俺の決意、いきなり揺らぐ!

 ヤンキー女神フィルフィーマートに向かって声高らかに宣言した後、俺はこそこそとペリメール様の背中に隠れた。


 ええまあ、情けないってわかってますよ。

 でもね!

 怖いの!ねえ、怖いの!


 フィルフィーマートの獲物を狙う野獣のような目が!

 眼力だけで、生きとし生けるもの全てを黄泉の国へ送れちゃうんじゃないのっていう目がぁっ!


「あたしにタンカ切るたあ、いーい度胸だなヒカリぃ~……」


 ゆっくりとこっちに向かって歩いてくる様は、全てを滅ぼしに絶望の国からやってきた破壊神のようだ。

 絶望の国の破壊神なんて見たコトないからわかんないけど、そのくらいの迫力ってコトです!まあそんなカンジです!


「まったくもう、脅迫するのはおよしなさいなフィルフィーさんっ」


「あたしの美少女センスはオマエも知ってるだろ、ペリ子っ!そのカワイイ姿にケチつけられて黙ってられっか、べらぼーめっ!」


 いつから江戸っ子女神になったんですかフィルフィーマート。

 なんかちょいちょいべらんめえ口調になるような……


「それはまあそうですが……本当にリセットをお望みなのですね?ヒカリ様」


「もちろんです!ボクは!イケメン勇者になるのです!」


 俺は決意も新たに、もう一度言ったともさ!

 ペリメール様の背中に隠れてさ!


「決意に水を差すようで申し訳ありませんが……ヒカリ様、ものすごーく美少女ですわよ?」


「えっ?」


「フィルフィーさんはああ見えて美少女ヲタですから……女の子の姿を創造するのはお得意さんなのでございますですわ」


 お得意さんの使い方間違ってるような気がするけど、え、なに、そうなの?


 俺、美少女なの?


「ヒカリ様のそのお姿は誰が見ても『萌え萌えキュン♡』かと思いますですわっ」


「え!?」


「鏡でご自分のお姿をご覧になりましたか?」


「えーと……それが、まだなんですけど……」


 見たい……


 萌え萌えキュンの美少女なんて言われたら、ちょっと、イヤかなり気になっちゃいますよ!

 だからって俺の決意が変わる事は無いんだけどね!


「ではでは、簡素な物で申し訳ございませんが、私の鏡でご覧下さいですわっ」


 ペリメール様が虚空に大きく長方形の枠を描きパチン!と指を鳴らすと、何も無かった空間に全身が映るくらいの大きな姿見鏡が現れた。

 女神の力ってスゴいなー。


「はい!どうぞっですわっ」


 やらかくてカタチの良いオパイをぷるん!と揺らしてペリメール様が俺を鏡の前に立つよう促してくれた。

 やらかくて、って言えるのは既にその柔らかさを経験済みだからですよ。

 俺の顔面がね!


「あっ、はい……」

  

 俺はおそるおそる鏡の前に歩み寄り。

 

 そこに映ったその姿は……


 アニメの世界から飛び出したみたいな、ゆるふわパーマの金髪美少女メイド!

 さっき確認出来たのは衣装とか履き物だけだったから、顔と全体像を見るのはこれが初!


 うわ!

 うわ!

 うっわ!

 めっっちゃカワイイ!

 なんっだ、この!?


 メチャクチャカワイイ!! 


 え!?これが、俺!?


 ぱっちりした瞳。光彩の色は薄い翠。

 長い睫毛は化粧もしてないのにツヤツヤしてて、よく見るとグラデーションまでかかってる。 

 眉毛はちょっと太めの柳眉。

 女の子の細眉って気が強そうに見えるけど、太眉って優しそうに見えるから不思議だ。


 ゆるふわパーマの金髪がピンク色の頬にちょっとだけ掛かってて、それが小顔効果になっている。

 元からちっちゃい顔なのに、さらに小さく見えて愛らしい!

 

 鼻筋のまわりには、ほんの少しのそばかすがっ!

 そばかすって、肌の白さの証明だって聞いたコトがあるけどもなんつーか、こう、ね!

 守ってあげたくなる感が増すよね!俺は好きですよ、そばかすっ


 唇は血色の良い艶やかな朱色。

 グロスも口紅も塗ってないのに、ぷるぷるのぷるるんですよ!

 天然モノのぷるぷるクチビルですよー!


 首なんてめっちゃ細い!折れそう!

 さらに、背が低いってのが『守ってあげたい感』を増幅ブーストさせてますよ!


 なにこの美少女!?


 って、俺!?これが、俺!?


 え……俺!?


「これが……ボク……?」


 俺は、地味子ちゃんが友人〖ヘンな魔法生物でも可〗にオシャレ〖魔法少女とかでも可〗に変身させられて、可愛く変わった自分の姿を鏡で見たような感想をポツンと呟いた。


「これが……ボク……?」


 二回言う!二回言いたくもなりますよ!


 やっば!

 ヤバイヤバイヤバイ!


 メ、チャ、ク、チャ!可愛いっ!!


 て言うか、どストライクなんですけどっ!

 俺好みの女の子に、俺がなってる!


 俺、この子のコト、好きかも!


 って、待て、俺!それじゃあただのナルシストだっ!


 思い出せ俺!

 俺のコカンにある『ブツ』を思い出せ!

 こんなカワイイ美少女にあってはならない『ナニ』のコトをさ!


 俺のコカンには!付いてるんです付いてるの!

 ブツが!ナニが!暴れん棒が!ご立派なアレが!まだ見てないからご立派かわかんないけど!

 付いてるんですうう!


 この姿、確かにSSS《トリプルエス》級の美少女ですよ!もし『ブツ』が付いて無かったら、この姿を受け入れられたかもしれないけれども!


 ん!?


 受け入れたかも知れないけれども……だと?


 待て俺!イケメン勇者になるんじゃなかったのか、俺! 

 チートスキルゲットして、ムフフでアハンなハーレム勇者になるんじゃなかったのか、俺!


 俺は自分自身に言い聞かせた。

 そして問い質した。

 このままだと、将来間違いなくおっさんメイドになるんだぞ、と。

 

 もう一度、鏡で自分の姿を見てみる。


 ……か


 かっ……


 カワイイ……っ♡


 あおり、俯瞰ふかん、斜め下、斜め上。


 じと目、流し目、上目遣い。


 笑顔、ね顔、ムクレ顔。


 どんな角度からも、どんな表情もメチャクチャカワイイっ!

 どの角度から見てもカワイイっ!


 ちょっと小芝居やってみよう!

 アニメで見たヤツやってみよう!


 プクッとほっぺた膨らませ、困り眉で言ってみる。


「もうっ!ダメだぞっ♡」


 可愛いっ!


 人差し指をほっぺたに当てパチッとウインクして言ってみる。


「もうっ!ダメだぞっ♡」


 可愛いいっ!


 シンプルに上目遣いで言ってみる。


「もうっ!ダメだぞっ♡」


 可愛いいいっ!YABEEEE!


 ええまあ、妄想ばっかりしてたから現実リアルの女子には不慣れではございますよ!

 まさか自分がカワイイ姿になるとは思いもしなかったから、これは衝撃的すぎますよ!


「どうですヒカリ様?私の目から見ても超絶美少女ですわよ?」


「随分と『お気に入り』みてえだなあ、ヒカリぃ?ナニが付いてるんなら、自分の姿見ながらセンズリ出来るんじゃねーのかぁー?」


「えっ!?そんなコトしませんよっ!?」


「フィフィフィフィっ!フィルフィーさんっ!?めめめ女神ともあろう者がっ!せっ、せっ、せっ……せんっ、などと不浄の言葉を口にしてはなりませぬですわっ!!」


 女神ともあろう者が、とんでもない言葉を平然と口走るフィルフィーマートに対して、ペリメール様は耳まで真っ赤になって狼狽うろたえてる。


「生きてた頃にさんざんコキまくってたんだろー?スケベな雑誌とか、スマホの動画とか画像見ながらよー?こうやってなあ?」


 フィルフィーマートは、あろうコトか右手の親指と人差し指、中指で輪を作り上下に動かしてみせた。


 なんで知ってるんですかそんなコト。

 

 当然のようにペリメール様は動揺を隠せずに顔を真っ赤にしてる。

 ……あの動作がなんなのか、ペリメール様もご存知ってコトですか?


「フィフィフィフィっ!フィルフィーさんっ!めめめ女神ともあろうもにょがっ!そんにゃ不浄のお手つきをしては、にゃりませんですわああっ!」

 

 ペリメール様?動揺しすぎて呂律が回ってませんよ?


「なんならあたしがヌいてやろうかあー?」


「フィルフィーさあああんっ!」

 ばちーん!

「ぶあっ!?」


 ヒワイな言葉を連発するフィルフィーマートに耐え切れなくなったペリメール様が、平手打ちでヤンキー女神の口を塞いだ!

 って言うか、ぶっ叩いた!


 いい音した。

 ばちーん!て。

 ……痛そうだけど。

 

 いい気味です!天罰ですよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る