加速する!俺の物語!

ラーフィアの野望


 今日も一日頑張りました。


 ザコレベルB班はプールでもザコザコでしたよ。いいザコっぷりでしたよー!


 午前の神様校長先生の特別授業は地獄だったけど、午後の勇者育成プログラムの水泳は、ある意味天国でした!

 散々引きずり回されて溺れかけたりもしたけど、俺、サトナカ教官の元でザコでよかったっす。

 サトナカ教官の元でなら、俺、ザコでいられるっす。


 じゃなくてだな。


 フィルフィーを昇格させて俺のこの姿をリセットしてもらう、っていう本筋からかけ離れてるような気がするんですけどっ。

 うむむ。今の俺には現状維持するコトしか出来ないのかなー。だったら、せっかく転生したんだからこの異世界を楽しまないとね!

 

 明日は土曜日。この世界に来てから初の休日!

 ゴロゴロ寝てようかな?どこかにウロウロ出かけようかな?なんて考える時間もちょっと楽しかったりするんだな。

 フィルフィーとペリメール様は明日は何をしてるのかな?お出かけしませんか?って誘ってみようかなー。

 ペリメール様を。


 だっさい緑ジャージを部屋着にしてるから、部屋着でも買いに行こうかな?あ、でもお金無い。うむむ。


 ◇ 異世界で

    無一文の

     男の ◇ ヒカリ


 なんつって。


 ペリメール様は寝巻きを着て窓辺で静かに読書中。月明かりが銀色の髪を照らしててめっちゃキレイですよー。

 女神様が窓辺で読書ってだけで絵になりますよ!今夜もステキですよペリメール様っ。


 フィルフィーは俺のベッドに仰向けになってマンガ読んでる。これは読書と言えるのか?

 上着は赤ジャージ。下はおパンツ丸出しで。

 らしいと言えばらしいですけどもね!恥じらいってものを持って欲しいものですよ、まったくもー!


 あ、そうそう。ちょっと疑問に思ってたコトがあったから、今のうちにフィルフィーに聞いておこうかな。


「あのさ、フィルフィー。フィルフィーって魔王育成コースにいるでしょ?魔王育成コースってどんなコトしてるの?」


「あー?メンチの切り方、タンカの切り方、かっけー口上の言い方、ケンカの先手必勝法とかレンシューしてるぞ」


 それ、魔王じゃなくてヤンキーじゃないですかね?そんなんで魔王が育つのかな?だったらとっくにフィルフィーは魔王ですよ!


 いつの間にかフィルフィーとはタメ口で喋ってるんだけど、フィルフィーは特に何も言わない。

 この辺は寛大というかアバウトと言うか。フレンドリーって受け止めてもいいのかな?


「じゃあ、ラーフィアちゃんもそういうプログラムこなしてるんだねー」


「あーん?ラーフィア?そんなヤツいねーぞ。ん?ラーフィア?……ラフィー?ハナタレガン泣きラフィーのコトか?なんだ、アイツ、クロジョの生徒だったのか?」


 え?ラーフィアちゃんがいない?なんでいないんだ?魔王育成コースって10人しかいなくって、班分けも無いってサトナカ先生が言ってたような。

 あと、ハナタレ?ガン泣き?ってなんだろ?


「フィルフィーさんっ!ラフィーさんのコトを変なあだ名でお呼びになるのはおよしなさいなっ、ですわっ」


 おっと、ペリメール様がちょっとご立腹ですよ。なんでかな?

 母方が双子なだけあってやっぱり似てますよ、ペリメール様とラーフィアちゃん。

 ラーフィアちゃんも何年か後には、ペリメール様みたいなナイスボディーのキレイなお姉さんになるのかなー。


「あー?いーだろ、別にー。悪口でもねーんだし」


「れっきとした悪口ですわっ。特に!本人の前で言ってはいけませぬ!ですわっ」


「へいへい。ヒカリはなんでラフィーのコト知ってるんだ?」


「えっ、ちょっとしたきっかけで友達になったんだよ。スゴくいいコなのに……なんで魔王育成コースにいるのかな?って思って」


 と、ちらっとペリメール様を見ると。

 プイッと横むいちゃいましたよ、あまらさまにっ。

 絶対、何か知ってるよね。うむむ。

 ペリメール様が話したくないなら、あんまり突っ込まない方がいいのかなー。

 それなら違う話を聞いてみようっ。


「ペリメール様は女神育成コースの講師をなさってるんですよね?どんなコトしてるんですか?」


「私達は毎日、お瞑想して精神力を高めたり、お座禅して精神力を高めたり、お滝行で精神力を高めたりしてますわ、ですわっ。気合いと精神力は女神に最も重要なコトなのですから、ですわっ」


 何にでも『お』を付ければいいってもんじゃ無いですよ、ペリメール様っ。

 女神育成コースもなかなかに過酷みたいだなー。


 なんてコトを思ってたら。


 ピンポンパンポーン♪と寮内放送の呼び出し音。スピーカーから流れて来たのはエフレフさんの声。


『1年のコウダヒカリ。面会人だ。ロビーに降りて来るように』


 え、俺に面会人?誰だろう?もうじき夜の8時ですよ。


 とてとてっとロビーに降りて行くと、そこにはなんとっ。


「ラーフィアちゃんっ?」

「……こんばんわ、ヒカリちゃん」


 まさかのラーフィアちゃん!たった今ラーフィアちゃんの話をしてたトコロですよ!

 ラーフィアちゃんは、ピンクのパーカーに白の短パンっていうラフな私服、というより部屋着に近い格好。なんだか元気が無いみたいだけど、どうしたのかな?


「こんばんわっ。なんか、久しぶりだね!」


 と、ちょっとテンション上がる俺。

 火曜のランチ以来、学校で顔を見ないからどうしたのか気にはなってたんだけど。


「どうしてもヒカリちゃんの顔を見たくなっちゃって……ごめんね、すぐに帰るから、ねっ?あの……迷惑、かな……」


「そんなっ!迷惑なんかじゃないようっ。えっと……ペリメール様には会わなくていいの?」


「ううん、私が会いたかったのはヒカリちゃんだから……」


 ふるふると首を横に振るとサラサラの銀色の髪がゆらゆらと揺れますよ。

 おおう、マジですか。こんな時間にわざわざ俺に会いに来てくれたって言うんですかっ!

 めちゃめちゃ嬉しいんですけどっ!

 でもやっぱりなんか元気がないように見えますよラーフィアちゃん。


「あの、ちょっと待ってて、ラーフィアちゃん。寮母エフレフさんに外出してきますって言ってくるからっ」


 外出といっても寮の周りを散歩する程度なんだけど。寮の門限は20時だから、もうじき玄関の鍵をかけられてしまう。

 寮母エフレフさんに断りを入れておけば少々の遅れは許されるから、ここはラーフィアちゃんの為に!男をみせる時ですよ!

 見た目だけは美少女の男のだけどね!

     

           ◇


 月がキレイな夜ですよ。

 ぐるぐるメガネ越しでも何も問題無くキレイに見えてます。

 俺のぐるぐるメガネは、外から見るとぐるぐるがジャマして俺の目は見えないけど、俺からの視界はめちゃめちゃクリアに見える優れものなのです。

 ペリメール様に感謝ですよ!


 この世界にも月はあるんだなー。この世界で月をしみじみ見るのは初めてかも。なーんか異世界感が薄いのは、元の世界によく似てるからかな。

 まだ剣とか魔法とかってのを見て無いから、尚更そう感じてしまうのかな。


 ラーフィアちゃんの銀色の髪が月光を受けて白銀に輝いている。

 いやー、ホントにキレイな銀髪ですよ。


 二人並んで歩いてると夜のデートっぽい!?俺は少なからずドキドキしてるんだけど、ラーフィアちゃんはうつむき加減でやっぱり元気が無い。

 うむむ。余計なコトは言わずにいた方がいいのかなっ?ちょっと話しかけてみようかなっ?


「ペリメール様とフィルフィーの原付レース、すごかったよね。ラーフィアちゃんも見てたの?」


「……ううん。見てない」

「えっ?そうなの?学校休んでたの?」


「うん。ちょっと、ね。用事があって」

「まさかの同着だったんだよー。スゴかったよー?あんなの滅多に無いコトだよっ」


「……ふーん。そうなんだ……」

「えーと……うん」


 終了。何故に?


 うむむ。16歳のオトメゴコロは謎ですよー!会いに来てくれたっていう割にはめっちゃテンション低いんですけどっ!

 ここは黙ってた方が良いのデスカっ!?


 二人の足音だけしか聞こえない月明かりの元、5分くらい二人並んで黙って歩いている内に不意にぽそっとラーフィアちゃんが呟いた。


「あのね……私、お母さんと進路のコトでケンカしちゃって……家を飛び出してきちゃったの」


「えっ!?」


 飛び出して、って家出のコトデスカっ?

 その割りには着のみ着のままってカンジだから、家出では無いのかなっ?


「こんな時間に?家の人、心配してるよ、きっと」


「こんなって……まだ夜の8時だよ?こんなのしょっちゅうだから心配はしてないと思う。だから……少しだけでいいから、ヒカリちゃんの顔を見たかったの」


 それはまあ嬉しいですけどもっ。夜の8時は女の子にはキケンな時間ではないのデスカっ?俺の考えって古いのっ?

 しょっちゅうって、ラーフィアちゃんグレ始めてるのっ?


「あの、進路のコト、って?」

「うん……あのね。私のお母さんはね。女神なの」


 え!?女神!?ラーフィアちゃんは女神の娘!?でもでもだって!ラーフィアちゃんは魔王育成コースのハズ!どゆことかなっ?


「正確には元、女神なんだけど。だから、私にも女神になって欲しかったみたい……でも、私が魔王育成コースに進んじゃったから……それでしょっちゅう言い合いになっちゃうの」


 それは、まあそうでしょうねっ。娘が勇者の敵たる魔王になるって言い出したら親はビックリするだろうねー。


「あの、ね。ラーフィアちゃんはどうして魔王になりたい、って思ったの?なにかきっかけがあったの?」


「きっかけ、ね……あれは……あれは忘れもしない、5歳の誕生日に……」


 二人で寮の周りに備え付けられてるベンチに並んで座ると、ふっと一瞬遠い目をして、ラーフィアちゃんが子供の頃の話をぽつりぽつりと話し始めた。

 

 魔王になりたいと願うきっかけが5歳の時にあった、って早いよね。


「5歳児ってね、女の子が芽生える年頃だと思わない?おしゃまさんていうか、ちょっと小憎こにくらしい可愛さがでてくるようなお年頃、みたいな感じ」


 うーん。なんとなくわかるような気がする。髪伸ばしてる子とか子供心に『女の子だなあ』って思ってたような覚えがある。

 男の子で髪伸ばしてるのもたまーにいるけど、それは親がそうさせてるパターンが多いんじゃないかな?


「お母さんが手作りのケーキ作ってくれて、子供ながらにちょっとおめかしして、お友達も何人か招待して皆でお祝いしてくれたの。楽しいお誕生会になるのに……」


 ラーフィアちゃんの表情がみるみる内に曇っていくのがわかる。

 これはっ!

 トラウマ的な何かヤバイエピソードを話そうとしているのではっ!?


「お母さんの兄が……叔父さんが来てたんだけど……お酒が好きな人で……飲み始めちゃって」


 ……ラーフィアちゃん?


「『そのまま酔っぱらってリビングのソファーで寝ちゃって……赤ら顔で……イビキまでかいて……』」


 ……ラーフィアちゃん?声が震えてますよっ?なんかイケボになってますよっ?


「『それで、ね、叔父さんが……叔父さんが寝ぼけて脱ぎ始めちゃって……』」


 なんとっ!脱ぎだした!ううむ。でもそれだけならなんともナイような?


「『上だけならまだしも、下まで脱いでっ!』」


 あっ。


 察しました。俺、察しましたよ、話のオチをっ。


「『コカンのっ!おぞましいアレをおおおっ!キモくてグロくて巨大なアレをおおおっ!私達の目の前にいいいいっ!私の5歳の誕生日にいぃぃっ!!さらけ出してっ、プロペラみたいに振り回してええええっ!』」


 見ちゃったんだねっ!たとえ故意じゃ無かったとしてもっ!

 楽しいお誕生会にっ!叔父さんのっ!

 御立派サマをっ!御立派かわかんないけどっ!

 そんなモノをプロペラみたいに振り回されたら、トラウマにもなりますよっ!


「ラーフィアちゃんっ!もういいからっ!わかったから!落ち着いてっ!ね?ね?」


 銀色のキレイな髪をくしゃくしゃに掻きむしって頭を抱えるラーフィアちゃんをどうにかして宥める。

 ラーフィアちゃんは肩で息をして、ちょっと涙目になってた。

 よっぽどショックだったんだろうなー……


「それで……私がスゴい勢いで泣いちゃって……鼻水までだらだら流してガン泣きだよ。当然、お誕生会は台無し。叔父さんはとりあえず謝ってはくれたけど、私は許せなかったし、今も許せてないの」


 フィルフィーが言ってた『ハナタレガン泣きラフィー』ってこのコトか……

 落ち着きを取り戻してはくれたけど、ラーフィアちゃんの息遣いが少し荒い。未だ興奮冷めやらぬって感じですよ。


「だから私は決意したの!こんな思いを他の子にもさせちゃいけない!って!」


 うんうん、熱いよラーフィアちゃん。俺なんかでよければ、思いの丈をぶっちゃけちゃって下さいよ!


「私には野望があるの!私の野望はね、ヒカリちゃん!」


 俺の手をきゅっと握って熱い眼差しを向けるラーフィアちゃん!


「『全ての男共のアレをちっちゃくする』コトなの!」


「……えっ!?」


 ラーフィアちゃん!?思考がぶっ飛び過ぎじゃないですかっ!?


「もう一度言うよヒカリちゃん!『全ての男共のアレをちっちゃくするコト』!それが!」


 熱い決意の光を宿すオーシャンブルーの瞳!


 ぐっ!と拳を月に掲げるラーフィアちゃん!


「魔王、ラーフィア=リンデルの野望なの!」


 野望の方向性が間違ってませんかラーフィアちゃん!

 魔王の野望が『男のアレをちっちゃくする』ってどうなの!?

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