ヒカリの決意!

 大きな漆黒の翼を小さく折り畳んで、なんとか扉をくぐりぬけて行っちゃいましたよ魔王シフォン。


 イヤ、俺達はそれどころじゃナイですよ!


「フィルフィーさんっ。大丈夫ですかっ?ですわっ!」


 めっちゃ心配そうですよペリメール様。

 フィルフィーは見た目だけだと、かすり傷ひとつ無いんだけど。


「……っ」


 喉に手を当てて、口をパクパクするフィルフィー。

 これって、もしかしなくても……

 魔王シフォンのキスでっ!

 フィルフィーの声が奪われちゃったっ?


「フィルフィーさん……声が出せないのですかっ?ですわっ」


 俺まで泣きそうになるくらいに悲しい声音ですよペリメール様。

 フィルフィーはペリメール様の頬に手を当てて、柔らかく微笑んでみせたけど。

 やっぱり、ちょっと覇気が無い。


 うぬぬぬぬっ。

 二人の大切な善き日にっ!

 なんてコトをしてくれちゃったんですかね、魔王シフォンっ!


 フィルフィーはパタパタっと手話っぽいジェスチャーで何かを伝えようとしてますがっ。

 うむむ、わかりません!


「えっとぉ。『心配すんなペリ子っ!』て仰ってまあす」

 

「えっ?フェイリアちゃんっ、フィルフィーの手話がわかるのっ?」


 なおもパタパタと手話を続けるフィルフィーですよ。続けてフェイリアちゃんが通訳です。


「えっとですねぇ。『ヒカリが魔王シフォンをぶっ飛ばしてくれるからなっ!』って仰ってまあすぅ」


「えっ!?」


 フィルフィーが俺に期待している、だとっ?

 こんなコトは今までに無かったぞっ?


 なおもパタパタと手話を続けるフィルフィーですよ。


『今のヒカリなら大丈夫だぜっ。自信を持て!』


「えっ? そうなのっ?」


『ラフィーと闘ったコトで、お着替えガチャは最強のスキルだってわかっただろ?

 オマエなら勝てる!』


「最強、って……そんな確信は無いんだけど……」


『要は使い方だよ、使い方っ。オマエはなんで妄想勇者って名乗ってるんだっ?』


「えっ?」


『お着替えガチャで一番大事なのはイメージだってわかってるんだろ?

 何にも考えずにガチャるなら出る衣装はランダムだけど、イメージが強ければ思いどおりの衣装が出せる、ってな!』


「フィルフィーは、やっぱり知ってたんだ……」


『オマエの妄想力を最大限に活かせば、魔王シフォンなんて楽勝ラクショーパンチだぜっ!』


 なんですかね、楽勝パンチって。

 教え下手と言うか投げっぱなしと言うか、フィルフィーは放任主義だからなー。

 お着替えガチャで大切なのはイメージだって気づいたのは、つい最近ですからね!


『1から10まで教えたってモノにはならないからなっ。自分で学んでなんぼだぜっ』


 うむむ、なるほどそーですか。

 習うより慣れろ、ってヤツなんですか。


 魔王と闘うのは事実上これが初めてですよ。 

 ラーフィアちゃんとは更正施設のバトルフィールドで闘ったけど、あの時はもう魔王じゃ無かったし。

 魔王城でのアレはノーカウントにしておきますよ!


 どうやらホントに、ここが勇気の出しどころで見せどころですよ、男のっ。


 普段お世話になってるペリメール様と、ついでにフィルフィーへの恩返しの意味を込めてっ!


「……わかったよ、フィルフィー!

 ボクはっ!ポプラールさんとフィルフィーの声を取り戻す為にっ!

 魔王シフォンをと闘って!

 あわよくば倒したいと思いますっ!」


 ぐぐっと拳を握り締めっ!

 宣言しましたよ男のっ!

 あわよくば思うってトコロに締まりがナイですがっ。


「それで、えっと、あのう、できれば誰かボクと一緒に来てほしいかなー、なんて思っちゃったりなんかして……」


 うおお、モジモジと情けないですよ男のっ!

 ひとりでお使いに行けない4歳児みたいですよー!


 でもでもだって、コワイんですものー!

 相手は魔王だった頃のラーフィアちゃんより強いっぽいんですものー!

 クエスト行くならパーティーで、って言いますからねっ。

 ギルドのポスターにも書いてあるしねっ。


「じゃあ、当然!私が一緒に行くよ、ヒカリちゃん!」


「えっ!いいのっ?」


「もちろんだよっ。なんてったって、私は元魔王なんだから。魔王城の秘密の通路とか抜け道とか知ってるんだよっ」


「えっ!ホントにっ?」


「遠慮なんてしないでねっ。新米だけど、私は女神!それに私は、ヒカリちゃんのっ、かっ、カノジョなんだしっ?」


「えっ? あっ。うんっ!

 嬉しいよラーフィアちゃんっ!」

 

 ぱしっ!とラーフィアちゃんの手を取る俺ですよ!

 ゲームで言うなら『ラーフィアが仲間に加わった!』みたいな、まあ、そんなカンジです!

 ラーフィアちゃんは、ちょっと照れつつも笑顔ですよ!


「魔王城へは私もお供いたします、ラーフィア様。ちんちくりんだって、仲間はひとりでも多い方がいいだろうからなっ」


「とかなんとか言っちゃってぇ、レイルちゃんはスズキ君に会いたいだけなんじゃないのおー?」


「えっっ!? そっ、そんなコトは無いぞフェイリアっ!私はラーフィア様の盾なのだからなっ。すっ、スズキ君の顔を見たいだなんて、そんな不真面目な理由はっ」


 んんー? 頬が赤いですよ、レイルさん?

 思わずニヤけちゃいますよっ。


「ナニをニヤニヤしてるんだちんちくりんっ。

 キモチワルいだろうがっ。ラーフィア様の想い人でなければ、両手足を縛って海の底に沈めるトコロだぞっ」


 海の底に沈めるってマジですかっ。

 溺死しちゃうじゃないデスカっ。

 レイルさんたら、相も変わらず俺にはめっちゃ冷たいですよー!


「仲間外れはイヤですからぁ、もちろんリアちゃんもお供いたしますよう♪」


 なななんとっ。

 フェイリアちゃんまで来てくれるとはっ!

 これはっ!

 ゲーム的に言うと『新米カシマシ三人女神が仲間になった!』ってカンジで心強いですよー!


 新米女神とは言え、元魔王とその側近二名!

 勇者パーティーの中で最弱なのは、勇者の俺!


 みたいな、まあ、そんなカンジです!



「それじゃあ、出発は早い方がイイよねっ。シフォンの『奪声』スキルは1週間に1回しか使えないって言ってたしっ」


「それはアイツのウソかも知れませんから、十分に注意が必要ですよ、ラーフィア様っ」


「わかってるよう。レイルとフェイリアも来てくれるのなら百人力だよっ。

 サポートはバッチリだから、どんなにズタボロにやられても大丈夫だよ、ヒカリちゃん!

 ココロおきなく、シフォンをぶっ飛ばしちゃって下さいっ!」


 ズタボロにやられるの前提なのが気になりますがっ!

 期待されちゃってますよ男のっ!


 もう、これは頑張る以外にナイですよっ!


 でも、なるべくなら、ズタボロにはなりたくナイですよー!


 今、ここにっ!

 妄想勇者パーティーが誕生!

 その内の三人が新米女神、なんていう変則パーティーですがっ!


 覚悟してなさいよ、魔王シフォンっ!


 フィルフィーとペリメール様の善き日に泥を塗ってくれちゃったコトとっ!


 ラーフィアちゃん達の初仕事を邪魔してくれちゃったコトをっ!


 後悔させてあげるんだからねっ!

 そんでもって、大いに反省するがイイですよ!


 妄想勇者のコウダヒカリがっ!

 あなたを倒しに行きますよー!

 

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