勇者と魔王と女神のバランス

 ラーフィアちゃんとの初ランチタイムを終えて午後からは勇者育成プログラムの筈だったんだけど。


「今日はちょいとお勉強じゃ。なにすぐに終わるから心配せんでよいぞ」


 という神様校長先生の直々のお達しで俺は校長室に呼び出された。

 校長室にはホワイトボードと机と椅子が準備されていて、俺はそこに座って神様校長先生と二人での勉強タイム。


「あー、さて。この世界に来てまだ日は浅いが、ヒカリにはこの世界がどう見えるかのう?」


 日が浅いもナニも。まだ学校生活2日目なんですけど。うーん。率直に思った事と言えば。


「スゴく平和に見えますね。気になったのは……勇者と魔王って、複数いるのかな?って。この学校ってそれぞれのコースにたくさん生徒がいますよね?」


 魔王育成コースの生徒数は10人しかいないけど、ね。

 

「うむ。良い質問じゃ。読者もそこがツッコミどころじゃろうからのう」


 誰ですかドクシャって。神様校長先生には俺の他に誰か見えてるんですかね?ちょっとコワイんですけどっ。


「勇者と魔王は互いに敵対して然るべき存在であるという事はわかるな?」


「あ……はい。大抵の場合そうですよね?」


「うむ。その通りじゃ。では、じゃ。勇者と魔王は互いに敵対して然るべき存在であるという事はわかるな?」


 ん?


「……同じ質問ですよ、それ」


「え?ああ、そうじゃったかいの?えー、では。あー、勇者と魔王は互いに敵対して然るべき存在であるという事はわかるな?」


 バグってるな?

 同じ質問3回目ですよ、それ。


「ヒカリよ」

「はいっ?」


「ワシ、朝メシ食べたかのう?」

「……知りませんよっ」


「昼メシは食べたんじゃ。とん汁定食じゃった。美味かったぞい」

「それはまあ、つい30分くらい前でしょうからね」


「30分前?何の話じゃ?」

「お昼ゴハンの話でしょ?」


「勇者と魔王がどうのこうのと言っとったような気がせんでもないような」

「それですよ!それそれ!」


「ん?どれ?」

 と、神様校長先生がうろうろと何かを探し始めた。


「ホワイトボードの周りにはナニも無いですよっ?」


 なにやってんですかね神様校長先生はっ。


「ヒカリよ」

「はいっ?」


「朝はつか?」

「何のハナシですかっもうっ!勇者と魔王の関係性について教えて下さいよっ」


「ふむ……ヒカリは、朝は、ガンち、と」

「ホワイトボードに書かないで下さいよっ!誰かに見られたら困りますようっ!」


「ん?ワシ困らんよ?」

「ボクが困るんですっ」


「ん?お困りごとかな?」

「たった今、困ってますよっ」


「今?あっ、アレじゃろ?『今でしょ!』ってヤツじゃろ?」

「なんで知ってるんですか、それ。流行りましたけども!」


「ヒカリよ」

「なんですっ?」


「フィルフィーマートとペリメールのおっぱいはやわこいじゃろ?」

「なっ……」


 ナニを言ってるんですかね、エロジジイっ。

 あ、ジジイって言っちゃった。でも心の中で止めてるからセーフです!

 まあ二人のオパイはやわこいですけどね!


「ヒカリはエッチじゃのう」

「なんの話ですかっ」


「ヒカリよ」

「はいっ!?」

 あっ、ちょっとイラッて返事しちゃった。


「勇者と魔王は互いに敵対して然るべき存在であるという事はわかるな?」


 あ、最初の質問に戻った?

 これはっ!地獄の無限ループ!?ゲームでよくあるダンジョンループ!ループダンジョン!

 ルートを間違えると延々と同じ場所をぐーるぐるするアレですよ!

 ここはっ!違う答え方をしてみては!?


「はいっ。勇者と魔王は水と油のような関係だと思います!」


「ふむ。良い答えじゃ」


 よし!次に進める!


「では、じゃ。勇者と魔王は水と油のような関係であるという事はわかるな?」


 おいっ!神様校長!

 それ、俺が今言ったヤツですよねっ?ま、前に進めないっ!


「ヒカリよ」

「はいっ?」


「ワシ、昼メシ食べたかのう?」

「食べましたよ、とん汁定食をっ。美味かったって言ってたじゃないですかっ」


「ん?誰が?」

「神様校長先生がですよっ」


「なんでヒカリが知っとるんじゃ?」

「今、話してたじゃないですかっ」


「今?あ、アレじゃろ?『今でしょ!』ってヤツじゃろ?」

「ちっがいますよっ!」


 あ、またちょっとイラッとしちゃったっ。


「ヒカリは怒りっぽいのう」


 誰のせいだと思ってるんデスカっ!

 あ……アタマ痛くなってきたっ。


「なんかお話が進まんのう。何故じゃ?」


 アンタのせいでしょーがっ!


「あー、そうそう。いつの年じゃったか、勇者と魔王が結婚した事があったぞい」


「えっ!ケッコン!?」


 唐突に話がぶっ飛びましたよ!?勇者と魔王が結婚って、水と油が御結婚。

 ……ドレッシングみたいだな。

 はー。勇者と魔王がケッコンですかそーですか。そんなコトあるんだなー。

 ドレッシングもボトルをしたたか振れば混ざり合いますからね!


「すぐ離婚したけど。ほっほっほっ」


 ダメじゃん!

 ほっほっほっ。じゃないですよっ!離婚しちゃダメじゃん!いい話かと思いきや!

 これって、勇者と魔王はやっぱりわかり合えない、ってコトなのかなっ!?


「……じゃあっ、女神様って。この世界の女神様ってどういう立場なんですかっ?」


「女神か。女神はな、ヒカリよ」

「はい?」


「エッチじゃろ?」

「今はそういう話ではないですよっ。今はっ」


「あっ、アレじゃろ?『今でしょ!』ってヤツじゃろ?」


 地獄!ここはきっと地獄のループダンジョン、ダンジョンループ!誰か助けて下さいっ!


「ヒカリよ」

「なんですかっ?」


「女神とは中立の立場なのじゃ」


 あれっ?まともなコト言ってる?バグってるかと思いきや、ロード時間だったのかなっ?


「戦いの場において、勇者が倒れれば勇者を助け、魔王が倒れれば魔王を助ける。それが女神の立場なのじゃ」


「女神が魔王を助ける?え、この世界の魔王ってどんな存在なんですか?世界の災厄とか人類を滅ぼすとか『世界の敵』みたいな存在じゃないんですか?」


「それでは聞くがの、ヒカリよ。世界を災厄の渦に巻き込んだその後は?世界を敵に回し人類を滅ぼしたその後の世界はどうなると思うかの?」


「どう……って言われても……」


「倒すべき相手が。敵対勢力がいない、何も無い世界。魔王軍だけの世界。それはの、ヒカリよ。虚しいんじゃ。寂しいんじゃ」


「戦いは虚しくて寂しい……」


「単純にな、寂しいんじゃよ。かつてワシも神と悪魔の戦いなんてモノに参加した事があるがの。虚しくて寂しいだけなんじゃよ。それは勇者と魔王の戦いでも言える事」


 それはどの世界でも同じなんですねー。

 まあ、ね。俺もそう思いますよ!


「とは言え、じゃ。競争無くして進歩無し。やはり戦いからは逃れられん。だが血で血を洗うような争いは望まない。定期的に戦う事で互いにバランスを取っておるのじゃよ」


 なるほどー。バランスですか。


 3年生の生徒数が少ないのは、途中退学者が少なからずいるからだとか。途中退学と言っても、中には女神事務所や勇者事務所に引き抜かれて卒業前に勇者デビューや女神デビューする者もいるそうです。

 じゃあ、魔王デビューは?

 まさかとは思ったけど、ありましたよ。

 魔王事務所。


 ラーフィアちゃんは魔王育成コースだったよな……何故、魔王?

 機会があったら聞いてみようかな。

 

「勇者対魔王の図式は、切っても切り離せん夫婦のようなもの……イヤ、夫婦は離婚もあり得るから今の例えは無しで」


「まあ、そうですね」


「勇者対魔王の図式は、切っても切ってもキンタロウ飴のようなもの……イヤ、それでは戦いが終わらんようでラチがあかんのう。これも無しで」


「まあ、そうですかね」


「勇者対魔王の図式は、噛めば噛むほど味が出るスルメイカのようなもの……もう、これでいいじゃろ」


 スルメイカって、それでいいんですかっ?なんか投げやりなんですけどっ。

 めんどくさいからツッコミませんよ、俺はっ。

 

 まだわからない事は多いけど、一つハッキリわかったコトは。


 もし俺が勇者になって、ラーフィアちゃんが魔王になって敵対関係になっちゃった場合、フィルフィーとペリメール様はどっちの味方にもならない、ってコトだな。

 んー、ラーフィアちゃんとは戦いたくないなあ。


「ヒカリよ」

「はい?」


「勇者と魔王は互いに敵対して然るべき存在であるという事はわかるな?」


 エンドレス!エンドレスループにハマりましたよー!

 もう逃げるしか無いヤツですよー!

 

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