ヒカリとラーフィア!

 はー。

 ラーフィアちゃんだ。

 ラーフィアちゃんがいる。

 俺の初めてのカノジョで。

 俺の初チューのお相手の。


 ラーフィアちゃんですよー。


 膝まで伸びたツヤサラ銀髪、オーシャンブルーの瞳。前髪にかかるくらいに長い睫毛。

 やっぱり身長伸びてるなー。前は俺よりちょっとだけ大きかっただけなのに、頭一つ分くらいの身長差が。

 キレイになってるし、やっぱカワイイし。


「……どうしたのヒカリちゃんっ、あんまりじーっと見られると恥ずかしいようっ」


 照れ臭そうにもじもじするラーフィアちゃん!

 やっぱKAWAEEEE!


「飲み物持ってくるから座って待っててねっ。あ、フィルフィーは立ってなさいよねっ」


「なんでだよ座らせろっ」

 

 ラーフィアちゃんはパタパタっと、隣の部屋に飲み物を取りに行きましたよ。

 やっぱり気の利くいいコですよー。


 ポンコツDランクとは言え勇者が魔王に会いに来たっていうのに、なんなんですかね、このほのぼの感。

 ラーフィアちゃんは、フィルフィーが『再生』スキルでギられた男達を助けてるってコトを知ってるハズなのに、それも何も言わないし。

 ラーフィアちゃんからは、俺のコヒカリ君をチュンしようなんて素振りはまったく感じられないんですけどっ?

 


 〖 ラーフィアの脳内思考 〗


 ヒカリちゃんっ!ヒカリちゃんだっ!ヒカリちゃんが来てくれたっ!

 ドキドキするっ!私っヘンじゃなかったかなっ?キョドってなかったかなっ?

 嬉しいっ!嬉しいようっ!

 お姉ちゃんはイイとして、なんでフィルフィーまでいるのかなっ?まあいいけどっ。

 

 ヒカリちゃんっ♡

 ヒカリちゃんっ♡ヒカリちゃんっ♡ヒカリちゃんっ♡ヒカリちゃんっ♡ヒカリちゃんっ♡ヒカリちゃんっ♡ヒカリちゃんっ♡ヒカリちゃんっ♡ヒカリちゃんっ♡ヒカリちゃんっ♡ヒカリちゃんっ♡ヒカリちゃんっ♡ヒカリちゃんっ♡ヒカリちゃんっ♡ヒカリちゃんっ♡


 髪伸ばしてるのは写真を見て知ってたけどヤバイ!似合い過ぎ!カワイイっ!実物はやっぱり全然違うようっ!

 相変わらずのぐるぐるメガネだけど……外されたらヤバいかもっ!

 あのうるうるキラキラの瞳にはホントに弱いからなあ……

 はああ、ヒカリちゃん♡

 どんなパンティー穿いてるのかなっ?

 エッチなのかなっ?カワイイのかなっ?

 気になるっ!気になるようっ!

 前にもらったのはズタボロになっちゃったから、ぜひぜひ新しいパンティーをっ!脱ぎたてのパンティーをっ!

 あとあとっ、間違いなくおっぱいおっきくなってるよねっ?何カップかなっ?触りたいようっ!

 はっ!その前にっ!

 ヒカリちゃんがオトコかどうか確かめないとっ!

 臭くてグロくてキモいアレが付いてるのかどうか確かめないとっ!

 あればあったでチュンするだけなんだけど。

 とにかくヒカリちゃんと二人きりになって。

 決着をっ!

 頑張るぞっ私っ!おー!

 


 少し経ってから、ラーフィアちゃんがティーセットを載せたトレイを持って戻ってきましたよ。

 なんて気の利く魔王なんですかねっ。


「お待たせっ。私特製のミルクティーですっ♪どうぞ、ヒカリちゃん、お姉ちゃんっ。フィルフィーは白湯さゆでいいよね?」


「なんっでだよ、お茶くらい飲ませろよっ」


「うっさいっ。冗談よっ」


 なんつってまあ、幼馴染みは仲良きでですよ。


 ふあー。良い香りのミルクティー。

 毒とか睡眠薬とか入ってたり……は、無いかな?

 湯気でぐるぐるメガネが曇っちゃうから外しますかね、と。


「はわわあああっ!?」


 ぐるぐるメガネを外した途端に、演技かなってくらいにめちゃめちゃ驚くラーフィアちゃん!

 え?なんでっ?


「ヒカっ!ヒカリちゃんっ!美少女っぷりが増し増しだようっ!突然ぐるぐるメガネを外すのはナシだようっ」


 真っ赤になって照れるラーフィアちゃん!

 え。そーなの?

 俺ってそんなに美少女度合いが増してるの?

 自分じゃわかんないからね!


「ヒカリ様は毎朝、健康に効く呼吸法をしておられるのですわっ。その効果が現れているのではないでしょうか?ですわっ」


「えっ?あの、ソウデスネっ。アハハー」


 それはですね、アレですよペリメール様。

 早朝の荒ぶり怒れるコヒカリ君を静ませる呼吸法なのですよー。

 これは笑ってごまかすしか無いヤツです!アハハ以外になんと言えばっ!?

 とりあえず、ぐるぐるメガネをかけ直しますよ。


 すると、ほっと一息ついて落ち着きを取り戻すラーフィアちゃん。

 うむむ、ラーフィアちゃんはそんなにも俺の眼に弱いんですかそーですか。

 クロジョの時もそうだったけど、これはっ!

 俺の目力メヂカラで戦いを回避できちゃうかもしれないっ?

 ラーフィアちゃんと戦わなくても済むかもしれないと、いう一筋の光明が見え隠れしちゃってるような、まあそんなカンジです!


「ヒカリちゃん、来てくれてありがとう。手紙、読んでくれたんだよね……なんか恥ずかしいな……」


 果たし状を送りつけておきながら恥ずかしいって、やっぱりラブレター的なアレだったりしたんですかねっ?

 なんかドキドキするのは、キレイになったラーフィアちゃんに久し振りに再会したからってだけじゃなくって『チュンされる恐怖』ってのもあるからですよ!


「お姉ちゃんはともかく、フィルフィーまで来るとは思ってなかったよ」


「ああん?チケットは3名まで有効って書いてあったからなっ。ついでだよついでっ」

 

「まあ、別にいーけどねっ。さてヒカリちゃん」


「はいっ?」


「来てくれたってコトは覚悟を決めてきたってコトだよね?

 でも、魔王の元に丸腰で来るなんて相当な自信があるんだね。それとも何か秘策でもあるのかなっ?」


 はあっ!そう言えばっ!

 俺、武器持ってない!

 武器どころかお弁当持ってきちゃったからねっ。ペリメール様お手製のねっ。

 

「そういや丸腰だったなー。ヒカリぃ、竹刀貸してやろうかー?」


 なぬっ!?魔王と竹刀で戦えとっ?


「あ、木刀の方がよかったかっ。なんならメリケンサックもあるぞ?」


 長い髪の毛の間からずるーりと竹刀と木刀を取り出すフィルフィー!

 どうなってるんだっ?便利なアイテムバッグみたいですよっ!

 でも、なんでそんなヤンキーマンガみたいな凶器がホイホイ出てくるんですかね?

 あ。ヤンキーだからか。


「フィルフィーって、いつもそんなの持ち歩いてるのっ?」


「ったりめーだろっ。ヤンキーの必需品マストアイテムだからなっ!」


 なんだ、やっぱりそーですか。

 だがしかし!

 ヤンキーだからって凶器持ち歩いていいってコトにはならないぞっ。

 

「……そんなので魔王の私と戦うっていうの?」

 

 はあっ!ラーフィアちゃんの言うとおりっ!

 竹刀と木刀で魔王と戦えとっ!?イヤイヤ!無理ゲー過ぎるでしょ!

 戦う準備もナニもないまま来ちゃったからね!ぶっちゃけノープランですよ!

 ここはっ!ぜひぜひ話し合いでっ!

 勇者にはなったけど、魔王と戦えるほどの強さなんて無いですからねっ!


「あ、コレ、魔剣だからヒカリならひょいひょいっと扱えるんじゃねーかな?」


 なぬっ!?魔剣っ!?竹刀と木刀がっ!?


魔法剣術師マジックソーディアンのスキルの使いどころじゃねーか。コレでラフィーをボッコボコにしてやれよっ!」


 竹刀と木刀で魔王をボッコボコ!

 そんなコト出来るのかっ?


「魔剣っつっても、安もんの竹刀と木刀だからなー。ヒカリが返り討ちに遭うのが目に見えるよな!笑えるわー!」


 笑えるかっ!

 竹刀と木刀で魔王に挑むおバカさんなんて、どこの世界にもいないでしょーがっ。

 ここはなんとか!

 戦闘回避しないとっ!

 ギられる方向に向かってるベクトルをねじ曲げないとおっ!


 よし、ここはっ!

 ラーフィアちゃんは俺の目に弱いってトコロにつけこんでみようじゃないですか!

 ギられない為には手段を選んでなんていられません!

 しゅぱっ!と、ぐるぐるメガネを外して、うるうるキラキラの瞳でラーフィアちゃんに懇願です!

 

「あのっ!ラーフィアちゃんっ!ボクはっ!ラーフィアちゃんと戦いたくなんて無いようっ」


「ヒカっ!ヒカリちゃんっ!ぐるぐるメガネは外さないで下さいっ!魔王からのお願いですっ!」


 なんとっ!魔王にお願いされちゃった!

 これはっ!妄想勇者が戦わずして魔王に勝てちゃうのではっ!?


「じゃないと、私の代わりにレイルに戦ってもらうコトになっちゃうんだよっ?」


 なぬっ!?レイルさんにっ!?

 それはヤバいっ!ヤバすぎるっ!

 ボッコボコにされるどころか、小さく折り畳まれて粗大ゴミに出されてしまうぞ男のっ!

 

 言われるままにぐるぐるメガネをかけ直す俺っ。

 どうせボコられるなら、ラーフィアちゃんの方がいいですからねっ。

 ボコられるのが確定してるってのが情けないですけどもね!


「はー、びっくりしたっ。ぐるぐるメガネを外す時は一言声をかけてからにしてね、ヒカリちゃんっ」


「えっ?あ。はい……」


 なんなんですかね、コレ。

 ぐるぐるメガネを外すだけなのに申請しなきゃダメって!


 ◇ 無許可では

    メガネを外せぬ

     男の ◇  ヒカリ 


「私と戦いたくないって、だから何の武器も持たずに来たっていうの?勇者としては失格だよ、ヒカリちゃんっ。それとも、私と素手でやるつもり?

 はっ!もしかしてっ!

 素手で私のあんなトコロやそんなトコロや、ありとあらゆるいろんなトコロをまさぐる気なのかなっ?」


「えっ!?」


 そんなコト言ってないし、思ってもないですよラーフィアちゃん!


「それはそれでアリかもしれないよね……」


 ラーフィアちゃんっ!?

 戦いの方向性がズレちゃってませんかねっ!?


「まあ、ここはヒカリとラフィーの二人にさせてやった方が良さそうだなっ!じゃあ、あたしとペリ子はどっかその辺ぷらぷらしてくるかなー。行こうぜ、ペリ子っ♪」


「えっ♪♪ でも……っ、ヒカリ様っ、大丈夫ですかっ?ですわっ」


 俺を心配してくれるのはいいけど、フィルフィーと二人きりになれるコトの方が嬉しそうですよペリメール様っ。


「がっ!がんばりましゅっ!」


 ナニを頑張るのかわかんないけど、こういう時は頑張りますとしか言えませんよねっ!『しゅっ』なんつって噛んじゃったけど!

 

 フィルフィーとペリメール様はここで退室ですよ。

 勇者と魔王の戦いがっ!

 始まっちゃうかもしれなかったりしなかったり!


「ラフィーさんっ!くれぐれも穏やかに穏便にっ、ですわっ」


「わかってるよ、お姉ちゃん!これは、私とヒカリちゃんの……勇者と魔王の問題なんだからっ!」


 ラーフィアちゃんの目は真剣です!

 緊迫感と緊張感が高まりますよ!


「あっ、そうそう。なあ、ラフィー!ペリ子が弁当作ってくれたからさー、後で一緒に食べようぜっ!」


 いきなり何を言い出すんじゃい、フィルフィーはっ!

 今までの張り詰めた空気をブチ壊してくれちゃいましたよっ!


「えっ?お姉ちゃんの……お弁当?」


 ラーフィアちゃんっ?

 お弁当に食いついちゃったっ。お腹空いてるのかなっ?


「ペリ子が早起きして作ってくれたんだよっ。この四人でメシ食うのって初めてじゃねーかあ?楽しみだなっ!じゃあまた後でなー!」


 なんつって手を振りながら出てっちゃいましたよ、二人とも!

 何て言うかフィルフィーは自由だなー。緊迫感のかけらもないぞフリーダム女神っ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る