ヒカリっ、着けまあす!

 ここは密室。

 試着室。

 女性用下着売場の試着室!


 ここで俺は!ラーフィアちゃんに追い詰められちゃってマス!


「ちょっ!ラーフィアちゃんっ!?」


 なんかえっちなスイッチ入っちゃったっ!? 

 狭い試着室の中だから逃げ場なんてドコにも無い!それどころか隅っこに追いやられて、全く動けないっ!

 

 なんか、ラーフィアちゃんの俺を見る目が艶っぽい!そして鋭いっ!

 完全にエモノを捕らえた魔獣の魔眼のようですよ!魔獣の魔眼なんて見たコト無いからわかんないけど、まあそんなカンジです!

 身体をぴったり密着させてるから、お顔がちこうございますよラーフィアちゃんっ!


「ヒカーリちゃんっ♡」

「はいっ!?」

 

「さっきのアレ、キュンキュンしちゃった♡」

「えっ、あ、ふわあああ」


 ラーフィアちゃんのカワイイ人差し指が俺の唇に優しく触れる。

 下唇から上唇へ、つつつっと指でなぞられるとくすぐったいっ。ぞわぞわするうっ。


「……ヒ、カ、リ、ちゃんっ♡」

「はいっ!ヒカリですよっラーフィアちゃんっ?」


 俺のオパイをツンツン突っつくラーフィアちゃんの目が!

 とろんとしてますよー!


「ヒカリちゃん、Cカップなんだねー」

「えっ、そうみたい、デスネっ」


「じゃあ、いただきます♡」


 じゃあ、ってナニ!?


 ラーフィアちゃんのスベスベなやらかい右手がっ!

 俺のスポーツブラの中にっ!下からするっと滑り込んできたあっ!



 ◇ ラーフィアの脳内思考 ◇


 ヒカリちゃんのおっぱいっ!ヒカリちゃんのおっぱいっ!

 ヒカリちゃんのおっぱいに触ったっ!

 手のひらにしっとり吸い付くようでふわふわでスベスベでっ!

 ヤバいっ!これはヤバいやつ!

 恥じらいながら声を殺して困り眉!

 ああもうなんてカワイイのヒカリちゃんっ!

 ヒカリちゃんっ♡

 ヒカリちゃん♡ヒカリちゃん♡ヒカリちゃん♡ヒカリちゃん♡ヒカリちゃん♡ヒカリちゃん♡ヒカリちゃん♡ヒカリちゃん♡ヒカリちゃん♡ヒカリちゃん♡ヒカリちゃん♡ヒカリちゃん♡ヒカリちゃん♡ヒカリちゃん♡ヒカリちゃん♡ヒカリちゃん♡ヒカリちゃん♡ヒカリちゃん♡ヒカリちゃん♡ヒカリちゃん♡ヒカリちゃん♡ヒカリちゃん♡ヒカリちゃん♡ヒカリちゃん♡ヒカリちゃん♡ヒカリちゃん♡ヒカリちゃん♡ヒカリちゃん♡ヒカリちゃん♡ヒカリちゃん♡ヒカリちゃん♡ヒカリちゃんっ♡♡♡♡♡

 ヒカリちゃああんっ♡♡♡

 今ぐるぐるメガネを外しちゃったりなんかしたら!

 私は間違いなくヒカリちゃんを押し倒す!!



 ラーフィアちゃんっ!?

 らっ!ラーフィアちゃんの触れ方がテクニシャン過ぎる!

 胸のぽっちに触れるか触れないか、人差し指と中指の間で挟むか挟まないかの絶妙なタッチ!

 柔らかいタッチでピアノ弾くみたいににょろにょろと動く指先!ピアノ弾いたコトないからよくわかんないけど、まあそんなカンジです!

 男みたいに、欲望のままにわしわしムニムニ揉んだりしないんですよ!

 何このふわっと感!


 ◇ 試着室

    オパイを揉まれる

     男の  ◇ ヒカリ


 イヤ違うっ!これはっ!

 

 YABEEEE!


「まっ、待って待ってっ、ラーフィアちゃんっ!」


 俺の必死さが伝わったのか、ラーフィアちゃんのふにふにタッチがピタッと止まった。


 ほっ。


 ヤバかったっ。『コヒカリ君』が『おっ!?ヒカリ君!?』になる直前でしたよっ!


「あ……ごめんねヒカリちゃん……イヤだった?」


「あっえっ、イヤじゃない、というかっ!?でもっ、あの、さすがにっ!試着室ではっ!」


 モジモジごにょごにょと何言ってんだ俺っ!

 ビシッと言わないとっ!

 ビシッと言わないとおっ!


「……あにょっ、店員さんが近くにいるから……バレたら恥ずかしいよう」


 って情けなく半ベソですよ!どんだけおぼこいんだ、俺っ!


「あ……ゴメンねっ!?ついっ。あの、密室の魔力っていうか、ね?でも、ね、ヒカリちゃん」


「……うん?」


「私はこういうつもりだから。私は、止まれない性格だから……」


「ラーフィアちゃん……」


「と言うコトで!ブラジャー試着してみよう!ねっ!?ねっ!?パンティーも!ねっ!?ねっ!?」


 と言うコトで、ってナニがっ?

 ラーフィアちゃんっ?一瞬おとなしくなったと思ったら結局ノリノリなんですけどっ!?

 めっちゃテンション高いんですけどー!


「私はコレがイイと思うのっ!フリフリのヒラヒラ!カワイーよねー♡」


 いつの間に持ってきたのっ!?

 ラーフィアちゃんの手には色とりどりのおパンツが!

 レースとか?フリルとか?ちっちゃいリボンとか?

 なんで女の子のおパンツってそんな無機能な飾りが多いんデスカっ?

 

「さあ穿こう!今すぐ穿こう!そして私に見せてみよう!ヒカリちゃんのカワイイ下着姿をこの目に焼き付けて脳内保存するから!ねっ!?」

 

 なんかテンション上がり過ぎですよマジですかラーフィアちゃんっ!

 キラっキラの笑顔でカワイイおパンツを薦めるラーフィアちゃんの真っ直ぐな曇り無きマナコに、俺はもうたじたじですよ!

 これはっ!やんなきゃ終わらないヤツっぽい!仕方がないから、着けますよ穿きますよ順番にぃっ!

 狭い試着室の中で、男のの下着ファッションショーですよ!

 

「まずはコレ!やっぱり上下は揃えないと、ね!」


 至ってシンプルなデザインのストライプ模様。これならギリ、イケます!たぶん!


「次はコレ!ふわふわフリルがカワイイよねー♡」


 幾重にも重ねられたフリルが前にも後ろにもっ。水着のようで水着じゃないおパンツですよ!でもそれ、お値段がお高いですよっ!


「それからそれからっ!コレ!」

 

 ってナンですかそれ!三角の布切れにヒモが付いてるだけっ!それはっ!俺の知るおパンツでは無いっ。

 断じて!おパンツでは無いっ!

 コヒカリ君でさえはみ出しちゃうヤツですよ!つーか、オンナのコが穿くとタイヘンナコトになっちゃうのではっ!?


「どれもイイっ!カワイイっ!どれからにするっ?あとねー!ヒカリちゃんとお揃いのが欲しいんだけどねっどんなのがイイかなあ?」


 なぬっ!お揃い、ですとっ!?

 シュシュとかTシャツとかハンカチとか靴下とかじゃなくていきなり『お揃いの下着』なのっ!?

 それって正しい選択肢なんデスカっ?


「ヒカリちゃんはどんなのが好きなのっ?」


 え!?俺の好みデスカっ?男ののこの俺におパンツの好みを訊きますかっ?

 なんかわかんないからもう、こう答えるしかないですよ!


「えっとっ、『ふつう』、かなっ?」


 万人受けする誰でも使える便利な答え!

『ふつう』!どノーマル!

 これが最善のベステストチョイスですよー!


 あ、ベステストっていうのはね、グッド、ベター、ベスト、ベスター、ベステストの5段階の内の最上級のコトですよ。


 BESTのさらに上!BESTEST!

 

「ヒカリちゃん……そうなの?」

「はいっ?」


「えっちなのって言ったよねっ?」

「えっ!?」


「えっちなパンティーいっぱい持ってるって言ったよねっ?」


 言ってない!どこでどうしてそうなったんですかラーフィアちゃん!?


「見たいなー♡」

「えっ!?何をかなっ?」


「ヒカリちゃんの下着姿、見たいなー、みたいな?」


 左右にこくん、こくんっ、と首を傾げるとサラサラの銀髪がゆらゆら揺れますよラーフィアちゃん!

 たっとしっ!たっとし銀髪ですよ!


 女の子同士で下着買いに来るのはアリとして、それを見せ合ったりするもんなんデスカっ?

 これは男同士ではあり得ない感覚!


「どうよ!俺のブリーフ姿!イケてね?」

「アリアリ!全然イイよ、それ!」


 なんて会話、絶対あり得ない!例えがブリーフってゆーのがアレですけども!

 ブリーフ試着なんて出来るか知らないけどっ!


「ラーフィアちゃんっ、そんなに何枚も試着って出来ないんじゃないっ?『試着はお一人様3セットまで』って張り紙がっ!」


「ん?あ、ホントだ。うーん、残念っ!ヒカリちゃんなら、お店の全部だってイケるのにっ」


 全部ってラーフィアちゃん!さすがにそんな時間は無いデスヨっ!

 とりあえずストライプのヤツから着けてみよう!もうコレでいいようなもんなんだけど、やんなきゃ終わらないからねっ!

 決して!ブラジャー着けるの楽しみとかじゃないんだからねっ!


「あのっ、恥ずかしいから後ろ向いてて、ねっ?ねっ?」

「うんっ♡」


 外に出てと言えない空気に負けてそう言うと、ニコニコ笑顔で頷くラーフィアちゃん。

 笑顔は天使なのに、やってる事は小悪魔ですよっ。

 

 もう後には退けない!やるしかない!

 男のの初ブラジャー!

 ヒカリっ、着けまあす!

 ところが!


「んっ、ん?あれっ?」


 ブラジャー着けるのなんて初めてだから、後ろ手にホックを留められない!なんだコレ!?

 はっ!そうか!

 これが煩わしくて『フロントホック』なる神なる発明品が誕生したのかっ!

 なるほどー。勉強になります!


 イヤ違うっ!


 コレ、どうやって着けるんだっ?


「ヒカリちゃん、意外と不器用だねー。私が着けてあげるよー♪」


「あ、うん、ありがと……ってラーフィアちゃん!?なんでコッチ向いてるのっ!?」


「えー?だって見たかったんだもんっ」


 うおお、なんて小悪魔なんですかラーフィアちゃん!そんな上目遣いは反則ですよ!


「こうやるんだよっ、ハイ!」


 まばたきを2回する間にホックを留めちゃうラーフィアちゃん。

 おおー、なるほどそうするのか。

 

「胸の前であらかじめ留めておいてから背中に回す、って方法もあるけど、それって女の子的にカワイクないよねえ?」


 ふむふむ、そういうやり方もあるんだな。

 それはそれで時短になって良いのでは?後ろ手でモタモタしてるのって体勢的にキツいからね!


「肩のストラップ長さ調整して、カップにおっぱい馴染ませればオッケーだよ♪つけ心地とかどう?キツくないかなっ?」


 つけ心地、ですとっ?

 なんか、こう、なんて言うか、こう……


 最高ですっ。


 スポブラとはまた違う、優しく包み込まれるような安心感!今までフリーにしてたプラプラ感覚が、きゅっと引き締められるようなフィット感!

 ん?

 コレって男の股間の双子ツインズをおとなしくさせるボクサーパンツの感覚に似てる?

 イヤ全く別物なんだけど、プラプラを抑えるという意味では似てると思いますよ!


 俺っ、また一つ大人の階段昇っちゃったっ!?


 が、しかし!

 ぶらじゃー……女性専用の神器に手を出してしまった男のに、如何なる神罰が下されるのか見当も付きませぬっ!


「ヒカリちゃん?」

「はっ!あ、うん、あの、コレで大丈夫デス!ばっちりデス!」

 

「パンティーはともかく、ブラジャーは自分の身体に合ったものを着けないとね♪試着って大事だよねー。楽しいし!」


 なぬっ?試着が楽しい、ですとっ?

 なるほどそうなんですね、女の子にとって下着の試着って立派なイベントの一つなんですねっ!

 勉強になります!


 男物のパンツなんて、ワゴンセールのヤツ掴んで終わりだからね!選んでから買い終えるまでの所要時間は数十秒!

 それに対して!


「じゃあ、次はこのフリフリひらひら!コレいってみようヒカリちゃん!」


「えっ?あっ、うんっ?」


 まだまだ続くみたいですよブラジャー試着!


 軽く20分は着けたり外したりしてますよ、男ののこの俺が!

 今の俺は見た目カワイイ女の子だから、まだ許されるのかも知れないけれどっ!


 ランジェリーショップの試着室で!

 男ののこの俺が!

 女性用下着を吟味してますよー!

 

 変態!変態への道っ!

 ヘンっ!タイっ!街道まっしぐらっ!


 ぬおおおっ!

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