失墜!魔王ラーフィア!
なななんとっ!?
魔王失格って言われちゃいましたよラーフィアちゃん!
ラーフィアちゃんはショックを隠せない様子で、手を小さく震わせながら浮遊刀を鞘に納めて。
「……何が……いけなかったのかな……」
かすれた声でぽそっと、小さく呟いた。
「ラーフィアちゃん……」
俺は、何て声をかけてあげたら?
何て言ってあげたらいいんだ……?
ラーフィアちゃんが『魔王になる』って熱く語ってくれた事は、今でもハッキリ覚えてる。
その夢を叶えたのに、失格なんて言われたら……!
「まったく、近頃の勇者と魔王は戦いに緊張感が無くてイカンのう。昔は昼夜問わずどっかんどっかん大暴れしたものなんじゃがな。
それはさておき。ラーフィア=リンデルよ。
お前に重大なコトを伝えねばならぬ」
重大なコト?
魔王失格を言い渡された上にまだ何か?
「ワシを含む10人による魔王組織委員会で検討した結果、満場一致でお前は『魔王不適合』との結論に至ったのじゃ」
「えっ……!?」
なんと10人満場一致で不適合判決!
失格な上に不適合までっ。
ずいぶんと厳しいですよ魔王組織委員会!
「つまり、オマエに与えた魔王の称号は剥奪するというコトじゃ。ラーフィア=リンデルよ」
「そん……なっ!大魔王様っ!」
「勇者も殺せぬ。オトコ達のアレをチュンしたその後の世界のビジョンも無い。
それではダメなのじゃ。
魔王デビューした当初の勢いだけは凄まじかったと認めよう」
快進撃と呼ばれて短期間で世のオトコ達を震えあがらせちゃってましたからねっ。
それでも魔王不適合って、やっぱり厳しいですよ魔王組織委員会!
「お前はまだまだ若い。進むべき道を見誤ってはならん。
ワシのようになりたく無ければな。
というワケで。あー、ほいっ」
「きゃあああっ!?」
大魔王サマの右手のひと振りでなななんとっ!
翼がっ!ラーフィアちゃんの漆黒の翼が!
六枚の翼が奪われちゃったっ!
「ラーフィア様っ!」
「ラーフィア様ぁっ!」
「ラーフィアちゃんっ!」
レイルさんとフェイリアちゃんが、ラーフィアちゃんを庇うように大魔王サマの前に立ちはだかる!
俺は動きたくても動けないっ!
「大魔王様っ、お止め下さいっ!」
「ラーフィア様にっヒドイ事しないでくださいぃ!」
「ふむ。お前達、大魔王に逆らうのじゃな?」
「そんなつもりはっ……」
「ありませんけどぉ……」
「お前達に然るべき処置を与える。それがワシの役目じゃからな」
大魔王サマが萎縮する三人の元に一歩踏み出したその時ですよ!
「なんだぁコレ。扉ぶっ壊れてるじゃん。おー、いたいた。なんだよ、人数増えてるなー。みんなでナニやってんだー?オマエら仲良しさんかー?」
壊れた扉を乗り越えて賑やかましく大広間にやって来たのは、ヤンキー女神フィルフィーマート!
「アレ?オマエ、大魔王じゃね?なんでこんなトコにいんの?」
なんと大魔王サマをオマエ呼ばわり!
フィルフィーを見た大魔王サマがしかめっ面してますよ!
どんだけ怖いもん無しなんですかね、フィルフィーはっ!
「それはこっちのセリフじゃフィルフィーマート。オマエこそ何故ここにおるんじゃっ?」
「ああん!?オマエにオマエって言われるスジアイはねえぞコラっ!」
大魔王サマを前にして、どこまでもブレませんよヤンキー女神!
「あらあら、皆様お揃いで、ですわっ」
フィルフィーの後に続いてペリメール様がっ。
ペリメール様の姿を見た大魔王サマの顔色が一瞬で、ぱあっと明るく変わりましたよっ?
「おおっ!?ペリメールちゃんっ?おお、おお、久しぶりじゃ。キレイになったのう」
しゅぱあっ!と素早くペリメール様の元へ移動する大魔王サマ!
ジジイなのになんて素早さなんですかっ!
「これはこれは、大魔王様。お久しゅうございます、ですわっ」
「いやはや、ホントにキレイになったのう、ペリメールちゃん。ツヤツヤ銀髪が石畳の床につきそうじゃないの。ちょっと触っても?」
すいっと大魔王サマの手が伸びてペリメール様の髪に触れそうになったその瞬間、イヤ刹那!
「いいワケねえだろエロ大魔王っ!」
どごっ!
「あいたあっ!」
ななななんとっ!
フィルフィーが大魔王のお尻を蹴っ飛ばしたっ!
なんて怖いもん知らずなんですかねっ。
「ごっ、ご老体にナニするんじゃフィルフィーマートっ!」
「やかましいわエロ大魔王っ!てめえみたいなエロクソ大魔王がペリ子に触ってイイわけねえだろっ!ペリ子はあたしのだからなっ!」
「えっ!?」
フィルフィーの言葉に驚くペリメール様!
でも、なんだか嬉しそうですよ!
「あっ、あたしの
言い直したよヤンキー女神。
これはどう見ても照れ隠し!
顔がちょっと赤くなっちゃってペリメール様の方を見れないですよ!
「あいたたた。いつまでたっても狂暴じゃなフィルフィーマートはっ。
あのう、ペリメールちゃんや。エルレフラン殿は、そなたの母上はお元気でらっしゃるのかなっ?」
「えっ?
あ、はいっ。おかげさまで、ですわっ。それはもうすこぶる元気に毎朝フルマラソンをこなしておりますですわっ」
毎朝フルマラソン!
どんだけタフなんだペリメール様のお母さんはっ。
大魔王サマと知り合いみたいだけど、どんなご関係なんですかねっ?
それはまあイイとして。
俺とカシマシ三人娘は静かに置いてけぼりですよ。
レイルさんとフェイリアちゃんは、魔王不適合と言い渡されてうなだれるラーフィアちゃんを慰めるようにして側に立ってる。
ラーフィアちゃんを慕う気持ちは本物なんだろうな……それは、とっても羨ましい。
でもですね。
あのですね。
俺、動けないまま放置なんですけど。
ラーフィアちゃんの吊し上げといい、大魔王サマの金縛りといい、俺ったら散々なんですけどっ!
「そんで?大魔王がナニしに来たんだよ?」
「え?ああ、そうそう。ラーフィア=リンデルに大事なコトを伝えに来たんじゃったわい」
さっき言った『魔王不適合』の件ですかね。
魔王不適合って、どうなるんだ?
大魔王サマが、フィルフィーに蹴っ飛ばされたお尻をさすりながら三人の元に歩み寄り。
「それでは達者でな、お前達。あー、ほいっ」
と右手を振るとなんとっ!
「「「きゃああああああっ!?」」」
ひゅわあっという音と共に開いた落とし穴にっ!
ラーフィアちゃん達が三人とも落っこちてったあっ!
漆黒の翼を奪われちゃったもんだから、自由落下するしかないヤツですよ!
「らっ、ラーフィアちゃあんっ!?だっ、大魔王サマっ、ラーフィアちゃん達っドコに行っちゃたんですかっ!?」
この落とし穴、どっかで見たコトあると思ったら俺も神様に落とされたヤツですよっ。
2回も経験してるからね!
まさか大魔王サマまでコレやるとはっ!
「更生施設じゃよ。魔王不適合となった者は皆そこに行くんじゃ。部下の二人もな。上司への情報隠しなどもっての他じゃわい」
情報隠しってオーバーな気がするけど。
あの二人は、ラーフィアちゃんの事を想って抗議文書を見せなかったんじゃないのかな……?
言い訳も聞かずに更生施設送りって、なかなかに無慈悲ですよ、さすが大魔王サマっ。
んっ?
更生施設……?
悪い子を更生……?
「……更生施設ってフィルフィーも行った方がいいんじゃないのっ?」
「ああん!?言ってくれるじゃねーかヒカリぃ?」
「ヒカリちゃんは面白いのう。ほっほっほっ」
「ほっほっほじゃねえっ!面白くねえわっ!」
どごっ!
「あいたあっ!」
またお尻を蹴っ飛ばされたよ大魔王サマっ!
いくら女神が中立の立場だと言っても、大魔王サマを蹴っ飛ばすなんて怖いもんナシだなフィルフィーはっ!
ある意味で無敵ですよ!
「あいたたた。もうちょっとジジイを
それには激しく同意ですよ大魔王サマっ。
フィルフィーは中立の女神のハズなのに、なんで大魔王サマより偉そうなんだっ!?
フィルフィー>大魔王>ラーフィアちゃん>俺。
っていう式が出来上がっちゃってますよ!
わかってたけど、最弱はやっぱり俺ですよー!
「そんなんじゃいつまでたっても嫁の貰い手がつかんぞい。じゃあのー」
「ウルセエわクソ大魔王っ!あたしは銀髪君とこに嫁にいくんだからなっ!」
「よよよよよよよよよよよよ嫁にっ!?」
フィルフィーのひと言でペリメール様がワタワタする中、大魔王サマはモクモク
大魔王サマがいなくなってからようやく金縛りから解放ですよ男の
結局なーんも出来なかった。
俺はいったいナニしに来たんですかねっ?
◇
◇
フィルフィーもペリメール様もラーフィアちゃんの事を想ってか、俺に気を使ってくれたのかはわからないけど。
帰りのバスの中では誰も口を開こうとしなかった。
流れる景色に目を移しても、ぼんやりと眺めてるだけで頭の中は空っぽだった。
ラーフィアちゃんと……
みんなで一緒に、ペリメール様の作ったお弁当食べたかったな……
アパートに帰ってから、ペリメール様が作ってくれたお弁当のサンドイッチを食べたんだけど。
俺の大好きなペリメール様特製カツサンド。
肉厚でジューシーで、特濃ソースが衣とパンに染み込んでて。
いつもなら、めちゃくちゃ美味しいのに。
でもその時は、なんだかとっても。
悲しい味がした。
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