ヒカリの選択

「そういや、ルルコにサンドイッチ作ってやるんじゃなかったっけかー? 練習も無しに作れるのか、ヒカリぃー?」


 照れてアッチ向いてたのに、ふっと振り返って、ニターリと悪魔の微笑みですよ、イジワル女神っ。

 今度会う時までにって、あっという間に再会しちゃったから、サンドイッチを作る練習もナニもあったもんじゃなかったでしょーがっ。


「それはこれから頑張るようっ。約束は守るんだからねっ!」


「へえ? じゃあ、あたしと勝負するかー?」


「えっ!? フィルフィーって料理出来るのっ?」


 と、つついっと、フィルフィーに寄り添うペリメール様から驚愕のお言葉がっ。


「実は、フィルフィーさんの手作り料理は、プロ並みで、そのお味は絶品なのですわっ♪」


「えー!?」


 これは初耳ですよ、フィルフィーが料理してる所なんて見たコト無い!

 でも、ペリメール様が言うんだからホントなんだろうけど、なんかめっちゃドヤ顔ですよ、ヤンキー女神っ。


「あたしのサンドイッチを食らって腰抜かしやがれっ! てなもんでいっ! ルルコにも食わせてやっからなっ! カクゴしやがれっ!」


「う゛にゃ? にゃははー♪」


 俺達の会話を理解してるのかわかんないけど、笑ってますよ、ルルコちゃん!

 やっぱカワイイなー。

 イロイロあったけど、無事にリセット出来て、ホントにヨカッタヨカッタですよー!


「うむ。善きかな善きかなじゃぞい」


 さっきからそれしか言ってませんよ、神様店長。もしかしてまたバグったのかなっ?



「話してる途中で申し訳ないんだけど……なあ、ヒカリっ」


「うんっ?」


 父さん、つまりはルルコちゃんのママが真剣な顔ですよ。

 どしたのかなっ?


「父さん達な、1年半前にヒカリに会ってから、ずーっと考えてたんだけどな。

 その、な。父さん達と……また一緒に、暮らしてみないか?」


「……えっ!?」


 いきなり突然、唐突に、父さんからの思わぬ提案ですよ、これにはビックリ仰天です!


「一緒に、って……一緒にっ?」


 なんつって同じ言葉を繰り返して、軽く混乱しちゃう俺ですよ!


「そしたらね、ルルちゃんも喜ぶと思うの。もちろん、ヒカ君さえ良ければ、なんだけど……」


 いつもニコニコ笑顔の母さんまで真剣な顔ですよ。

 転生したこの世界で。

 父さんと母さんと、一緒に暮らす?


 前の世界で失くしちゃった家族と。

 見た目は違うけど、もう一度、家族になる、ってコト?

 しかもカワイイ妹ちゃんのオマケ付き!

 イヤ、オマケは俺の方かっっ?


 そんなの、考えた事もなかったな……


 でも、それってつまり。

 フィルフィーとペリメール様とは、離ればなれになっちゃう、ってコトだよな……


「父さん達って、今は何処に住んでるの?」


「ヒカリ達が住んでるアパートの裏側の家だよ」


「えっっ!?」


 しっ、知らなかった……っ!

 そんな近くに住んでたとはっ!!


「ヒカリのコトは、ちょいちょい見かけてはいたんだけどなあ。いつもパタパタしてて忙しそうだったし、話しかけるタイミングが無くて、ずるずるっと、な!」


 な! って言われてもっ。


「別にそんな、声くらいかけてくれてもよかったのにっ?」


「だって、ほら。バイトとか勇者のクエストとかアイドル活動とか、色々と頑張ってるだろ? ジャマしちゃ悪いかなって思っちゃうのが親心ってモノなんだよ」


「アイドル活動って、最近のコトまで知ってるのっっ?」


「魔王城での初ライブも観に行ったのよー? コントみたいで、とっても面白かったわよっ♪」


 コントみたいで面白かったって、マジかっ。

 母さんらしい感想だけど、シフォンちゃんが聞いたらブチキレるんじゃないのかなっ!?


「ヒカ君って、今はヤンキー女神様達と一緒に暮らしてるんでしょ?」


「えっ。まあ、うん。お世話になってるけど」


 実際にイロイロとお世話してくれてるのはペリメール様なんだけど、それは言わないでおきますよっ。


「秘密にしてたワケじゃないけど、なんで知ってるのっ? あ。もしかして……」


「ヤンキー女神サマが騒ぐ声とか聞こえてくるから、すぐにわかったわよぉ?」


 やっぱりかっ!

 なんて、ご近所迷惑なんですかね、騒音女神っ!

 

「今すぐに、とは言わないよ。女神様達と一緒に考えて決めてくれればいい。父さん達は、いつでもウェルカムだからなっ!」


 ウェルカム、って。

 でも、それって、つまり。

 もう一度、家族になって一緒に暮らすか、これまで通りフィルフィー達との生活を続けるのか、どちらか選ばなきゃ、ってコトだよな……


 ルルコちゃんをリセットしに来た『選択の部屋』で、俺が『どっちと一緒に暮らすか』選択するコトになろうとはっ!

 うむむ、どうしよう……

 

「別に話し合う必要なんてねーよな、ヒカリぃ? オマエはどうすべきかなんて、解りきってるよなあ?」


「えっ?」


 考え込んでる俺に軽ーいカンジで言うフィルフィーですよ。

 俺にとっては、かなりの悩みドコロなんだけど、それってどういう意味かなっっ?


「ヒカリはもう立派な勇者で一人前だから、あたしらがいなくても大丈夫だろっ」


「えっ!? ホントにっ!?」


「知らんけど」


 こら、またかテキトー女神っ! 知らんてなんじゃいっ。自分が言ったコトには責任持ちなさいよね、もうっ!



「じゃあ……フィルフィーとペリメール様は、ボクが居なくなっても平気なの?」


 フィルフィーとペリメール様とは、この世界に来てから、ずっと一緒に暮らしてきたんだよな……

 クロジョの女子寮から始まって、ボロいアパートに引っ越してからも、ずっと一緒に。


 少し歳の離れたヤンチャでヤンキーな姉と、面倒見の良い優しい姉、ってカンジの二人は、俺にとっての『家族』みたいなものなんじゃないのかな……


 俺は……二人と……


「私はっ……私は、ヒカリ様の意見を尊重いたします、ですわっ。フィルフィーさんはどうですか……? ですわっ」


「えあっ!? あたっ、あたしはだなっ、ぶぶっ、ぶっちゃけさー! あたしら新婚だし、ヒカリはオジャマムシなんだけどなー! でも、ヒカリがどーしても! って言うんなら、まだ一緒に暮らしてやってもやらんコトもないけどなー!」


 でっかい声でナニ言ってんですかね、フィルフィーはっ。照れ隠しなのがバレバレだぞっ。


「あらあら、フィルフィーさんたら、照れちゃってっ、ですわっ♪」


「照れてねえっ!」


 またまたプイッとアッチ向いちゃうフィルフィーですよ。照れ隠しの仕方がコドモみたいだぞっ。


 でも、フィルフィーとペリメール様は、このまま俺と暮らしてもいい、って思ってくれてるのか……


 父さんと母さんと、ルルコちゃん。

 一度は失くした『家族』に……

 転生したこの世界で、見た目は違うけど中身は同じな、ちょっと変わった新しい『家族』に……


 でも、それは。

 なんか違うような気がする。


 前の世界での人生は、一度は終わってるから……この世界での俺は、違う道を進むべきなんじゃないのかな。


 フィルフィーに救われた生命を、この世界で全うするべきなんじゃないのかな……


 それなら。

 俺の意志を今ここで、はっきり伝えておかなければっ!


「父さん、母さんっ。申し出はスゴく嬉しいんだけど……ボクはまだ、フィルフィーとペリメール様に恩返し出来て無いって思うから……だから、父さんと母さんに甘えるワケにはいかないのかな、って」


 だから、俺は。


「ボクはっ。父さん達とは……別々に暮らした方がいいんじゃないのかな、って思いますっ!」


「ヒカリ……」

「ヒカ君……」


 父さんと母さんはちょっと驚いてて、どこか嬉しいような悲しいような顔をして。


「そうか……前の世界じゃ引きこもり寸前のインキャだったのになあ。リッパになってくれて嬉しいよ、ヒカリっ」


「えっ」


 ちょっとちちっ。

 リッパになったって思ってもらえるのは嬉しいけど、インキャは言い過ぎですよっ。


「そうねっ。引きこもりのヲタク道まっしぐら寸前だったのにねっ」


「えっっ」


 ちょっとははっ。

 確かにヲタクだったけど、その言い方もどうかと思うぞっ!


「それが今では、こんなにカワイくてリッパな勇者になっちゃってっ♪ ねえ、父さんやっ」


「うーん。男のっていうのが、男親としては複雑な気分ですよ、母さんや」


「ルルちゃんをリセットしてくれたのは、ヤンキー女神サマだけど……ルルちゃんを救ってくれたのは、紛れも無くヒカ君なのよ。ねえ、父さんっ」


「そうだな。それは誇りに思ってくれていいんだぞっ。ヤンキー女神サマが仰る通り、ヒカリは本当に立派な勇者だよ!」


 そう言って二人は顔を見合わせてから。


「ありがとうな、ヒカリ!」

「ありがとう。ヒカ君っ!」


 ぎゅうっと、俺を抱きしめてくれて。

 

 転生したこの世界では違う生活を送ってるけど。

 ああ、やっぱり、俺は。

 二人の子供なんだなあ、って。

 そう思えて。


 なんだか、泣きそうになっちゃった。


 クロジョで再会した時は、堪えきれずに泣いちゃったけど、今の俺には、涙は無くて。


 ただただ、嬉しくて。

 ルルコちゃんも加えて、みんな、笑顔で。


 転生した世界での新しい『家族』と。

 ひとつになれたような気がした瞬間だった。

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