俺の決意、表明します!

「ペリメール様っ!お願いがあります!ペリメール様が昇格出来たら、ボクを転生前の姿に戻して下さい!ぜひぜひっリセットをっ!何の手違いかわかりませんけど、ボク、男のにされちゃったんです!」


 女装男子とかオカマちゃんとかではなく、俺は自分の姿を『男の』と口にして、ペリメール様にすがり付くようにお願いした。


「おとこのこ?……どう見てもカワイイ女の子にしか見えませんが?」


「イヤ、あのっ。付いてるんです!『ブツ』が!『ナニ』が!ボクのコカンに!」


 あと、なんか『俺』って言えなくなってる。『俺』って言おうとするんだけど、口から出るのは『ボク』だ。

 これはもしかして……『ボクっ』設定なのでは?

 

「……付いてるんですか?それはまた難儀なモノを……」


 ナンギって。

 ええまあ、ある意味、難儀ではありますけれども!


「申し訳ございません、ヒカリ様。私のリセット権限をヒカリ様に使う事は出来ないのです。転生前の姿にリセット出来るのは、転生させた女神だけなのですわ」


「え、つまり……」


「ヒカリ様はフィルフィーさんにその姿にされた、と仰いましたわよね?」


「はい。じゃあ……ヤンキー女神じゃないとリセット出来ない……」


「お察しの通りですヒカリ様!素晴らしい推察力ですわ!」


 ペリメール様が両手を胸の前に組んで大袈裟に俺の推察を褒めちぎる。そういうのも女神ポイントに加算プラスされるのかなっ?


「だあれがヤンキー女神だって?」

「ひぃ……っ!?」


 背後から響く地獄からの使者のような低い声に、俺のコカンの双子ツインズがきゅっと縮んだ。

 地獄からの使者の声なんて聞いたコト無いからわかんないけど、例えるならやっぱ『地獄からの使者の声』がピッタリですよ!


 その声の主は言うまでもなく、ヤンキー女神フィルフィーマート!


 怯えている。俺はめっちゃ怯えている。ヤンキー女神フィルフィーマートの眼光は猛禽類のように鋭く、ヘビみたいにねちっこい!


 イヤ、猛禽類とかヘビの方がマシかも!


「およしなさいフィルフィーさん!可哀想に、怯えているじゃありませんか」


 そう言ってペリメール様がぎゅっと俺を抱き寄せた。

 身長差があるからおっきなオパイに埋もれますよ、俺の顔!


 やわっけー……キモチいいー……ふわふわですよー……いい香りですよー……


 ……触ったら怒られるかな?


「でも、ですね。一度決めた姿を元に戻す、というのはなかなかに手続きや手間がかかる事なのですよ、ヒカリ様」


「えっ!?あっそうなんですかっ?」


 ペリメール様が俺を抱き締めたまま解説を続けてくれた。

 至福です。これがきっと至福の時間てヤツです。

 このオパイの谷間でなら、俺、一生ここで暮らせます。


「登録してある女神事務所での手続き、高等女神事務所での手続き、最高等女神事務所での手続きと最低でも三つの段階を経なければいけませんのですわ」 


 ペリメール様の言葉に、はっと我に帰る俺。


「えっ、そんなに?じゃあ、大分時間がかかるんですか?」


「そうですわねえ……このくらい、でしょうか」


 そう言ってペリメール様が細くて長くてキレイな指を三本立てて見せた。


「三ヶ月、ですか?」


「ノンノンですわ」


 首を横に振るペリメール様の銀髪がサラサラと揺れる。

 はー、めっちゃキレイですよー。


「えっ……三年、ですかっ?」

「それもノンノン、ですわ」


「それ以上時間がかかるんですかっ?」

「三時間ですわ」


「早っ!」


 リセットの手続きをするには三つの事務所巡りが必要と言いつつ、所要時間は三時間!?


 早っ!


「そうですわね。手間はかかっても時間はかかりませんですわね。ヒカリ様はどうしてもリセットをお望みなのですか?」


「はい!ボク、イケメン勇者になりたかったんですぅ!でも、ヤン……フィルフィーマート様に無理矢理この姿にさせられちゃったんですうう!」


 俺はよよよと泣きついた。

 なんかどーしようもないダメな奴だな、俺。


「それは災難でしたわね……フィルフィーさん!同じ女神として、あなたの傍若無人な振る舞いを見過ごす訳にはまいりませんですわっ!」


 ペリメール様がびし!とフィルフィーマートを指差した。


「あ!?文句あんのかペリ子っ!神様が『いい仕事だ』っつったんだからいーんだよ!」


「神様ですか……あのお方はなんでもかんでも『いい仕事』で終わらせてしまうのが難点ですわね……あと、昔のあだ名で呼ぶのはお止めなさいですわっ」


 昔のあだ名?二人は旧知の仲って事か。

 道理でフィルフィーマートに対してビビるどころか、真っ向から意見できるワケだ。


「とにかく!この不祥事を見過ごす訳にはまいりません!女神事務所に『ほうれんそう』されたくなかったら、おとなしくポイントを貯めてヒカリ様をリセットしてさしあげなさいなですわっ!」


「ホウレン草?土臭い菜っ葉がなんぼのもんじゃいっ」


 違います。『ほうれんそう』くらい俺でもわかります。あと、ホウレン草は土臭くないです。ホウレン草農家さんに謝って下さい。


「報告、連絡、相談のことですわよ、この脳筋女神がっ!ですわっ!」


 ブブー!


『マイナス5ポイント~』


「くっ……ですわっ」


 ペリメール様……出会って間もないのにマイナスばっかりですよ?


 大丈夫かなこの女神様。


「ヒカリ様をリセットしてさしあげるコトは出来ませんが、フィルフィーさんを監視するコトは出来ますわっ」


「あ!?ナニ言ってんだペリ子!」


「このまま貴女の愚行を野放しには出来ない、と言っているのですわ。野放し女神を監視すれば私もポイントゲット!一石二鳥とはまさにこの事ですわっ」


「大体なー、なんでこんなトコにオマエがいるんだよペリ子っ」


「たまたま近くでお仕事をしていたのですわっ。タマタマと言っても男性のコカンにブラブラしてる例の『アレ』のコトじゃありませんわよーっほっほっほっ!」


 ブブー!


『マイナス10ポイント~』


「はあっ!しまったっですわっ!」


 ……どうやら下ネタもマイナスのようだ。


 そりゃそうですよ女神様。

 ホント、自滅するタイプだなー。


「フィルフィーさんはポイントを貯めて女神ランクを上げる。ヒカリ様はリセットをする。私はフィルフィーさんを監視してポイントゲット。一石二鳥どころか一石三鳥、ですわ!」


「ああん!?おいヒカリぃ。文句なんかねえよなあ?カワイイメイドになれてウレシイよなああ!?」


 ズゴゴゴゴゴ……っ!


 ヤンキー女神の背後に燃え盛る炎が見えるような気がする!

 気がするだけで見えないですけども。


 なんて威圧感!威圧感パないってこのコトですよっ!


 だがしかし!

 俺は己を奮い立たせる。

 

 そして己に問いかける。

 いいのか?


 いいのか、俺!

 このままカワイイメイドさんとして生きるのか!?

 イヤイヤ、待て待てちょっと待て!

 今はカワイイメイドさんかも知れないが!


 5年後、10年後、15年後、20年後を考えて見ろ、俺!


 違う!


 考えるな、感じろ!

  Don't think! feel!


 20年後、25年後のカワイイおっさんの男のメイドを!


 中年小太りのちっちゃいおっさんを!


 想像してみろ、感じてみろ、俺!


 ……中年小太りで……

 

 ……フリフリひらひら、の……っ


 ……おっさん、男のメイ、ド……っ


 いっ……


「いやああああああああああっ!」


 絶叫!絶叫するしかないぞ俺!


「ヒカリ様っ!?」


「無理無理無理無理ムリぃぃぃっ!キモいっ!キモすぎですよおっさんメイド!うっすらハゲてるおっさんメイド!経年劣化していくちっちゃいおっさんメイド!

 一部のマニアにしかウケませんよぉっ!動画投稿サイトとかでウケるかも知れないですけど!地獄!地獄絵図ですよぉぉぉっ!」


「落ち着いて下さい、ヒカリ様っ!?取り乱しすぎですわよっ?」


 これがっ!落ち着いていられますかってなもんですよっ!


 このままで良いワケがなぁい!

 断じて!断じて!!断じて!!!


 いな


 いな!!


 いなぁぁぁっ!!!


「ボクは……っ!決めましたよペリメール様っ!ボクはぁっ!決めましたっ!」


「はいっ?なにをですかっ?ヒカリ様っ!?なぜ二回言ったのですかっ?」


「二回言ったのは決意の表れです!ボクはっ!」


 勇気と決意を持って俺は!びしぃっ!とフィルフィーマートに指を差し!


 声高らかに、こう宣言してやった!


「異世界で!」


「イケメン勇者になる為に!」


「ヤンキー女神を更生させます!!」


 ってね!

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