アイドルステージ at 魔王城! 本番10分前!
「おー、いたいた。へー、みんな似合ってるじゃねーか。特にヒカリぃ。オマエ、嫌がってた割りにはイチバン似合ってんじゃねーかあ?」
でっかい声でメイクルームにずかずかとやって来ましたですよ、ヤンキー女神っ。
ニターリと悪魔の微笑みを浮かべてやがりますよー!
シフォンちゃんと鉢合わせて気まずい空気になるかと思いきや、しれっと平然としたもんですよ。
それはシフォンちゃんも同じで、フィルフィーとは何も無かったみたいな顔をしてますよ。
さすが、魔王になるだけあってメンタル強いなっ。
「やっぱりキュートでラヴリーですわっ、ヒカリ様っ!
こんなにもフリフリひらひらが似合う超絶美形な男の
「それは言い過ぎですよう、ペリメール様っ」
男の
世界中ほじくりかえしたら、100人くらいはいると思うんですけどねっ。
「シフォヒカのみな様、スタンバイお願いシマース」
おっと、リザードマンのスタッフさんが呼びに来ましたですよ、いよいよ本番!ですよー!
「それでは皆様っ! 私達も観客席で応援していますからっ!
頑張れー! ですわあっ!」
「ハイッ! 頑張りマスっ!」
「しっかり見ててねっ、お姉ちゃんっ」
フィルフィーとペリメール様がメイクルームから出て行く直前、くるりとフィルフィーが振り向いて。
「よお、シフォンっ」
「はあーん? ナニよ、フィルフィーマートっ」
おっと、これはっ!?
シフォンちゃんとフィルフィーがニラみ合っちゃってますよ!
声を奪った方と奪われた方の闘いが勃発しちゃいそうな空気です!
珍しくフィルフィーがおとなしいなーと思ってたらコレですよ!
「オマエと顔を合わせるのは、あの時以来だなあ?」
「それがどうしたってのよっ。声は元通りになったんだから、もういいでしょっ!
私は謝らないわよっ!」
「別に謝って欲しくなんかねーよっ。なんてったって、オマエはヒカリに負けたんだからなあ? ボロクソのズタボロになあ?」
ニターリと悪魔の微笑みですよ、ヤンキー女神!
なんで挑発しちゃうかな、もうっ。
「……へーえ? 言ってくれるじゃないのよ、フィルフィーマートっ」
シフォンちゃんは眉をつり上げてご立腹!
一触即発じゃないデスカっ!
ここは俺が仲裁ですよっ。
「あのっ!ケンカはダメだよ、シフォンちゃんっ」
「わかってるわよっ! なんなのよ、フィルフィーマートっ! 言いたいコトはそれだけなのっ!?」
「別にぃ? ただ、ひと言だけ言いたくてなあ」
ずずいっとシフォンちゃんに歩み寄るフィルフィーですよ。
身長差があるせいで、シフォンちゃんの顔がフィルフィーの胸の位置。
って、これはっ。
ヤンキーにカツアゲされてるアイドル衣装の女の子、ってな図になっちゃってますよー!
ナニをぶっこむ気なのかしらっ、とハラハラしながら見てると、フィルフィーの口から出た言葉は、なんとっ。
「あたしの舎弟を
いっちょ、ブチかましてこいやあっ!」
「……そんなのっ、言われなくても、わかってるわよっ!」
まさかのフィルフィーからのエールですよ!
プイっとそっぽを向いたけど。
んんー?
なんか顔が赤いですよシフォンちゃん。
ペリメール様は、そんな二人のやりとりを微笑みながら見てますですよ。
「ではでは、みなさまっ! ご武運をっ、ですわっ!」
いや、あの、戦いに行くワケじゃないんですよ、ペリメール様っ。
でもまあ、ある意味では、これって戦いなのかも知れないけれどっ。
勝てる気がしない戦場へ行くカンジって、こういうカンジなのかしらうおおおっっ。
「オメーらの初ステージだ!
シケたツラしてねえで気合い入れて
ばちーん!と、俺の背中を叩くフィルフィー!
いって!いってーですよ!
もうちょっと優しくできないのか剛力女神っ!
◇
◇
シーフォーン!
シーフォーン!
シーフォーン!
舞台ソデで待機中。
聴こえてくるのは『シフォン』コールですよ。魔王城なんだから当たり前なんだろうだけど、これってめっちゃアウェイじゃないデスカっ!
男の
ヒカリコールなんて、ひとつも聴こえてこないデスヨー!
やっぱ、魔王城なだけあって、シフォンちゃんの人気は大きいっ!
はっ!
よくよく考えなくても、俺ってシフォンちゃんをズタボロにやっつけちゃった勇者ですよ。
出てった瞬間に、シフォンちゃんのファンから石とか投げられちゃうのではっ!?
怒号とか罵声とか、雨あられに浴びせられちゃうのではっ!?
それはそれで、って、イヤ違うっ!
プレイならともかく、ただボコられ
うおお、プレッシャーに押し潰されそうですようごおおっ。
帰りたいようっ。
人前で歌うのなんてコワイようっ。
お願いだから石は投げないで欲しいようっ。
うっ。
なんか吐き気がっっ。
と、その時ですよ!
「『ヒぃーカぁーリぃぃぃぃっっ!』」
なななんとっ!
ひときわでっかい声が聞こえると思ったら、この声はフィルフィーじゃないですかっっ!
舞台ソデまで聞こえるなんて、なんてデッカイ声でなんですかね、拡声器女神っ!
なんっか、こっぱずかしいっ!
けど、でも。
なんかウレシイですよ!
「今のでっかいお声って、フィルフィーマート様ですよねえ?」
「子供の頃からでっかい声なのよ、フィルフィーはっ」
「フィルフィーマート様とペリメール様が観ておられるんだ。怖じ気づいてる場合じゃないぞ、ヒカちくりんっ!」
ばしぃんっ!と俺の背中を叩くレイルさん!
いって!いってーですよー!
もうちょっと優しく叩いて欲しいもんですようおおっ。
でも、今ので気合いが入ったような気がしないでもないですよっっ!
ぬおお、やるからには頑張らねばっっ!
吐きそうになってる場合じゃないぞ、男の
「ねえ、ヒカリっ」
んむむっ?
シフォンちゃんが俺の手をきゅっと握ってきましたですよ?
ラーフィアちゃんがムッとしてるのを、シフォンちゃんは見て見ぬフリですよ。
「えっ? うんっ? なにかなっ?」
「私の夢を叶えてくれて、ありがとうね」
なななんとっ。
魔王にありがとうって言われちゃったよ、妄想勇者っ。
「えっ? いや、そんなっ。ボクは特別なコトなんてナニもしてないよっ?」
「私は猪突が猛進してたんだよね。いきなり大きなステージに立とうだなんて、夢物語だったってわかったんだよ。
ヒカリが『一緒にやろう』って言ってくれなかったら、私はここにいなかったと思うの」
イヤ、ちょっと待って下さいよ。
俺は『一緒にやろう』なんて言った覚えはナイデスヨっ?
「えっと……他人の声を奪うってやり方は強引過ぎたとは思うけど……アイドルになりたいっていう夢を諦めなかったから、シフォンちゃんは今、ここにいるんじゃないのかな、って思うよ?」
なんつって優しくニッコリ微笑む俺ですよ。
「そっ、その、うるうるキラキラの
シフォンちゃんたら、俺のうるキラの瞳を直視出来ずに顔を赤くして、プイッとそっぽ向いちゃいましたよ。
なかなかカワイイ所もあるじゃないですかっ。
「私達のステージはここにある。
『魔王城』というステージが!
ここから世界一のアイドルを目指すわよおっ!
今日が『シフォヒカと愉快なシモベ達』の始まりの日なのよっっ!」
「盛り上がってるトコロ悪いんだけどっ。
ちょーっとだけ気になってるコトがあるんですけどっ」
「はあん? ナニよ、言ってみなさいよ、ラーフィアっ」
「なんで女神の私達がシモベ扱いされなきゃいけないのよっ。グループ名は変えるべきよ!」
「フィルフィーマートが、言い出しっぺが決めればいいって言ってたでしょーがっ。
先輩女神の言うコトなんだから、あなたは素直に従ってればいいのよおーほっほっほっほっ!」
「なんで魔王のあなたがフィルフィーの言うコトを真に受けてるのよっ」
なんかギスギスしてるな二人ともっ。
グループ名でモメるなんて、よくある事かも知れないけども。
ここはひとつ!
カレシとしてラーフィアちゃんを励ましてみようじゃないですかっ。
「あの、ラーフィアちゃんっ。即席のグループ名なんだし、そんなに気にするコトないと思うよっ?」
「そっ、そうよねっ!
即席だもんねっ。3分で作ったお気楽ユニットだもんねっ。今日限りで解散しちゃうんだから、どーでもいーよねっ!」
ちょっとラーフィアちゃんっ?
言い方がトゲトゲしいデスヨっ?
今度はシフォンちゃんがムッとしちゃってマスよー!
「ステージが上手くいけば解散は無しって決めたでしょーがっ。それともナニかしら?
ペタン娘ラーフィアはワザと足を引っ張るつもりなのかしらっ?」
ロリ声なもんだから迫力はナイけど、ニヤリとワルい笑みを浮かべつつ挑発しちゃってますよ、シフォンちゃん。
「私がヒカリちゃんの足を引っ張るワケないでしょーがっ! やるからには全力でやるわよっ!」
「全力なんて当たり前よっ!
デビューライブが解散ライブなんて、ゼッタイのゼッタイにイヤなんだからねっ!」
うおお、熱いっ! 熱いよシフォンちゃんっ!
ちょっとでも触ったらヤケドしちゃいそうですよー!
「それじゃあ、気合い入れるから!
みんな輪になって私に手を重ねなさいっ!」
めっちゃ仕切りますよシフォンちゃん。意気込みがハンパない!
そんでもって、これはっ!
アイドル達のお約束!
ライブ前の気合い注入『円陣』ですよ!
男の
「今、ここにいる私達は!
魔王も勇者も女神も関係ない!
アイドルステージに立つ五人の女の子なのよっ!」
シフォンちゃんったら、アツいですよー!
でも、俺は男の
「気合いよ、気合いっ!
ステージで
やたらヒートアップっぷしちゃってるけど、そんな事にはならないようにしましょうよー!
「みんな、自分の名前を言うのよっ。それじゃあ、気合い入れるわよおっ!
シフォン!」
「ヒカリっ!」
「ラーフィア!」
「レイル!」
「フェイリア!」
「ぶちかますわよおっ! ふぁいっ!」
「「「「おー!!」」」」
シフォンちゃんのアツい想いは俺達にも伝わってきますよー!
どんぶらこっこと流れに流されてアイドルユニット組んじゃうコトになったけど、最初で最後と思えば頑張れますよー!
「さあ!行こうっ! 私達のステージへっ!」
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