またまた魔王城!

 バスの窓から眺める風景はいつもと変わらないカンジですよ。

 まあ、のんびりしたもんです。


「『間も無く、魔王城~、魔王城~。停車時の揺れにご注意下さいませ~』」


 なんとも平和なアナウンス。

 これから妹魔王と決戦を迎える男のが乗ってるなんて、他の乗客達は『我関せずの露知らず』ってヤツですよー。


「ね、ヒカリちゃんっ。アメちゃんあげる♪」


「えっ。ありがとう、ラーフィアちゃんっ」


「ヒカリ殿っ。拙者が作った兵糧丸ひょうろうがんも、おひとついかがですかっ?」


 ヒョウロウガンって、ニンジャの非常食ってヤツですか。

 うら若きオトメが兵糧丸とは、さすがは『くのいち勇者』ですよ、ムラサメさんっ。


「それじゃ、せっかくだからイタダキマスっ」


「これをしょくせば、朝までギンギンのまま戦えるのでござるよっ」


 朝までギンギンってマジですか。

 ムラサメさんは屈託の無い笑顔だけど、ギンギンの意味がわかってるのかなっ?

 ナニか別のモノがギンギンになっちゃうんじゃないのかなっ?



 そんでもって、ややもして。

 警戒心を最大限に高めてはいたものの、何事も無く着いちゃった。


 二人の勇者と五人の女神が到着ですよ、魔王城!

 パッと見だと、女子七人が遊びに来たように見えるかもだけど、一人だけ男のが混じってるのですよ!


 ペリメール様とレイルさんが、お弁当作ってきてくれましたですよ。

 バスケットケースの中身はもちろんサンドイッチですよ。

 何気なにげに楽しみなんだけど。

 こんなんでいいのか?

 ホントに『勇者と魔王の大戦争』中なのか?

 ってくらいに日常は平常運転ですよー。


「あー、着いた着いたっ。ケツが痛いっ!てなもんでい! なあ、ペリ子っ!」


 ぺちっ!


「きゃんっ♡ですわっっ」


 バスから降りるなり、ケツが痛いと言いつつ、何故かペリメール様のお尻を叩くフィルフィーですよ。

 ペリメール様ったら、いきなり叩かれた割りには、なんか嬉しそうなんですけどっ。


「ふぃふぃふぃフィルフィーさんたら、どうして私のお尻を叩くのですかっ!ですわんっ」


「あーん? ちょっとペリ子のケツの筋肉ほぐしてやろーかと思ってさっ♪」


 ウソ言いなさいよっ。

 ただ単にペリメール様のお尻を触りたかっただけでしょーが、セクハラ女神っ。

 魔王城に来ても緊張感なんてゼロだなっ!


「もうっ。イチャイチャしないでよね、お姉ちゃんっ」


「えっ!? わわわ私ですかっ?ですわっっ? どどどどうしてですかっ?ですわっ」


「フィルフィーにお尻叩かれて嬉しいんでしょー? 顔に書いてあるもん」


「そそそそそそんなコトはっっ。なきにしもあらずだったりしなかったりですわんっっ」


 ナニ言ってんですかね、ペリメール様。

 キレイなお顔が真っ赤っかですよっ。

 フィルフィーにおしりを叩かれて、言ってるコトが支離シリ滅裂ですよー。

 あっ。今のウマかったかなっ?


「リアちゃんも、フィルフィーマート様にお尻叩かれたいでぇす♡ちからいっぱい叩いてくださってもイイですよぉ♡」


「あーん? いーのかよっ?」


「ななななナニを言ってるでごじゃりましゅるかっ!ですわっ! そんなのダメダメっ!ですわんっっ!」


 フィルフィーにすり寄るフェイリアちゃんをすかさずブロックですよ、ペリメール様。

 けっこうヤキモチ妬くタイプみたいですよー。

 楽しそうでなによりだけど、ナニしに来たか忘れてやしませんかねっ。



「ここが魔王城でござるかー。拙者、初めて来たでござるよっ。なんだかワクワクするでござるなっ。ニンッ!」


 あの、ムラサメさんっ? 

 アトラクションを楽しみに来た子供みたいに目をキラキラさせちゃってるけど、俺達は闘いに来たんですよっ?


 魔王城を見上げるムラサメさんに、つついっと近づくラーフィアちゃんですよ。


「ねえ、ムラサメさんっ。私とヒカリちゃんは何度か一緒に来てるから、案内してあげましょうかっ?」


 むむ、ラーフィアちゃんっ?

 なんか挑発的なカンジがあるような無いようなっ?

 一緒に来てるとは言うけど、デート的なアレとかじゃ無いんだけどなー。

 なんだか、恋敵ライバル同士の戦いみたいな流れになりそうな雰囲気ですよっ。

 ところがどっこい、ムラサメさんはっ!


「おお、それはそれはっ。拙者、オノボリさんゆえ、右も左もわからないでござるよっ。よろしくお願いしますでござるっ!」


 ラーフィアちゃんの手を、きゅっと握って、お願いしちゃったよムラサメさん。

 オトメの心理戦を華麗にスルーしちゃってますよっ。

 

「えっ? あっ。どういたしましてでござるっ」


 ラーフィアちゃんたら、ちょっとキョドっちゃってますよー。

 やっぱり牽制だったのかなっ?

 ラーフィアちゃんが『ござる』なんて言ったの初めて聞いたでござるっ。


「一旦、下手したてに出ておいてから逆転するのが、くのいち流! 恋敵をあざむくには、まず平身低頭で、と言いますがゆえっ。 ニンッ!」


 欺く気だったんですか、ムラサメさんっ。

 でも、それってバラしちゃったら意味無いんじゃないのかなっ?



「やっぱ大人数で来た方がテンション上がるなー! そんじゃあ、まずはオバケ屋敷でもってみっかっ!」


「フィルフィーさんたらナニを言ってるのですかっ、ですわっ! ここに来た目的を忘れちゃいけません!ですわっ」


「あーん? ナニしに来たんだっけかっ?」


「ヒカリ様の妹さんとの決着に来たのですわっ。私達は女神としてヒカリ様のサポートをすると決めたではありませんかっ!ですわっ」


「あー? そーいやそーだっけ?

 でもさー、シフォンの時って、あたしらは新婚旅行にってたし、ラフィー達は結局なーんもしなかったんだろー?」


「わっ、私達は落とし穴に落とされちゃって、サポートしたくても出来なかったのっ。しなかったって言わないでよっ」


「ご心配には及びませぬよ、ラーフィア殿っ。

 拙者が『くのいち勇者』の名にかけて、ヒカリ殿の右腕となって闘いますがゆえ!」


 うむむ、やる気に満ち溢れてますよ、ムラサメさんっ。

 ラーフィアちゃんがされちゃってます!


「わっ、私だってっ、今度こそサポート女神としてヒカリちゃんの役に立つんだもんっ」


 ぷうっと頬を膨らませるラーフィアちゃんですよ。ちょっと拗ねちゃったカンジがカワイイです!

 ここはちょいとフォローしてあげないとっ。


「あのっ、ラーフィアちゃんには、今までいっぱい助けてもらってるからっ。だから、今日は、よろしくお願いシマスねっ」

 

「ヒカっ、ヒカリちゃんったらあっ♡♡」


 あらら、真っ赤になって照れちゃいましたよラーフィアちゃん。

 こんな言葉で喜んでくれるなんて、やっぱKAWAEEEEですよー!



 と、その時ですよ。


「ぬはっ!ぬはっ!ぬはははははっ!

 ようこそ魔王城へおいでなすっただべさ、妄想勇者の御一行様よっ!」


 うげげ。

 出たよ、またまた出ましたよ、ぬはぬはウルサイスズキさんですよー。

 『集いの広場』にぬはぬは笑いが響き渡っちゃってますよ。

 関係者だと思われたくないっ。

 だがしかし。


「おっす! おら戦友セフレヒカリよっ! 今日もめんこいなっすー!」


 おいこら、スズキさんっ!

 戦友をセフレって言うのはヤメロっ!

 みんなに誤解されちゃうでしょーがっ。

 特にレイルさんに誤解されるのはヤバいっ!


「ほーう……? 相変わらずそんな関係なのか? ヒカ、ちく、りん……っ」


「えっ!? ちっ、違いますよレイルさんっ!」


「私の目を盗んで、スズキ君を誘惑して、イヤらしくて淫らな行為を……っ」


「ちっ、違いますってばあっっ」


 ほら見ろっっ。

 レイルさんの怒りのオーラがズゴゴゴっちゃってるだろっ!

 

「フォレタスちゃんも一緒に来たんだべなー。おらの未来の嫁さんは今日もべっぴんさんだなっす!」


「えっっ!? あの、いやっ、そんなっっ♡」


 ぼしゅんっ!と音を立てて、一瞬でお顔が真っ赤っかですよ、レイルさん。

 俺には冷たいのに、スズキさんに対してはめっちゃオトメですよっ!

 でも、ちょっとデレ過ぎじゃないデスカネっ?


「まあ、こんなトコで立ち話もなんだべさっ。

 事情は魔王ルルコ様から聞いてるで、おらが案内すっから、みんな金魚のフンみてーに着いてきなっせー! 

 ぬはっ!ぬはっ!ぬはははははっ!」


 誰が金魚のフンじゃいっ。

 ぬはぬはウルサイなあ、もう。静かに出来ないのかスズキさんはっ。

 レイルさんてば、こんなやかましいヤツのドコがいいんデスカネっっ?

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