またまた遭遇!元黒竜王スズキさん!

「それでは皆さまっ。

 私達はお言葉に甘えて旅行に行かせて頂きますが、くれぐれもムチャはしないようにっ、ですわっ。

 逃げるが勝ち、と言う言葉があるくらいですから、状況の見極めが肝心なのですわっ!

 ラフィーさんっ。もし、何かあったら『指通話フィンガーフォン』で連絡して下さいねっ、ですわっ」


「二人のジャマなんてしないよ、お姉ちゃんっ!

 じっくりたっぷりしっぽりねっとり、新婚旅行を楽しんで来てよねっ♪」


「じっくりはともかくっ、たたたたっぷりしっぽりねっとりってなんのコトでしゅかっ、ですわんっっ」


 なんつって赤面ですよペリメール様。

 新婚の二人が旅行先でする事と言えばっ。

 そりゃあ、ね! いちいち詮索するのは野暮ってもんですよー!


 というワケで。


 フィルフィーとペリメール様は、南の海へ七日間の新婚旅行に行っちゃいましたよ。


 そんでもって俺達は、フィルフィーとポプラールさんの声を取り戻す為に!


 いざ! 魔王退治へ!


 妄想勇者のパーティーは『勇者と新米女神が三人。その内のひとりが元魔王』っていう変則パーティー。

 ゲーム的に言う『戦士』とか『魔法使い』とか『治癒術士』とかがいないんですけど!


 でも、大丈夫なのです!


 元魔王で現在は女神のラーフィアちゃんは、ちょっとした治癒術なら使えるのだ!

 これで少々ならズタボロになっても安心!

 でも、なるべくズタボロにならないように頑張りますよー!



           ◇



 例のごとく、魔王城へはバスで行きますよ。

 エンジンが無い、運転手もいない、魔法が動力の自動運転のエコなバスですよ。


 俺はいつものゴスロリメイド服ver.2で。

 ラーフィアちゃん達はお揃いの女神服。

 女神専用スケスケネグリジェは公共の場では自粛するみたいですよ。うーん、ちょっと残念!



 魔王城へ向かうバスの中。

 向かい合わせタイプの座席で、正面にはラーフィアちゃんがニコニコ笑顔。

 俺の隣にはフェイリアちゃん、その向かいにはレイルさんが二人でお話し中。


 これから闘いの場に赴く勇者パーティー!

 ってカンジが薄すぎますよー。


『魔王城へ向かう勇者達には、苦難の道のりが待ち受けているのであった!』


 みたいなRPG的な要素なんてゼロですよ。

 まあ、苦難の道のりなんて無きゃナイでいーんですけどねっ。


 ピクニックにでも出かけるオトメ達。みたいなノリなのですよ。

 そのひとつの要因に。

 なんかでっかいバスケットケースを持ってますよレイルさん。


「ねえ、レイル。今朝見た時からずっと気になってるんだけど……それって、何が入ってるの?」


「これはですね、あの……今日のお昼にと思って、サンドイッチを作ってきたのですがっ。

 よろしければ、ご一緒にいかがですか? ラーフィア様っ」


「えー! レイルの手作りサンドイッチっ!?それは楽しみだよー♪ レイルってお料理上手だもんねー♪」


「いえ、そんなっ。ペリメール様がお作りになられたのを参考に作ってみたんですけど……なかなか思うようにはならなくて、自信が無いんですけど……」


 お料理上手と褒められて、はにかむ表情がカワイイですよレイルさん!

 いつもツンツンしてるイメージしか無いから、こんな柔らかな顔を見るのは初めてかもっ。

 思わず俺まで頬が緩みますよー。


「おい、ちんちくりんっ。

 何をニヤニヤしてるんだキモチワルい。貴様の分もあるが、それはパンの耳だけだと言っておくぞっ」


「えっ!? ニヤニヤだなんて、そんなっ」


 いや、それよりもっ。

 パンの耳だけってマジですか。

 具無しどころか、味すら無いじゃナイですかっ。お口の中がパッサパサになっちゃいますよー!

 相変わらず俺には冷たいですよレイルさん!


「ねえ、レイルちゃーん。それってぇ、スズキ君の分も作ってきたんでしょお?」


「えっ!?」


「作ってきたんでしょお?」


「べっ、別にっ。ちょっと多く作ってきただけでっ。もし余ったら、すっ、スズキ君にあげても別に問題ナイだろうっ? 元同僚なんだしっ」


「へーえ。ふーん? 元同僚にわざわざ、ねえ?」


 ニヤニヤと意地悪く微笑むフェイリアちゃん。レイルさんいじりはお手のものみたいですよ。

 レイルさんは真っ赤になって、プイっと横向いちゃいましたよ。

 純情で一途なトコロは、なんだかペリメール様に似てるかも。

 めっちゃカワイイオトメですよ、レイルさんっ!

 

「ねえ、ヒカリちゃんっ。私もね、クッキー作ってきたの。食べてくれるかなっ?」


「えっ?あっ、うんっ。もちろん、いただきマスともっ!」


「クッキーと相性バツグンのミルクティーもありますよっ♪ えへへっ♪」


 うお! 銀髪美少女ラーフィアちゃんの『えへへ』を頂いちゃいましたよっ。

 やっぱKAWAEEEEですよラーフィアちゃんっ!


「ラーフィア様ぁ。リアちゃんも欲しいでぇす♪」


「ラーフィア様の手作りならばっ、私も頂きたいですっ!」


 なんなんですかね、この緊迫感の無さはっ。

 今から魔王と戦う勇者パーティーとは思えないユルさですよっっ!

 端から見れば、うら若き乙女がきゃっきゃウフフと、バスの中で花を咲かせてるように見えるかもしれませんがっ。

 実はこの中に混じってるのですよ、男のっ。


 あっ。

 バスの中では、静かにしないと迷惑になっちゃいますよー!



           ◇



 はてさて、ややもし到着ですよ魔王城!


 前に来た時は、ここでスズキさんに会ったんだっけ。

 俺の事を『俺の嫁』とかいってウザ絡みしてくるのは目に見えてるし、レイルさんが一緒にいるから、なるべくなら会いたくないんだけどなー、と思ってたその時ですよ!


「ようこそ魔王城へおいでいただきまして、ありがとーごぜえますだっっ!

 魔王城では、様々なアトラクションをご用意しておりますもんでっ!

 ココロおきなく、うんと、たーんと楽しんでって下さいっぺよー!

 ぬはっ!ぬはっ!ぬはははははっ!」


 ぬはぬはとウルサイこの笑い声はっ!

 元、黒竜王スズキさん! 清掃員から案内係にジョブチェンジ!

 清掃着から、しゅっとしたスーツに代わってますよっ。

 元がイケメンだからスーツ姿が似合ってますがっ。


「あれっ!? あんれー!? そこにいるのはおらの嫁で戦友セフレのヒカリでねえっぺかー!」


 うわ、見つかったっ!?

 うおお、なるべくなら会いたくなかったのに、めざとく俺を見つけて素早く近づいて来ましたよスズキさんっ!


 いや、それよりも!

 でっかい声でおかしなコトを口走るんじゃないぞっ!

 俺はスズキさんの嫁でもなんでもナイんだからなっ!

 あと、戦友をセフレって言うのはヤメろっ!


「イヤイヤイヤイヤ、久しぶりだなっすー!

 相変わらず、めんこいっぺなあー!

 ぬはっ!ぬはっ!ぬはははははっ!」


 ぬはぬは笑いを間近で聞くと、めっちゃウルサイ!

 背が高いもんだから、頭上からぬはぬは笑いが降り注ぐ、みたいな、まあそんなカンジですよー!

 

「すっ、スズキ君っ! 久しぶりだねっ」


 俺を抱きしめる勢いで近づいてきたスズキさんとの間に、しゅっと入ってきましたよレイルさん!

 助かったけど、チラリと俺を見た時のレイルさんの目は、野獣が獲物を狙う時の鋭い眼光でしたよっ!


「んっ? フォレタスちゃんだべ? なんか、カンジが変わったべかー?」


「あのっ、私っ、女神になったんですっ。ラーフィア様とフェイリアと一緒にっ。

 あと、フォレタスじゃなくて、フォレスターですっ」


「え?ああ、うん。へー。そうなんだべかー。

 ラーフィア様が女神になったってのは聞いてたけんども、フォレタスちゃんとヘイリアちゃんまで女神様になったとは驚きだなっすー!」


「ヘイリアじゃなくて『フェイリア』だよう、スズキくんっ♡」


 甘ったるーい声とともに、つんつんっとスズキさんのわき腹を突っつくフェイリアちゃん!

 レイルさんが鬼の形相でフェイリアちゃんを睨んじゃってますよっ。


「おほー! ヘイリアちゃんに突っつかれると色んなトコロがおっつなっすー!

 どうだべかっ? ヘイリアちゃんもおらの嫁になんねっぺかっ?」


「アハー♪ ムリでぇす♪」


「なんでだべっさ、つれねえなっすー!

 まあ、いつでもおらの嫁に来てくれてかまわねっすよー!

 ぬはっ!ぬはっ!ぬはははははっ!」


「アハー♪ 絶対イヤでぇす♪」


「だべなー!ぬはっ!ぬはっ!ぬはははははっ!」


 なんなんですかね、このかるーいやり取りはっ。

 スズキさんとフェイリアちゃんの中身の無い、薄っぺらーい会話についていけずに置いてけぼりですよレイルさん。

 なんかちょっとカワイソウですよー。

 あと、どうでもいいけど、ぬはぬはウルサイぞスズキさん!


「今日はみんなして遊びに来たんだべかっ?  

 なんならおらが案内、って、ヒカリ以外は魔王城に詳しいから案内なんていらねえべかー!

 そったら、ヒカリようっ。

 ちょっくら、おらの復活した股間のジエンドオブソウロウでも拝んで見ねえっぺかっ?

 なんてなー!

 ぬはっ!ぬはっ!ぬはははははっ!」


 再会して5分も経たないのに、下品な下ネタはヤメろっ!

 股間のえげつないジエンドオブソウロウなんて見たくも無いわいっ。俺のカワイイ『コヒカリ君』がしょぼくれちゃうでしょーがっ。

 あと、スズキさんは仕事中だろっ。


 ここはビシっと言ってやらないとっ!


「いえ、お構い無くっ! ボク達は魔王シフォンに用事があるんですっっ」


「ええー? ヒカリがシフォン様にー? 

 いったい何の用事だべさ?」


「ボクは勇者としてっ! 

 魔王シフォンを倒しに来たんですっ!」


「ヒカっ! ヒカリちゃんっ!?」

「アハー♪ 言っちゃったー♪」

「……やらかしてくれたな、ちんちくりんっ」


「えっ!? ナニっ? ボク、なんかやっちゃいましたっ?」


 なんかどっかで聞いたコトあるやっすいセリフを、俺が言う事になろうとはっ。

 あれ、でも、なんか違うよなっ?

 アレって確か、無自覚で無双したヤツが言うセリフだったような気がするぞっ?


「あれを見ろ、ちんちくりんっ」


 ワケわかんなくてキョドる俺に、レイルさんが入り口の看板をビシっと指差して教えてくれましたよ。


 えー、どれどれなになに? と見てみるとなんとっ!


『魔王様に敵対心を持つ者は入場お断り。

 発言にも十分ご注意下さい。

 不穏な者は発見次第、魔王軍戦闘員がつまみだします』


 えー! なんじゃいこれっ。

 こんなの前に来た時は無かったぞっ!?


「私が魔王だった時はね、こんなのしなくてもいいよ、って看板を取り外してたんだよ。先に言うべきだったねー、ごめんねヒカリちゃん……」


「そんなっ、ラーフィアちゃんが謝るコトなんて無いようっ」


「そっかそっかー、シフォン様を倒しに来たんだべかー。

 そう言えば、ヒカリは勇者リストに載ってたっぺなー。

 そったら、いくらおらの嫁でも聞き捨てならねえっすなあ……」


 あれっ!?

 スズキさんの表情が厳しいモノに変化した!

 ニタニタへらへらしてるより、こっちの方がよっぽどイケメンでカッコいいですよ!


 イヤ違うっ!


 さすがは『黒竜王』を名乗ってただけあって、鋭い眼差しは衰えて無い!

 でも、俺の全身を下から上までなめ回すような視線は、やっぱりやらしいんですけど!

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