ラーフィアへの想い〖レイル視点〗

 Side ◇ レイル=フォレスター ◇



 みんなでランチタイムの後、ペリメール様達は笑顔でお帰りになられた。


「今度オマエらに合う時が楽しみだなっ!」


 ヤンキーみたいな女神、フィルフィーマート様がニヤニヤしてたのがちょっと気になる。



 更生プログラムをこなしシャワーを浴びて、三人部屋に戻ってからも頭の中からペリメール様の言葉が消える事はなかった。



『女神になる気はございませんか?』



 突然そんな事を言われても……


 恋愛の女神であるペリメール様から、手渡しで恋愛成就の御守りを頂けるなんて……夢にも思っていなかった。


 美しいお方だった。

 足首にかかるほどに長い銀髪、翠色の瞳。

 煌光神衣グリスタードレスが良くお似合いで、とても素敵だった。


 どうしてヤンキーみたいな女神様と結婚したのかは謎だけど、ペリメール様が選んだお方なのだから間違いはないんだろう。

 たぶん。


 女神……


 大鉈を振り回して暴れ回るしか能の無い私が、女神になんてなれるんだろうか?


 あんな素敵なドレスを着る資格が、私にあるんだろうか?


 もし、女神になれたら、スズキ君に振り向いてもらえるのかな……


 ラーフィア様は、これからどうするおつもりなんだろう……?



 窓の外は夜。


 何の飾り気も無い殺風景な部屋。

 快適とは言い難いけど、さほど苦にはならない。


 ラーフィア様は、ベッドに腰かけて何か考え事をしているみたいだった。



「隣に座ってもよろしいですか?ラーフィア様」


「えっ? うん、いいよっ」


「あー、ズルいなぁ。じゃあリアちゃんもー♪」


 何がズルいのかよくわからないけど、縦に大きい私と横に大きいフェイリアとで、ラーフィア様を挟む形になってしまった。


 私達に比べればラーフィア様は小柄だから、とても窮屈そうだ。


「ラーフィア様サンドですねぇ♪」


「あのねえ、二人ともっ!ちょっと狭いんですけどっ!?」


 ラーフィア様は文句は言うけど、嫌がる素振りは見せない。むしろ嬉しそう。


 やっぱり、優しいお方だな……



「ペリメール様のサンドイッチ、美味しかったですね。ラーフィア様」


「当然でしょっ。私の自慢のお姉ちゃんなんだから。従姉妹だけどねっ」


 ペリメール様のお話をする時のラーフィア様は、いつも笑顔だ。

 あのちんちくりんと一緒にいる時も笑顔が多かったかな?

 

「ペリメール様が仰った事……どう思われますか……?」


「……私は、大魔王様から直接『魔王失格』って言われちゃったから……感情のままに真っ直ぐに突っ走るだけじゃダメなんだって、わかったの。

 お姉ちゃんが思いつきとかデタラメであんな事を言うワケない。

 だから……女神を目指してみるのも、悪くないのかもね」


「そう、ですか……フェイリアはどう思ってる?女神になりたいか?」


「リアちゃんは尻軽って言われちゃったからぁ♡ 愛の女神を目指してみてもいいかなあ、って♪」


 尻軽とは褒め言葉じゃないぞ、フェイリア。

 あと、クネクネするな。

 ラーフィア様の肘がオマエのでっかい乳に埋もれてるぞ。


「そうか……多くの愛をばらまけるという点では女神向きかも知れないな、フェイリア」


「レイルちゃーん?ばらまくって言い方はちょっと違うよぉ?」


 フェイリアは子供みたいにプクーと頬を膨らませた。


 こうして三人で話している時間は楽しい。


 大切なトモダチとの時間。


 トモダチだなんて、ラーフィア様に対して失礼かも知れないけれど。



「あのね……私のワガママに付き合ってもらって、二人には感謝してるの。だから、巻き込んじゃって……ごめんなさい」


 ラーフィア様はそう言って深々と頭を下げた。

 サラサラの銀髪が流れて細いうなじが見えるくらいに。

 

「なっ!? ラーフィア様っ!?」


「巻き込んだなんてぇ……それは違いますよぅ、ラーフィア様ぁ」


 私は目頭が熱くなった。

 フェイリアも今にも泣き出しそうだ。

 

「リアちゃん達は、自分の考えでラーフィア様についていったんですよぉ?」


「そうです!フェイリアの言う通りです!

 私はっ、私達はっ!

 自らの意志でラーフィア様の盾となったんです!」


「レイル……フェイリア……」


 

「ラーフィア様と一緒に活動した事には一片の後悔もありません!断言出来ます!」


「ラーフィア様がぁ、魔王の権力とかで理不尽な命令を出した事なんて、一度もなかったですよねぇ?」


「……そう、だったかな……」


「私は、レイル=フォレスターは。一人の人間としてラーフィア様を尊敬しています。

 ですから!

 ラーフィア様が謝る必要なんて、無いんです……っ!」


「リアちゃんも同じ気持ちですよぉ?

 大好きですよ、ラーフィア様ぁ……」


「……ありがとう……レイル……フェイリア……」



 ラーフィア様は涙ぐんでいた。


 美しい涙だった。



 私は、ラーフィア様と同じ道を歩きたい。


 いつか。

 歩む道は別れるのかも知れないけれど。


 ラーフィア様は、きっと女神になられる。


 私も、挑戦してみたい。


 だから、もう少しだけ……そのお側にいさせて頂けますか?



           ◇



 その夜は、狭いベッドに三人一緒に眠った。


 本当は規律違反なのかも知れないけれど、私達にお咎めはなかった。


 ただ、次の朝は身体中が痛かった。

 

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