特別講師による特別授業、ですじゃ

 それにしても、昨日の二人の女神の原付バトルはスゴかった。


 同着、勝敗無し。っていうまさかのドロー!写真判定でも1ミリ違わずピッタリの同着。


「白黒ハッキリさせるぞペリ子っ!もう一回勝負だぁ!」


 なーんて騒いでたけどね。フィルフィーはね。

 その後、グラウンドの特設コースは神様校長先生の杖の一振であっという間に元通り。

 昨日と同じくザコレベルB班のザコ達と勇者育成プログラムをこなしましたよ。


 プログラム2の早口言葉、プログラム3のぶつかり稽古はまだイイとして。

 いやー、プログラム1の精神鍛練という名の悪口合戦は慣れそうにないわー。

 

 ぶつかり稽古はね、サトナカ教官のオパイと戯れ、イヤ、胸をお借りしての鍛練だから、肉体的にはキツイけど肉体的に心地良いというか。

 イヤ違うっ。

 顔がオパイにめり込むのはわざとじゃないんだからねっ。

 

 まあ、頑張るしかない!イケメン勇者になる為に!ここがきっと踏ん張り所!まだ4日目ですけどねっ。

 

「おはようっ、コウダさんっ」

「おはようっ、ムラサメさん」


 同じザコレベルB班のムラサメさんとは仲良くやっていけそうな気がする。ちっこい者同士、気苦労が知れるというか目線が同じというか。


 高い所にある物取れないよねとか、自動ドア開かないコトあるよねとか、背の高い女の人のオパイにぶつかるコトあるよねとか。


 ムラサメさんもサトナカ教官のオパイに顔めり込んでたなー。まあ、ちっこいからしょうが無いですよね!



「昨日の原付レース、スゴかったねー。まさかの同着なんてね!コウダさんはフィルフィーマート様のグリッドガールだったよね。なんで?」


 朝の教室で委員長のタナカさんが話しかけてきましたよ。

 うむむ、なんと答えれば良いものやら。ここはまあ、無難に答えておきますかね。


「うーん。ユリユリ寮のルームメイトだから、かな?どうしても、って言うから断れなくて」


 どうしても、と言うのは盛りましたけれども。実際には引きずられるように連れ去られて、無理矢理あの衣装着させられたんですけどねっ。

 俺の制服を脱がせる時に力任せにおパンツ引っ張るもんだから、また破かれちゃいましたよ、おパンツをっ。

 フィルフィーの手で天に召されたおパンツはこれで3枚目!

 ……おパンツに合掌。


「ふーん。フィルフィーマート様ってさ、月曜の全校集会の時に竹刀振り回してたでしょ?

 あの時のイメージがあったから、コワイ女神様なのかな?って思ってたんだけどちょっと印象変わったなー。なんかカッコいいし!特にあの切れ長の目が!」


 カッコいい?うーん、まあ、ヤンキーってちょっとカッコよく見えるコトってありますけども!

 フィルフィーは天然でやんちゃなだけな気がするけどなー。


「昨日の原付レース見てフィルフィーマート様のファンって増えたんじゃないかなあ?」


 と、タナカさん。

 ええー?そうなの?フィルフィーにファン?うーん、さすがは女子高!といったトコロなんですかね?


 タナカさんと話してたらなんかぞろぞろとクラスメイトが集まってきて、ちょっとした輪になっちゃいましたよ。


 フィルフィーはステキとかペリメール様の髪キレイとか、レースの内容より、二人の見た目が美しいって話にすり替わっていきましたけども。

 うーん。人の輪の中ってニガテですよ!


           ◇


 キーンコーンカーンコーン、と始業のチャイム。

 気になってた科目が1時限目から。

 金曜日のみに設定されてる『特別講師による特別授業』ってヤツですよ。

 特別って名前付けてハードル上げてるからには相当特別なんでしょうな!

 

 ちょい楽しみですよ特別講師!


 ところがですよ!やってきたのは神様校長先生でした。……大丈夫なんですかね?


「あー、みなさま、おはようさんおはようさん。ここのクラスには魔王育成コースの者がおらんのじゃの。ということで、えー、今日は、勇者側の講義をば、少々したいかなと、おー、思いまする」


 勇者側の講義、というコトは女神側と魔王側の講義も出来るってコトですかね。その辺はさすがは神様ですよ!


「勇者になる、という事は、魔王の配下である様々な魔獣や妖獣、化け物や狂暴な動物と戦うクエストに挑む事も多くなろうかと、おー、思われまする」


 おおー、まともな事言ってる。勇者になるってそういうコトですよね!

 クエストに挑んでこその勇者や冒険者!

 魔王と戦ってこその勇者!

 異世界ファンタジーでの勇者ってそうじゃないとね!


「今日は、あー、山で熊に出会った時の対処法についてのお勉強をしたいと、思いまする」


 熊っ?

 熊ですか。まあ、危険な動物ですかね。


「熊と言えば、あー、ヒグマ、ツキノワグマ、アライグマなどが真っ先に思い浮かぶと、おー、思われまする」


 ……アライグマ、って3番目に出てくるような危険な動物ですかね?どっちかというと可愛い動物じゃないかな?


「山でいきなり熊に遭遇した場合、まず最初に取るべき行動と言えば?誰かに答えてもらおうかの」


 神様校長先生のこの一言に、示し会わせたように、さっ!とみんな一斉に顔を伏せましたよっ?

 当然、事情の飲み込めない俺だけが顔を上げてるから、ばっちり神様校長先生と目が合っちゃいましたよ。


「お?おお、おお、ヒカリじゃないかい。そうかそうか、このクラスじゃったか。それでは、ヒカリに答えてもらおうかのう?」


 まあ特に臆するコトは無い!ここは無難に答えておきますよ!なんでみんな顔伏せちゃったのかな?

 対処法を知らないってコトは無いと思うんだけど。シャイなのかなっ?


「あ、ハイっ。まずは熊を驚かせないように、刺激しないように慌てず騒がず後ずさり、がいいと思います」


「ふむ。中々に良い答えじゃ」


 おっ!褒められたっ?

 なんだ、ちゃんと授業してくれるじゃないですか。ちょっと警戒してたのが恥ずかしいですよー。


「では、じゃ。次の質問じゃぞ、ヒカリ。山でいきなり熊に遭遇した場合、まず最初に取るべき行動と言えば?」


 おいっ!神様校長っ!

 やっぱりバグってるじゃないですかっ!さっきと同じ質問ですよ!?

 だがしかし!俺を甘く見てはいけませんよ、神様校長!

 ここはクールに冷静に!意味がかぶってますけど、まあ、そんなカンジで答えますよ!

 パープーはパープーなりに対処法があるのですよ!


「はいっ。慌てず騒がず、後ずさり、がいいと思います。ボクはそう思うんですけど、神様校長先生はどう思いますか?」


 コレです!質問に答えてからの質問返し!

 これならバグだらけの神様校長先生も何か答えるでしょ!


「では次の質問に移ろうかと思いまする」


 おいっ!?神様校長っ!無視スルーですかっ!?

 よりにもよって無視スルーですかっ!?それって校長としてどうなんですかっ!?

 俺の質問は空中にほったらかしっ!?


「ではヒカリよ。その熊が襲ってきたらどうするかな?ヒカリは素手で武器を持たず、相手の熊は鋭いツメを持っておる。と仮定しようかの」


 え、うーん、素手ですか。

 そんなの普通に考えて戦えるワケが無い。逃げるしかないんじゃないですかね?まあ、無難に答えてみますかね。


「素手で戦うのは無理だから、逃げるしか無いと思います」


「ふむ。逃げる、か。何から逃げるんじゃ?」

「えっ?熊から、ですよ?」


「うむ。ちと答え方が違うぞ、ヒカリよ」

「答え方が違う?」


「仕方がないのう。今のと同じ事をワシに質問してみんさい」

「え?えっと……校長先生は何から逃げるんですか?」


「クマでしょ」


 ナンっデスカそのサムい答え方。

 クラスのみんながドン引きですよ。一斉に顔を伏せた理由がなんとなくわかりましたよっ。


「どうじゃ?」


 ナニがっ?

 そのサムい答え方にどうコメントしろとっ?


「あのっ。じゃあ、神様校長先生は熊に襲われたらどう対処するんですかっ?」

「うん?何がじゃ?」


「え、だから、山で熊に遭遇して襲われたらどう対処するんですか?」

「えっ?誰がじゃ?」


「神様校長先生がですよっ」

「えっ?ナニからじゃ?」


 これはっ!

 言わせようとしている!『クマでしょ』って言わせようとしてますよ!言いませんよっ!そんなの言ってたまるものですかっ!


「熊からですよっ」

「ぷう。ヒカリはつまらんのう」


 おいっ!?神様校長っ!?ぷうってナニ!?

 コレは一体何の時間!?神様校長先生とコントやる時間なのっ!?俺はナニを求められてるのっ?


「えー、山で熊に襲われた場合。武器で眉間や喉や心臓をサクッと突くと良いと思われまする」


 ちょっ!?神様校長っ!?

 その武器どこから出したんですかっ!?さっきは素手って言っておいてコレですよ!


「熊の話はそんなトコロかのう」


 早っ!浅っ!熊の対処法ってそんなんでいいのっ!?


「えー、では、続きまして。山の中でアライグマに遭遇した時の対処法についてお話をしたいと、おー、思いまする」


 アライグマっ?山の中でアライグマっ?

 そんなに危険な動物ですかねっ?


「野生のアライグマは、あー、みなさんが思っているよりも、おー、かなーり、狂暴な動物なのね」


 それはまあ、そうでしょうけども。身の危険を感じるほどの狂暴な動物では無いのでは?


「あー、ワシが扉を開けて教室に入った瞬間にアライグマに遭遇した、というていで、ちょっと小芝居を打ってみようかと、おー、思いまする」


 それ、必要なんですかね?もう、神様校長先生が小芝居やりたいだけなのではっ?

 おかしな流れになってきましたよ。これには巻き込まれたくないっ!


「それでは、あー、アライグマ役を誰かにやってもらいたいと、おー、思いまする」


 ここで再び!クラス全員が示し会わせたように一斉に、さっ!と顔を伏せた!今度は俺も遅れずに顔を伏せるコトに成功!2度目にして早くもタイミングもバッチリ!

 これなら当てられる心配は無い!


「ではコウダヒカリにアライグマ役をやってもらおうかの?ヒカリよ。前に出てきんさい」


 おいっマジかっ!

 みんなと同時に顔を伏せたのにっ?うわー、コレめんどくさいヤツですよー。


「ここの陰に隠れて、ワシが扉を開けて入って来たらひょこっと顔を出して、アライグマのモノマネをして欲しいのじゃ。鳴き声があるとええかのう。そしたらワシがリアクションする、という流れじゃ」


「アライグマの鳴き声?ってどんなのですか?ボク、聞いたコト無いんですけど」


「聞いたコトが無い?何をじゃ?」

「だから、アライグマの鳴き声をですよっ」


「はて?アライグマって鳴くんか?」

「たった今!鳴き声を真似しろって言いましたよねっ?」


「今?あ、アレじゃろ?『今でしょ』ってヤツじゃろ?」

「ちっがいますよっ」


 またコレかっ!地獄のループの始まりかっ!?


「ヒカリよ」

「はいっ!?」


 あっ、イラっと返事しちゃったっ。でもね、こうなりますよねっ。


「お昼はちゃんと食べたかの?」

「はいっ。食べましたけどっ?」


「ふむ。何を食べたか覚えておるか?答えられんと脳が老化しとると思われるぞい」


 それを神様校長先生が言いますかっ!?イイですよ答えますよ、お昼は寮のお弁当でしたよっ。


「お昼は寮のお弁当を食べましたよ。豚肉のショウガ焼きが入ってましたっ」


「ん?何の話じゃ?アライグマと遭遇した時の対処法の話をしとらんかったかい?話を脱線させてはイカンぞ、ヒカリ」


 話を脱線させたのはアンタでしょーがっ!

 もうね!アタマがいてーですよ!イヤ、頭痛がいてーですよー!


「では。狂暴なアライグマの対処法を実践してみようかの」


 そう言うと神様校長先生は一旦、教室から出て行った。戻ってこなくてイイですよと一瞬思っちゃいましたよっ。

 やんなきゃ終わらないヤツっぽいからやりますけどもね!ぐるぐるメガネのかわいいアライグマを御堪能あれ!

 アライグマの鳴き声なんてわかんないから、なんかテキトーに『キュウ』って言っておきますよ!


 がららっと扉を開けて神様校長が入って来た所に、ひょいっと飛び出す俺っ!


「キュウっ!」


「ん?ヒカリはナニをやっとるんじゃ?」


「え!?アライグマの真似してるんですけどっ!?」


「なんでそんなコトやっとるんじゃ?」


 アンタがやれっつったんでしょーがっ!

 誰がスキ好んでアライグマの真似するっていうんですかあっ!


「ヒカリは面白いのう。ほっほっほっ」


 マジかっ!俺はただただ赤っ恥っ!

 これは一体何の試練ナンデスカっ!?

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