けない、何故ならばっ!

 ルルコちゃんへの愛情はフィルフィーより大きいのだからっ! 


「ルルコの好物はイチゴミルクだったよなー。そんじゃあ、ちょちょいっとアレンジしてイチゴのフルーツサンドにすっかなーっと」


「えっ!?」


 なんでルルコちゃんの好物を知ってるんだ、フィルフィーはっっ?

 ぐぬぬ、早くも一歩遅れをとる俺ですよ、だがしかしっ!

 男のお兄ちゃんのプライドにかけて、そんな簡単には負けませんよおっ!


「そんじゃあ、今から食材買いにくぞ、ヒカリぃっ!」


「ちょっ!? いっ、行くからっ! ジャージ引っ張らないでようっ!」


「気合い入れて特攻ぶっこむぞおっ! スーパーに殴り込みだあっ!」


 ああもう静かにしなさい、お騒がせ女神っ!

 殴り込みじゃなくって、フツーにお買い物に行くだけでしょーがっ!


          ◇◇◇


「スーパーまでダッシュすんぞヒカリぃっ! ちんたらしてっと置いてくぞぉっ!」


「スーパーはそっちじゃないよ、フィルフィーっ!」


 買い物行くだけなのに出だしからコレですよ、あわてんぼ女神っ。


           ◇


「イチゴっ、イチゴっ、まるまる太った、いっちっごっ♪ あっ、見つけたぞぉっ! ヒカリぃっ! こっちだこっちー!」


「静かにしてよ、もうっ。笑われてるよっ?」


 スーパーの中で歌うとか俺の名前をでっかい声で呼ぶとか、じっとしてられないヤンチャな五歳児かっ。

 お買い物中の奥様方から、クスクス笑いが聞こえてきますよー!

 一緒にいる俺の方が恥ずかしいっ!


           ◇


「気合いと根性でペースト状にしてやんぜ、イチゴどもぉっ! うらああああっ!」


「イチゴに正拳突きなんてしたらダメだよ、フィルフィー!」


 アパートに帰ってからの料理中でも大騒ぎですよ、クッキング女神っ。

 料理くらい静かに出来ないのか、もうっ。

 

           ◇


 フィルフィーったら、イチゴに正拳突きするわ、俺のをつまみ食いするわ、ジャージをずり下ろそうとするわ、とまあ、なんやかんやとありつつも、なんとか出来上がりましたよ、サンドイッチ。

 サンドイッチ作るだけで体力消耗したのは、間違いなくフィルフィーのせいですよ!

 でもまあ、出来たからヨシです。

 ヨシなのです。


 ◇ 初めての

    サンドイッチですよ

     男の  ◇ ヒカリ


 ルルコちゃんのコトを想い浮かべながら作ったのですよ、愛情たっぷりにっ。

 喜んでくれるかなっ?

 食べてくれるかなっ?

 誰かに手料理を作るって、けっこうドキドキするもんなんだなっ。

 こういうのって、オトメゴコロがわかるような気がしないでもないですよ!



「騒がしかったけど、フィルフィーって、ホントに料理上手だったんだねー。見直しちゃったよ」


 やいのやいのと騒ぎながらも、とんとんサクサクと手際よく作っちゃうもんだから、思わず見とれちゃいましたよ。

 イチゴに正拳突きって、ビックリしたけど。


「ああんっ? 褒めてもなんも出ねえぞっ。勝敗はルルコが決めるんだからなっ」


「ルルコちゃんが決める、って、どうやって?」


「あたしのとヒカリのを同時に出して、ルルコが先に取った方が勝ちだっ。それなら料理の上手い下手はカンケーないだろっ」


 むむ、なるほど、そーですか。

 それならまだ公平かも知れないなー。

 だがしかし。

 口に入れた途端に吐き出されちゃったらどうしよう、とか。

 ぽんぽん痛くなっちゃったらどうしよう、とか、若干の不安がよぎったりしちゃいますよ。

 なんせ初めて作ったんだし。


「上手い下手はカンケーないからなっ。大事なのは味だ、味っ。あと、愛情なっ」

 

 愛情って、まあ、ルルコちゃんのコトを思い浮かべながらは作ったけども。


「愛情って、目に見えないものでしょ? ちっちゃいルルコちゃんにわかるのかなー?」


「んーなもん、弁当箱のフタ開けた瞬間にわかるもんなんだよっ。ハートの花が咲くからな、マジでな」


 ハートの花?

 なーんか、少女マンガに出てくるシチュエーションみたいなコト言ってるけど、それって、もしかして。


「ペリ子が作ってくれたヤツは、弁当箱から溢れるくらいにハートの花が咲くからなっ」


 やっぱりかっ。

 ナニを惚気ノロケてくれちゃってるんですかね、新婚女神っ。

 それはお互いのコトを大好きだからじゃないのかなっ?

 言わないけど!

 

「べんべ~ん、弁当っ、出来上がりっ♪ ってなもんでいっ! もうじき昼だし、ルルコを迎えにくぞ、ヒカリぃっ! 殴り込みだあっ!」


 ただのお迎えを殴り込みって言うんじゃないぞ、物騒女神っ。ナニをするにも騒がしいヤンキー女神様ですよ、まったくもうっ。

 

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