大魔王サマ、ご乱心!?

 ここはファミレス。

 俺のバイト先のファミレスですよ。


 魔王城での初ステージも無事に(?)終わり、これから反省会と称した打ち上げなのです。

 ホントに無事に終わったかどうかと言えば、無事じゃ無かったような気がしないでもナイですがっ。



 出だしでいきなり俺とシフォンちゃんがすっ転んじゃったのは、お客サマ達は演出だと思ったみたいで救われましたよ。


 シフォンちゃんのスカートが、ぺろーん♡てなっちゃって、白と青のシマシマおパンツがスクリーンに大映し!

 カッコよく始まるハズがコントみたいになっちゃいましたよ。


 だがしかし。

 ちっこカワイイ魔王サマの愛らしいお姿に、やんややんやの大喝采!

 しーんと静まり返っちゃうより喜んでくれた方が、やらかしちゃった本人も救われるってなもんですよ!


 俺へのブーイングも少なからずあったけど、石は投げられなかったからヨシですよ。

 大勢に観られながら罵声ブーイングを浴びるって、こう、なんていうか、こう、新しい扉がオープンザドア的な、まあ、そんなカンジでしたですよ!


 そのブーイングは、俺の顔がスクリーンに大映しになった途端にピタリと止んじゃって。

 ちょっと残念、イヤ違うっ。


 俺のうるうるキラキラの瞳は、お客様にも絶大なインパクトを与えたみたいですよー!


 歌パートでも、シフォンちゃんのロリボイスがヲタ達のハートを鷲づかみ!

 ムリヤリ他人の声を奪ったりしなくても、全然イケるしウケるじゃないですか。

 自信持っていいと思うよ、シフォンちゃん!

 

 でもですよ。

 突貫工事で出来たみたいなユニットだから、持ち歌が少ない! 

 仕方ないから、同じ曲をアレンジして他の曲っぽくしての対応です。


 新米女神の三人のダンスもキレキレでカッコ良かったですよ!

 

 なんやかんやとイロイロあったけど、あっという間の1時間でしたですよ!

 アンコールまで頂いて、ラストの挨拶でシフォンちゃんはグズグズに泣いちゃって。

 


「きょう゛はっ、ひぐっ、み゛んな゛っ、あづま゛って、くれ゛て゛っ、えぐぐっ、ありがと゛うっ、ごじゃりま゛したっっ、ぐすすっ。

 すだっふの゛っ、ずびっ、み゛んなもっ、ぐすっ、ほんと゛に、ずびびっ、ぼんどにっ、あ゛りがとう゛ごおおっっ!」

 

 観に来て頂いたお客サマ達とスタッフの皆様は、こう思ったコトでしょう。


 え、なんて?


 ってね! 誰も言わなかったけど!


 鳴り止まない拍手と歓声が、シフォンちゃんの感謝の気持ちはみんなに伝わってるってコトを証明してくれてましたよー!

 

 アイドル魔王の『始まりの瞬間とき』に勇者と女神が同じステージに、っていうまあそんなカンジの風変わりなステージでしたですよ!


           ◇


「「「「「かんぱーい!」」」」」


 ぐびぐびぷはー、とジュースを飲み干す『シフォヒカと愉快なシモベ達』の五人ですよ。

 ファミレスを貸し切っての打ち上げ会なんて初めてで、なんかウレシイ!


「ヒカリは歌詞を間違えまくってたでしょー!

 ソロパートの『ナナナ』が、なんで『にゃにゃにゃ』になるのよっ?

 とりあえずウケてたからイイけどっ!」


 うお!

 いきなりのダメ出しデスカっ!

 俺だって反論するんだからねっ!


「しっ、シフォンちゃんだって、フォーメーション間違えてたでしょっ。何回もぶつかりそうになっちゃったし、その度に足踏まれたしっっ」


「はあーん? アレは演出よ、演出!

 ニコニコしながら歌うだけのアイドルなんて、面白くもなんともないでしょーがっ」


 イヤ、ちょっと待って下さいよっ。

 その『ニコニコしながら歌う』のがフツーのアイドルってモノですよっ!

 シフォンちゃんの理想のアイドル像ってどんなんなんデスカネっ。


「私達の『全てをブチ壊すアイドル』って、コンセプトを忘れてるんじゃないでしょーねっ。

 出来るコトなら、私の『永劫爆睡エターナルスリープ』を、ぶっぱなしたかったのにっ!

 それだけがココロ残りだわよっっ!」


「えっ!? そんなのダメだよっ!?」


 そんな超絶魔法ぶっぱなしたら、お客サマどころか辺り一面ふっ飛んじゃうだろっ!

 ある意味では斬新だけど、文字通りに『全てをブチ壊す』アイドルステージなんて観たコトねーですよー!

 

「次は『シフォヒカと愉快なシモベ達』ライブの第二弾っ!

 もっと曲数を増やして、セットリストに厚みを持たせるわよおっ!」


「えっ!? まだやる気なのっっ!?」


「当ったり前でしょーがっ! 私達のアイドル道は始まったばっかりなんだからねっ!

 今は魔王城だけだけど、ドサ回りでファンを増やして、もっと大きなステージを目指すのよっっ!」

 

 わたしたち!? 

 このままじゃ、ずるずるとアイドル道とやらにひきずり込まれてしまうぞ、男のっ!

 ドサ回りなんてしたくねーですよー!


「私はもっと見てみたいなー♪ ヒカリちゃんがアイドルとして成長していく姿をっ♡」


「えー!?」


 ナニを言ってるんですかね、ラーフィアちゃんっ。

 勇者として成長するならまだしも、アイドルとして生きていくつもりなんてナイですよっ?


「ポスターとかぁ、ブロマイドとかぁ、グッズ展開とかもすればイイんじゃないですかねぇ? きっと売れますよぉ? アハー♪」


「えー!?」


 フェイリアちゃんまでそんなコトをっっ!


 イヤ、待てよ?

 ちっこくてカワイイてロリ魔王って、ヲタ的にはけっこうな需要があるのではっ。

 フィギュア化したら売れるんじゃないかな?

 白と青のシマシマおパンツも再現すれば、ヲタク達は跳び跳ねて大喜びするコト間違いナシ!


「ちょっとヒカリっ。ゲスい顔してんじゃないわよっ」


「おえあっ!?」


 うぐぐ。

 シマシマおパンツのシフォンちゃんフィギュアを想像してたら、ゲスい顔って言われちゃったよ、男のっ。


「レイルさんはどう思いますかっ? バックダンサーは今回限りだって言ってましたよねっ?」


「わっ、私は、スズキ君が喜んでくれるなら、やぶさかではナイけどな、ヒカちくりんっ」


「えー!?」


 ナニを言ってるんデスカネ、レイルさん。

 あんなに嫌がってたのがウソみたいに思えちゃいますよー!

 どうやらペリメール様の催眠術がバッチリ効いて、スズキさんには大好評だったみたいですよ!

 

           ◇


 ピポピポーン。ピロリンピロリン♪


 俺達がわちゃわちゃ騒いでたその時ですよ。

 緊急放送の音が店内に流れて、モニターの映像が切り替わり。


 んむむ? いったい何事ですかね。

 緊急放送なんて、ファミレスでバイトし始めてから初めてのコトですよ。


 でも、モニターには何も映ってないぞ?

 画面いっぱいに真っ黒なんですけど?

 

「『え? こっち? え? そっち?

 そこに座ればいいんかな? え? 違うの?

 どこ? ここ? ああ、ここね。

 おお、あんがとさん、あんがとさん』」


 モニターから聞き覚えのある声が流れてきましたよ。

 このバグり具合いは神様店長かな?

 と、思いきや!


 どアップで映し出されたのは、なななんとっ。


「あら? 大魔王様じゃない。どうしたのかしら?」


 まさかの大魔王サマっ!

 神様店長と双子なもんだからわかりづらいけど、シフォンちゃんが言うんだから間違いないですよ!

 

 て言うか、どアップ過ぎだろっ。

 モニター画面フルサイズで大魔王サマの顔面ですよ。


「『え? なに? 離れた方がいいの?

 こっちなの? え? そっちなの? どっちなの?』」


 モニターから見切れたり映ったり、右に左にウロウロしちゃってるんですけど。

 喋り方だけじゃなくて、行動まで神様店長とそっくりとは、さすが双子ですよー。

 

「『ここ? そっち? え? こっち?

 え? 向きが逆? どっちなの? そっちなの? え? そこ? ここなの?

 ああ、ここね。おお、あんがとさん、あんがとさん』」


 バグりつつも、ようやく所定の位置に着きましたよ、大魔王サマ。いったいなんの緊急放送なのかな?


「『えー、と』」


 そのまま数秒の沈黙。

 みんなが注目する中、大魔王サマから出た言葉はっ。


「『ワシはナニしに来たんじゃったかな?』」


 知らんがな。

 ハンパないバグりっぷりは神様店長と瓜二つだなっ!

 

「『えーと? あー。あ。そうそう。思い出したでござりまする。

 ご存知の方も多いと、おー、思われますが。えー。

 ここ最近、魔王側は、あー、不甲斐ない戦績しか残しておりませぬ、ですじゃ』」


 魔王側、ってコトは勇者側ってそれなりに良い戦績なのかな?

 俺も一応は勇者だけど、そんなにご立派な活動はしてないと思うんだけどなー。

 

「『えー、と言うことで、えー、あー、ちょっくら本気を出して、勇者達をツブしてみようかなー、と、おー、思いまする』」


 なっ、なっ、なっ!

 なんですとっ!?

 勇者をツブすですとっ!?


 とんでもないコト言い出しましたよ、大魔王サマっ!


「『えー、まず手始めに。ここ最近、チョーシぶっこいてる『妄想勇者コウダヒカリ』を血祭りにあげてみようかなー、と、思いまする』」


「「「「「えっ!?」」」」」


 思わず俺達5人の声が重なった!

 シフォンちゃんまでビックリしちゃってますよ!

 チョーシぶっこいてるとは言いますがっ!

 チョーシぶっこいた覚えなんてひとつもないですようごおおおっ!


 血祭りってどんなお祭りなんデスカネっ!?

 楽しいお祭りじゃ無いってコトは確実デスヨネっ!?


「『どーにもこーにも、魔王側が連敗続きなのでのう。魔王側に煮え湯を飲ませてくれちゃってるのが、おぬしなんじゃよ。ヒカリちゃん』」


 びし、と、モニターの向こうから俺を指差す大魔王サマですよ!

 え。

 えっ?

 えええー!?


 勇者って他にもいっぱいいるハズなのに名指しで俺!?

 っていうか、向こうから見えてるっぽい言い方なんですけどっ!?


 大魔王サマが本気出すのって、俺のせいなんデスカっ!?

 だってだって、そんなコト言われてもー!

 確かにシフォンちゃんは倒しましたがっ!

 アレはフィルフィーとポプラールさんの声を取り戻す為だったんですようおおっ!


 魔王だった頃のラーフィアちゃんとは直接は闘って無いんだし『連敗続き』の意味がワカリマセン!

 るなら他の勇者をっちゃってクダサイようごおおおおっ!


「『と言うワケで。えー、この放送は勇者対魔王の大戦争の開戦を、おー、ここに宣言するものでありまする、ですじゃ』」


 なななんとっ!

 大戦争!ですとっっ!?

 とんでもないコト言い出しましたよ、大魔王サマっ!


「『えー、つきましては。魔王と闘ってもいいかなー、と思われる勇者のミナサマは是非是非、こぞってご参加下されい。ですじゃ』」

 

 こぞって参加とは言いますがっ!

 勇者と魔王の大戦争に喜び勇んで参加するヤツなんているんデスカネっ!?

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