フィルフィーのお母さん!

 さてさて、お次は披露宴!

 ちょっと休憩を挟みつつ、教会に隣接してる披露宴会場に移動です。

 

 披露宴とは名ばかりで、なんか二次会みたいなノリですよ。こういうトコロがセルフプロデュースの良さなのかな?


 おっ?

 あそこにいるのは神様店長とフィルフィー、そんでもって、フィルフィーのお母さんっ。


 ここに来てから、フィルフィーのお母さんとまだ話せて無い。

 普段の生活でお世話になってるのはペリメール様だけど、なんやかんやで今の俺がここにいられるのはフィルフィーのおかげですよ。


 そのフィルフィーのお母さんともなればっ。

 滅多に合えないヒトだから、ここは挨拶に行っておかないとっ!

 親子水入らずのトコロに水をさすみたいで、ちょっと気が引けますがっ。

 


「あのっ、フィルフィーっ。ちょっといいかなっ?

 フィルフィーのお母さんに挨拶がまだなんだけどっ」


「あん? そーなのか? ヒカリはマジメだなー」


 すすっと前に歩み出て、ペコリとお辞儀ですよ男のっ。


「ご挨拶が遅れましてスミマセンっ。ボクは『妄想勇者』のコウダヒカリとモウシマスっ。フィルフィーマートさんには、いつもお世話になっておりマスっ」

 

 ぐるぐるメガネの俺を見て、にこっと微笑み返してくれましたよフィルフィーのお母さん。

 ふわああ、ステキなヒトですよっ。

 小顔で切れ長の目、ゆるふわ金髪で色白ナイスボディーの妖艶マダム!

 フィルフィーも尖った部分を削って削って丸くなったら、こんなカンジの美人さんになるのかなっ?


「ヒカリに紹介しておかねばの。ワシの奥さんのポプラールマートじゃ。ポプラールと呼んでくれると良いぞ」


 むむ。コンビニみたいな名前だな。

 名前の由来って、もしかしてフィルフィーと同じなのかなっ?


「なんと、歌手なのじゃ」


「えー!そうなんですかっ!?」


 なななんとっ!

 フィルフィーのお母さんは現役の歌姫!


 そう言えばフィルフィーって、本気出したらすんごいキレイな女神声ゴッデスボイスなんだよなー。

 俺が転生した時と、リセットした時に聴いた女神声ゴッデスボイスは忘れられない!


 何回かしか聴いたコトないけど、実は歌もウマイのですよ。

 フィルフィーが本気出した時のキレイな声って、やっぱり遺伝からくるものなのかなっ?


 イヤそれよりもっ。

 なんで神様店長と結ばれたのか不思議でたまらんですよ!

 めちゃめちゃ美人さんなのにっ!

 はっ!

 もしかして、神様店長が神様の権力でヨカラヌコトをしでかしちゃったのではっ!?


「あのっ、神様店長ってなんでポプラールさんとケッコンしたんですかっ?」


「ん? ワシの奥さんはな、押し掛け女房なんじゃよ、ほっほっほっ」


 なぬっ!

 押し掛け女房って、マジかっっ!

 かなりの美人さんなのに、神様店長の何処が良かったんですかねっ?

 俺には理解しがたいですよっ!


「ちなみに年齢差は760歳じゃ」


 マジすか。年齢離れ過ぎじゃないかっ?

 7世紀を超えた歳の差婚ですよっ。


 あと、ちょっと気になるのは、さっきからひと言も喋ってないですよ、ポプラールさん。

 喉の調子でも悪いのかな?


「ヒカリに言っておかねばの。ワシの奥さんな、ワケあって今は喋れんのじゃよ」


「えっ?」


 ポプラールさんは両手をぱたぱたと動かして、何かを伝えようとしてくれてますよ。

 もしかして手話なのかなっ?

 だとしたら俺にはわかりません!


「あん? ヒカリと会話出来なくて残念です、だってさ」


「えっ?」


 通訳してくれたのは、なんとフィルフィー!

 ポプラールさんの手話を一瞬で読み取りましたよっ。これは意外な特技!

 ただウルサイだけのヤンキー女神かと思いきや、隠れた能力をいっぱい持ってますよ。

 ちょっと見直しちゃったぞっ。


「あの、失礼ですけどっ。神様店長のドコが良くて結婚したんですかっ?」


 ポプラールさんは、にこやかにパタパタと身振り手振りで伝えようとしてくれたんだけど。

 うむむ、さっぱりわかりません。


「あん? おとっつぁんは、めちゃめちゃイケメンで強かったから。だってさ」


 マジすか。

 いつ知り合ったのかはわからないけど、神様店長がイケメンに見えたんデスカっ。

 なかなかに強烈な視野の持ち主のようですよポプラールさん!

 続けてパタパタっと手話を続けるポプラールさん。

 

「あん? ヒカリはカワイイですね。だってさ」


「えっ? あっ、ありがとうございますっ」


 俺はエヘヘと照れ笑い。

 現役の歌姫さんかー。

 でも、娘の結婚式で歌声を披露できないなんてっ!

 これはちょっと、イヤ、かなり残念なのではっ?


「さっき言ってましたけど、今は、ってコトは一時的に喋れないんですか?」


「うむ。魔王に声を奪われてしもうてのう」


「えっ!? 魔王にっ?」


「魔王を倒せば声は戻るハズなんじゃがのう」


 歌手が声を奪われるなんて大事件じゃないですかっ!

 しかも魔王に、ってどういうコトですかねっ?


 一瞬だけ魔王だった頃のラーフィアちゃんが思い浮かんだけど、当然、別の魔王ってコトですよ。

 歌姫さんの声を奪うなんて、なかなかにワルい魔王ですよ!


「その魔王は、とある野望を抱いておるようなのじゃ」


 とある野望?

 そう言えば、ラーフィアちゃんも魔王だった時に野望を持ってたっけ。


「とある野望って何ですか?」


「アイドルになりたいそうじゃ」


 なんじゃいそれ。

 他人のキレイな声を奪ってアイドルになりたいなんて、なんてワガママな魔王なんだっ。


 むむむ、これはっ!

 妄想勇者コウダヒカリの出番だったりするのかなっ!?


「その魔王って強いんですかっ?」


「魔王だった頃のラーフィア君と同じか、それ以上かのう」


 マジですか、そーですか。

 だったら相当強いじゃないですか。


 魔王だったラーフィアちゃんとは直接的には戦ってないんだけど……

 うおお、甦りますよイマワシキ記憶がっ。

 コヒカリ君丸出しで放置されたイマワシキ記憶がっっ。


 んっ?

 フィルフィーの女神スキルって『再生』のハズだよな……

 それでお母さんの声を再生してあげたら、めっちゃ親孝行じゃないのかなっ?

 

「あのっ、フィルフィーがポプラールさんの声を再生、って出来ないんですか?」


「残念ながら、それは出来んのじゃ。何せ身内じゃからのう。女神ポイント目当てでは無いのかと疑われてしまうんじゃ。

 もしそんなコトをしたら、女神の資格を事務所から剥奪されてしまうのじゃ」


「そうなんですかっ!?」


 厳しいっ!

 厳しいですよ女神事務所っ!

 人助けなのに、身内だからってスキル使っちゃいけないのかっ。


「『女神たる者、自己利益の為にスキルを使うべからず』という規約があるんじゃよ」


 利益って、そんな。

 うむむ、そーですか。

 フィルフィーの力は使えないのか。


「他に『再生』スキル持ってる女神様っていないんですか?」


「いるにはいるんじゃがな。遠い所におるから、なかなかこっちに手が回らんのじゃよ」


 むむむっ! それならばっ!


 神様店長とフィルフィーに、日頃の恩返しの意味を込めてっ!


 妄想勇者コウダヒカリがっ!


 魔王をこらしめてあげちゃおっかなー、なんて思ってみたり、みなかったり!


「ちなみに、もし魔王を倒せたら、勇者ポイントとして80万ポイントが贈与されるらしいぞい」


「えっっ!?」


 ははっ、はちじゅうまんっ!


 俺のバイト代を砂場の砂山だとすると、はちじゅうまんなんて、雲を突き抜ける高さのおっきな山ですよっ!


「すっ、スゴいポイントですねっ」


「まあ、相手が弱っちいモンスターならポイントも少ないじゃろうが、なんせ魔王じゃからのう。はいりすく、はいりたーんてヤツじゃな」


「え。ハイリスク、って。負けたらどうなるんデスカっ?」


「そりゃあ、死んじゃうんじゃないかのう?

 ほっほっほっ」


 ほっほっほって、おいっ!神様店長っ!

 なんでそんなかるーく言えるんデスカネっ!

 勇者が魔王と戦うって、やっぱり命懸けってコトなのかっ。

 ラーフィアちゃんは知り合い、というかカノジョだから殺し合いなんて事にはならなかったけど。


 命懸けの戦いかあ。

 でも、なんとかしてあげたいって思うのが『勇者』ってモノですよ!


 パタパタっと手話で何かを伝えるポプラールさん。

 フィルフィーがすかさず通訳してくれましたよ。


「あん? 今日はおめでたい結婚式だから暗い話はやめましょう、だってさ」


「えっ、あっ、そうデスネっ」


 娘の結婚式で歌えないどころか、祝いの言葉もかけてあげられないなんてツラいハズなのに。

 良いヒトですよ、ポプラールさんっ。


「まあ、かーちゃんの言うとおりだぜヒカリっ。詳しい話はまた後にするかっ。まずは披露宴だぜ、披露宴っ!暴れさせろやあっ!」


 またコレかっ。ウルサイですよヤンキー女神っ。

 披露宴で暴れちゃダメでしょーがっ。

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