初対面! 妹魔王ルルコ!!

 ついさっきまで一緒に騒いでたシフォンちゃんが突然いなくなっちゃって、しーんと黙っちゃう俺達四人ですよ。

 中でも一番沈んだ表情なのはラーフィアちゃん。

 シフォンちゃんとはよく口げんかするけど、何だかんだで仲良いから、やっぱり心配なのかな……?


「……シフォン……あのコ、根性ねじ曲がってるから、ホントに更生なんて出来るのかしら?

 暴れ回ったりして、施設の職員さん達にご迷惑かけなきゃいいけど」

 

 こりゃ、なんとっ。

 まさか心配する対象が違うとはっ!

 でも、根性ねじ曲がってるっていうのはわからなくもナイですよっ。



「『あー。では、ここで。

 新しい魔王をば、あー、ご紹介したいと、おー、思いまする。では、どうぞー、ですじゃ』」


「えっ!? 魔王!?」


 また魔王デスカっ?

 この世界の魔王って何人いるんだっ?


 大魔王サマが、ふいっと立ち上がり指をパチン!と鳴らすと、ぼぼんっと白いケムリがっ。

 ケムリ玉もビックリの、もっくもくのスモークですよ!

 モニターいっぱいに真っ白でなーんも見えなくなっちゃった!


「『げっほげっほっ。う゛え゛っ。お゛え゛っ』」


 モニターから聞こえてくるのは、自分が出したスモークでえずいちゃってる大魔王サマの咳き込む声。

 ナニやってんですかねっ。


「『ケムリよ、消えよっ』」


 んっ? もうひとり誰かいるぞ?

 モニターから女の子の声がして、ふわあっと、ケムリが消えて、そこに現れたのは!


 小顔で黒髪ショートボブのかわいこちゃん!

 白いワンピースがよく似合う、くりくりっとしたパッチリおめめが印象的な美少女!

 麦わら帽子があれば絶対似合うカンジです!


 華奢な身体つきで、まだ10歳くらいにしか見えないけど、こんな小さい娘が魔王なのかっ?


「『初めましてっ、ヒカリお兄ちゃん♪』」


「えっっ!? お兄ちゃんっっ!?」


 いきなりナニを言い出すかと思えば、お兄ちゃんっ!?

 って、え!?

 俺に妹なんてイマセンよっ?


「『びっくりしてるね、お兄ちゃんっ。それはそうだよねー。初対面でいきなり『お兄ちゃん』だなんてねっ♪』」


 ヲタクならば一度は美少女から呼ばれてみたいセリフナンバーワンと言っても過言ではない、尊い御言葉『お兄ちゃん』!

 まさかそんな御言葉を頂ける日が来ようとは、感無量でアリマスっ。

 って、イヤ違うっ!


「お兄ちゃんって、えっ!? どちら様でゴザイマスかっ!?」


「『わたしの名前は、コウダルルコ。ルルコ、って呼んでね、お兄ちゃん♡』」


 え、コウダ? って、同じ名字だけど?

 こんな娘なんてホントに知らないし、妹だなんて初耳ですよっ!?


「『お兄ちゃんてホンっトにカワイイねー。

 でもぉー。

 イケメンならまだしも、男ののお兄ちゃんなんて、妹としては恥ずかしいかなっ。

 確かにカワイイけど、カワイイだけが取り柄だって自覚しなさいよねっ』」


 うおお、ディスられたっ!

 カワイイって褒められたと思いきや、すぱあっと一刀両断!

 妹を名乗る美少女からの精神攻撃ですよ!

 ヒカリは100の精神ダメージを受けた!ってカンジですようおおおっ!


「あああのっ! ボクには妹なんてイマセンよっ?」


「『うーん。そうだよねえ。いきなり言われてもねえ。私もさっき聞かされたばかりだもん』」


 え?

 さっき?

 どゆコトっ?


「『わからなくて当たり前だよねー。だって、初めて会った時って、私はまだママのお腹の中にいたんじゃないかなあ?』」


 えっ。


 初めて会った時?

 顔も見てないのに?

 ママのお腹の中?

 つまり、生まれる前に、って……


 うーん?


 ポク、ポク、ポク、ポク、ポク、ポコ、チーン!

 

 はっ!

 ももももしかしてっ!


 父さんと母さんの子供っ!?

 って、妹なら当たり前かー。


 イヤイヤ待て待て、ちょっと待てっ!

 計算おかしいだろっ。


 クロジョで黒竜王スズキさんと闘った時に、同じ世界に転生した父さんと母さんに会って、その時は『お腹の中に赤ちゃんが』って言ってたけどもっ!


 それって、1年ちょっと前だから、生まれてたら1歳ちょいか、0歳児のハズだよなっ?

 どう見たって10歳くらいにしか思えない!

 こんなでっかい1歳児なんていないだろっ!

 えっ!? いないよねっ!?


「『なんかパニクってる顔だね、お兄ちゃん♪

 ウケるー♪』」


 むむっ。ナニがウケるんじゃいっ。

 初対面の女の子から『お兄ちゃん』なんて呼ばれてビックリしないヤツなんていないだろっ。

 しかもでっかい1歳児なんだし!


「なんでそんな成長してるのっ!?

 ホントなら、まだ1歳くらいじゃないのかなっ?」


「『んーとねー。ちょちょいっとね。大魔王サマに成長を早めて頂いたの♪ 説明するのめんどくさいから今から行くねっ♪」』


「えっ? 今からっ!?」


「『だって、戦いの火蓋ひぶたは開いちゃったんだもんねっ♪

 魔王って本来は勇者をツブす為に存在するんだもんねっ♪

 だからルルコは、今からお兄ちゃんをツブしに行きますねっ♡』」


 なななんとっ!

 おかしな曲解しちゃってますよ、ルルコちゃんっ!


 勇者と魔王のツブし合いなんて、ずっとずっと昔の話で、今では『勇者と魔王と女神』のバランスで成り立ってるハズですよっ!


 魔王だったラーフィアちゃんは女神にジョブチェンジしたし、現役魔王のシフォンちゃんは勇者の俺とアイドルユニット組んじゃったりするような、ちょっと変わった勇者と魔王の関係だし!


 そんなこんなだから、この世界の勇者と魔王は絶対的な敵対関係では無いハズですよっ!?


 何て言うか、共存とか、ライバルというか、切磋琢磨せっさたくましい、って言うか、まあそんなカンジで、ツブし合うなんて無いハズですよー!


 大魔王サマだって、フィルフィーとペリメール様の結婚式にサプライズゲストで登場したくらいなのにっ!



「『勇者と魔王がアイドルユニット組むだなんて笑えるよねー♪

 ねえ、お兄ちゃんっ。砂糖にハチミツ混ぜて煮詰めたみたいな激甘な世界には、トウガラシにネリガラシ混ぜたみたいな強い刺激が必要だと思わない?』」


「えっ!? 思いません!」


 そんな超絶な刺激物は、もはや食用ではナイ! ベロどころか、胃袋とか内臓までやられちゃいますよー!


「『えー? つまんないお兄ちゃんだなー。 ルルコはガッカリだなー』」

 

 むむっ。そんなカワイイ顔でつまんないとかガッカリとか言うないっ。

 また精神的ダメージ受けちゃうだろっ。

 

「『じゃあ、これからお兄ちゃんの首を狩りに行きますっ♪ いいですよね、大魔王様っ♪』」


「『うむ。ヒカリちゃんの生首なまくびを持ち帰ってくるがよいぞ、ルルコよ』」


 なななんですとっ!?

 首を狩るですとっ!?

 生首ですとっっ!?

 なんて怖くて恐ろしいコトバをぶっこんでくるんデスカネっっ!?

 

 ルルコちゃんが、てててっとモニターに近づいて細い右手をすいっと伸ばし。

 むむ、なんだっ? と思った瞬間!


 にゅるーりとっ!


 モニターから右手が出てきましたようおおっっ!

 

 こここれはっっ!

 レイルさんと同じスキルじゃないデスカっっ!

 ホラーが好きじゃないヒトだって知ってる、『あのお方』みたいに画面から出てきますようおおっっ!

 

 

「へえ。こんな小さなが私と同じスキルを持っているとは、なかなかスゴいじゃないか」


 ですよねー。

 って、イヤ違うっ!

 褒めてる場合じゃ無いですよ、レイルさん!


 妹を名乗るこのったら、俺の首を狩りに来る気なんですようごおおおっ!


 あっという間にモニターから、にゅるるんと這い出て来ましたよ、ルルコちゃん!


「よいしょっと♪」


 すたっ!と、華麗に着地!

 ふわりと爽やかにひろがるワンピースのすそ清々スガスガしい!

 夏場にどっかの駅のポスターにでもしたら、めっちゃえるヤツですよー!


「初めましてお兄ちゃんっ♪ コウダルルコです♪」


 両手を揃えてペコリとお辞儀ですよ、ルルコちゃん。礼儀正しいじゃないですかっ。


「えっ!? あっ。これはどうもご丁寧にっ。

 コウダヒカリですっ」


「うふっ♡ なんだか照れちゃうなあ♡」


 にこっ♡と、はにかむルルコちゃん!

 おおう、これはこれはっ。

 画面越しに見るよりも遥かにカワイイ!

 やっぱり2次元は3次元を上回るのかー。


 って、イヤ違うっ!


 白いワンピースが似合ってるから、きっと麦わら帽子も似合うよね、なんて思ってる場合ではナイですよっ!


「じゃあ、さっそく始めよっかっ♪

 武器召喚サモンウェポンっ!」


「えっ!?」


 武器召喚サモンウェポンですとっ!?

 ラーフィアちゃんと同じスキルじゃないデスカっっ!


 ルルコちゃんがパン!と手を鳴らして、ゆっくりと手を開き、にょろーんとそこに現れたのは、なななんとっ!

 でっかい大鎌!

 ルルコちゃんの身長の倍近い大鎌ですよ!

 デスサイズってヤツですよー!


「こんな小さな娘が私と同じスキルを持ってるなんてスゴい! ねえ、ヒカリちゃんっ」


「えっ? うっ、うん、そうだねっ?」


 って、イヤ違うっっ!

 あの大鎌デスサイズで俺の首を狩ろうとしてるんじゃないのかなっ?

 鎌って本来は、草とか枝とかを刈るモノであって、首を狩る為の道具じゃないんじゃないのかなっ!?

 男のの細い首なんて、軽ーく振っただけで、ぽろっと取れちゃうんじゃないのかなっっ?


「じゃあ、サヨナラ♪ お兄ちゃんっ♡

『爆速』っ!」


 なぬっっ!!

 シフォンちゃんと同じ『爆速』スキルまでお持ちなのデスカっっ!

 いったいいくつスキル持ってるんだっ!?

 こんなの、お着替えガチャもしてないポンコツ男のが避けられるワケがねーですよー!


 ぎゅわっ!と急接近ですよ、ルルコちゃん!


「ヒカリちゃんっ!?」

「避けろ、ヒカちくりんっ!」

「ああっ!ヒカリ様ぁっ!」


 中立の立場である新米女神の三人は勇者と魔王の闘いに手を出せない!

 というより、ルルコちゃんの動きが速すぎて動けないっ!


 ふああっ!

 なんでもいいからお着替えガチャをっ!


 右手を勢いよく振り挙げようとした、その時ですよ!

 

「お着替えはさせないよ、お兄ちゃんっ♪」


 ぺちっ。と、あっさり右手の挙手を封じられてしまったっっ!

 まさかまさかの『お着替えガチャ封じ』ですようおおおっ!

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