魔王シフォンが目指すモノ

 覚悟を決めて今度こそバトルスタート!

 と、思いきやっ。


「あれはそう……私が15歳の時のコトっ」


 んむっ?

 いきなり語り始めましたよ、魔王シフォン。

 なんだか遠い目をして空を見上げてるけど、そこには白い雲がぷかぷか浮いてるだけなんですけどっ。


「魔王を目指しつつ、アイドルのオーディションを受けまくって落ちまくってた私がたどり着いた答えは!」


 え。答え、早いなっ。

 今まで苦労してきた話を延々するのかと思いきや、開始3秒で答えにたどり着いちゃいましたよっ。


「その答えはなんだと思うかしら?

 答えてみなさい、ぐるぐるクソメガネっ」


 知らんわい。

 語り出しておきながら俺に問うとはこれいかにっ。あと、ぐるぐるメガネはクソじゃ無いぞっ。


「さあ答えなさいよ、ぐるぐるクソメガネっ!」


 ああもうウルサイなー。

 しょうがナイから、とりあえず答えてあげますけども!


「えー、と。アイドルになりたい気持ちを諦めない、とか?」


「は? 諦めないなんて当たり前よっ!

 私に足りなかったモノはなんだったでしょーか、って訊いてるのよっ!」


 そんな風には訊いてこなかったでしょーに。

 なんだか会話があっちこっちに吹っ飛びますよ魔王シフォン。

 めんどくさいなー、もう。


「うーん、それじゃあ。身長が足りなかった、とかっ?」


「バカタレ。

 アイドルにとって低身長は逆に武器なのよっ。特に身長が低いコが好きなロリヲタには、どストライクなの!」


 バカタレって言われちゃったよ、男のっ。


「ロリって言うけどっ、魔王シフォンって何歳なんですかっ?」


「17歳よっ。なんか文句あんのっ?」


 イヤ、別に文句はナイですがっ。

 17歳って、俺とタメじゃないデスカ。

 いくら低身長とは言え、年齢的にロリ認定されるのはムズカシイのではっ?

 真のロリヲタは年齢にもウルサイですからねっ。


「あのですねっ。17歳でロリってムリがあるんじゃないデスカっ?」


「つべこべとうっさいわねー。ロリアイドルになりたい訳じゃ無いのよ、私はっ!

 見た目が良いに越したコトはないってのはわかるでしょっ?

 歌声で勝負したいのよ、歌声でっ!」


 歌声ですとっ?

 それでキレイな声を奪おうと思い付いたってコトなのかっ!


「だっ、だからって!

 フィルフィーとポプラールさんの声を奪って良い理由にはならないと思いマスっ!」


「はーん? 歌って踊れるアイドル魔王のチカラの一部になれるんだから、逆に感謝してもらいたいくらいだわよっ」


 なななんとっ!

 他人の声を奪っておきながら『感謝しろ』ですとっ!?

 どこまでも身勝手でワガママですよ、魔王シフォンっ!


「あなたも私のちょっと下くらいにカワイイんだから、一度はアイドルになりたいって思ったコトあるハズよっ!

 男のアイドルなんて新しいでしょっ」


「えっ!?」


 カワイイって言われちゃったよ、男のっ。

 ちょっと下、って言う辺りが負けず嫌いですがっ。


「魔王と勇者の美少女ユニットなんて今まで見た事ナイから、きっとウケるわよおっ!

 しかも片方は男のなんて、注目されるコト間違いナシだわっ!

 ガタガタ言わずに、さあ!

 あなたも、あの輝くステージに立つのよ!」

 

 びしいっ!と空に向かって指差しましたよ魔王シフォン!

 そこにはステージもなんもナイですよー!

 ガタガタ言わずに、って俺は特に何にも言って無いんですけど!

 なんか勝手に盛り上がっちゃってるけど、俺はアイドルになる気なんてないのです!


「ボクはっ! 

 アイドルに興味はありませんっ!」


「はあーん? それじゃあ、訊くけど。

 いったい、いつまでしょーもないファミレスでしょーもないバイトを続けるつもりなのかしらぁ?」


 なぬっ!

 俺がファミレスでバイトしてるのを知ってるのかっ。


「あなた、神様店長にしょっちゅうお尻触られてるわよねぇ?

 あんなのセクハラなのに、なんで神様店長はクビにならないのかしら?」


 むむ、そんなコトまで知ってるのかっ。

 そりゃ、まあ、男同士だからじゃないですかね。とは言え、神様店長のセクハラには俺も困ってるんですけどねっ。


「はっ! もしかしてっ!」


 んむっ!? なんか気づいちゃったかなっ?


「あなたっ、あのエロジジイの愛人なのねっ!?

 そうじゃなければ、あんなに嬉しそうにお尻触らせないでしょっ!」


 なんでじゃいっ。

 冗談にも程があるってモンですよ!

 どこの世界に嬉しそうにお尻を触らせる男のがいるってんですかっ。

 

「愛人なんかじゃ無いですよっ!

 ボクにはカノジョがいるんですからねっ!」


「は? カノジョ? なに、あなた、男ののクセにカノジョなんているの?」


 むっ。クセにとか言うないっ。

 お相手はラーフィアちゃんだけど、いちいち説明するのはめんどくさいからスルーしますがっ。


「で? どんな娘なのっ? カノジョとは、どこまでヤったの?」


「えっっ!?」


 なななんとっ!

 なんかグイグイ前のめりですよ、魔王シフォンっ!


「そっ、そんなコト、魔王シフォンに関係ナイですよねっ!?」


「ナニ言ってるのよっ。

 これからアイドル業界で活動するんだから、相方のコトは知っておかないとダメでしょーがっ。

 いいことっ? ユニットで闘い抜くには相方との信頼関係がイチバン大事なのよっ!」


 いつの間にか相方認定して信頼関係とか言い出しちゃったっ!?

 俺はひと言も『アイドルやります』なんて言って無いですよっ!

 勝手に物事を進めるタイプですよ、魔王シフォン!


 勇者と魔王の闘いにきたのに、なんだかどんどん闘いの方向性がズレてってますよー!


「あのっ! アイドルってっ。そのコトは大魔王サマは知ってるんですかっ?」


「はあーん? なんで、この話の流れで大魔王様が出てくるのよ?」


「だって、大魔王サマって上司でしょっ?

 上司への『ほうれんそう』を無視しちゃダメじゃないですかっ?」


「はああーん? ほうれんそう?

 そんなもん社畜を洗脳飼育する為の戯れ言よ。バカ正直に守ってる時点で社畜脳でしょーがっ」


「えっ!? だって、報告、連絡、相談って大事じゃないのっ?」


「あなた、だいぶ社畜脳ねえ。勇者を名乗るなら、もっと自由で柔軟なアタマじゃないと、この先伸びないわよぉ?」


 なななんとっ!

 魔王に説教されちゃったよ妄想勇者!

『ほうれんそう』を無視するなんて、俺にはナイ斬新な考え方ですよっ。


「自分で考えて行動出来ないようじゃ、一生使い回されて終わりだわよ? 

 ねえ。あなたはどうして勇者なんてやってるの?」


「えっ?」


 どうして、って訊かれてもっ。

 カッコいいから、なんて言える空気じゃナイ感じですよっ。ここはシンプルに『正義の為に』って言っときますよっ。


「正義の為に、なんて言わないでよね」


 うお! 先読みされてしまったっ!?

 それならばっ。


「みっ!みんなの自由と平和を守る為ですっ!」


 これでどーですかっ!


「はあああーん? つまんないわねー。もうとっくに平和な世の中でしょーが。

 勇者と魔王の闘いはちょこちょこあるけど、世界を巻き込むような大戦争なんて無いんだし。

 ほんと、しょーもない世の中よねー」


「でもっ!

 平和だからこそ、魔王シフォンだってアイドルを目指せるんじゃないんデスカっ?」


「平和でしょーもない世の中だからこそ!

 退屈な世界に風穴をブチ空ける為に、私は魔王になったのよっ!

 アイドル活動は通過点にしか過ぎないのよ、ぐるぐるクソメガネっ!

 いいえ、ぐるぐるクソメガネっ!」


 なんで同じ悪口を言い直したんデスカネ、魔王シフォンっ?

 

「魔王こそ自由! 魔王こそ正義!

 己の信念を貫き、ワガママを貫き通す!

 この世で尊いのは、私ただ独り!

 協調とか調和なんてクソ食らえっ!

 無敵のアイドルになって天下統一!

 己を強く持たないと魔王として生き残れないわよ、コウダヒカリっ!

 いいえ、ぐるぐるクソメガネっ!

 勇者なんてモノに縛られてないで、あなたもこっち側に来なさいっ!」


 なななんとっ!

 俺を魔の道に引きずり込もうとしてますよ魔王シフォンっ!

 て言うかねっ。ぐるぐるクソメガネは名前じゃ無いんだから、言い直さなくていいんデスヨー!


「ただ言われた事をこなすだけなんて冗談じゃない!

 私は私の信じる道を行くの。誰にも邪魔はさせないわっ!」


「だっ、だからってっ!

 他人の声を奪っていい理由にはならないでしょっ!

 やり方なんて他にもいっぱいあるハズですよっ!」


 フィルフィーとポプラールさんの声を奪っておきながら、ワガママ放題の言いたい放題ですよ、魔王シフォンっ!


 フィルフィーの声が奪われちゃった時のペリメール様の悲しい声と淋しい表情は忘れられない!

 その顔を見たフィルフィーだって、めっちゃ辛そうな顔してたっ!


 あんな顔のフィルフィーとペリメール様なんて見た事なかったから、脳ミソの裏っかわに焼き付いちゃってますよ!


 しかもラーフィアちゃん達の初仕事の邪魔をしてっ!


「どんな理由があるにせよっ、人に迷惑をかけちゃイケマセンよ魔王シフォンっ!」


「ふん!

 多少の犠牲はやむを得ない。それは歴史が証明してるでしょ?」


 犠牲、ですとっ!?

 自分のワガママのせいで、どれだけ多くの人が悲しい想いをしてるのかわかってませんよっ!


 こんなワガママ放題、好き放題を野放しにしておくワケにはいかないっ!

 もーう、かまっていられませんっ!


 おイタばっかりしちゃうワルい魔王は、お仕置きしちゃりますっ!

 ランク差とかレベル差なんてカンケー無いっ!

 ド根性の見せ所ですよ、男のっ!


「ユカイな押し問答は終わりですよ、魔王シフォンっ!

 何度も何度も言いますがっ!

 ボクはあなたを倒しに来たのでアリマスっ!

 お着替えガチャっ!いきますよおおおっ!」


「はあああーん? 面白いじゃないっ!

 かかってきなさい、コウダヒカリっ!

 いいえ、ぐるぐるクソメガネっ!」


 だから言い直さなくていいんですってばっ。

 まあ、もういーです!


 集中! 集中! 超集中!

 めっちゃ集中ですよ男のっ!


 イメージするのは『ラジカルラミィ』と『ラリラリルレ美』両方の強さを合わせ持ったキャラクター!


 俺だけのオリジナルキャラ!

 その名もっ!


『愛の超絶合体大勇者天使!

 ラジカルラリルレミィ!』!

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