爆誕!新しい俺!って、え!?

「コウダヒカリよ」


「はいっ」


「そなたは不慮の事故で死亡し、ここに来た。ここは『選択の部屋』と言って、不慮の事故や病気で亡くなった者達が呼ばれる部屋なのじゃ」


「はい!おおよその察しはつきます!」


 ほわーっとした柔らかな光に包まれた『部屋』というより、ただの白い空間に白ひげの神様とヤンキー女神様とミカンがいる。


「このまま天に召されるか……成仏とも言うかの。何処か別の世界に転生するか、現世を幽体として漂うか……選ぶがよい」


 現世を幽体って、ユーレイにはなりたくないなあ。

 天に召されるには早すぎだし、ズバリ選択肢は一つ!


「異世界転生!イケメン勇者で充実人生!これでお願いします!」


「ふむ。よきにはからうがよい」


 さすが神様!粋なハカライをありがとうございます!


「では、フィルフィーマートよ。その者の転生先での姿を思い通りにしてあげなさい。まず、殴った事を謝罪し、反省してからな」


「ええー?……チッ。あー、悪い悪い。反省してまーす。そんじゃあ、どんなんでもいーからテメェのなりたい姿を思い浮かべてみろや」


 絶対悪いって思ってないし、反省なんてしてない。だって舌打ちしてるし、めっちゃメンチ切ってるし。

 まあ、いいです!俺は寛大にヤンキー女神の愚言を許してあげます!


「じゃあ、遠慮なく!さっきも言いましたけど、イケメン勇者で!せっかくだからプランBいっときますね!

 185センチの65キロくらいの痩せ型細マッチョ!

 髪はショートで前髪はアシンメトリーで!

 あっ!目の色も左右違う色でお願いします! 

 あとあと!イケボもお願いします!声だけでとろけちゃうっ!みたいな!

 当然、冒険にも出ますよねっ?

 そしたら武器はもちろん、両手剣で!

 盾なんていらないですよ、だってカッコ悪いじゃないですかー!攻撃は最大の防御、ってヤツですよー!

 さっきいい忘れちゃったんですけどー、チートスキルも欲しいです!指一本で山吹っ飛ばす!みたいな!あっ!ウインク一つでカワイイ女の子はみんな俺の嫁!的なのもアリですかねー!」


「…………生きてた頃の身長と体重言ってみろや」


 あれ、女神様?また、お顔の色が優れませんよ?はしゃぎすぎたかな?


「えっ?えっと、157センチ、50キロです」


 俺はちょっぴり、サバ呼んだ。でも、それはすぐにバレてしまい……


「テメェ今ウソつきやがったな?ホントは155センチ、49キロだろうが!」


「え!?体重1キロ減ってる!ていうか、わかってたんならなんで聞いたんですかっ!?」


「テメェのその身長からどーやって180まで伸ばすんだ!?首に縄かけて両足に重りくくりつけて木からぶら下げてやろうかっ!?」


「女神様っ!?それは首吊りと言うのではっ!?でも、生きてた頃の身長体重は関係ないですよねっ?」


「……グダグダうるせえ……」

「……えっ?」


「グダグダうるっせえ!ド底辺!テメェに指図される覚えはねえ!」


「え、だって、神様仰ってたじゃないですかっ!その者の転生先での姿を思い通りにしてあげなさい、って」


「……クソが……」

「……えっ?」


「こなクソがああっ!」


 うわ、ブチキレたっ!

 ちょっと女神様!?素行と言動悪すぎでしょ、この女神様!なんでこんなのが女神やってんの!?


「うらあっ!」


 殴られる!と思った瞬間。


「ラブリィー!!ビィィィム!!」


 ださ!だっさ!なんですかラブリービームって!!ぷすー!!


 ピカリと光る女神様の指先。


「うわ!?わわわっ!!」


 光を浴びた俺の身体がどんどん熱くなる。


 ミカンの一房一房、一粒一粒が細胞分裂して増殖していく感じだ。


 ミカンの皮はその形と色を変え、薄くヒラヒラな衣装に色と形を整えていき。

 ミカンの果肉は、しゅしゅしゅと音を立てて『ヒトのカタチ』を成していった。


「ファイナル!フィニッシュビィィーム!」


 またしても、だっさい名前の光線を浴びる俺。


 しゅぱぱぱぱんっ!ぽん!


 と、軽快な音がして俺の転生先での姿がミカンからヒトへと形成された。


 なんだ簡単じゃないですか、もったいぶっちゃってもー!


 目を瞑ったまま、ヒトとしての意識が少しずつハッキリしていく。


 ……おおっ!ちゃんと直立してますよ!

 

 二本足で立ってるこの感じ!ミカンじゃないですよ!

 手と指があるこの感じ!ミカンじゃないですよー!


 おそるおそる目を開けてみると……


 これはっ!


 目線がさっきと全然違う。

 生きてた頃とあまり変わらないくらいだ。


 ん?むしろ低い?


 ……あれ?身長185センチってこんな目線なの?


 俺は自分の手を見てみた。

 細くて短めの指、小さな手のひら。 


「ん?」


 次いで足元に目を落とすと、黒のハーフブーツ、膝上ニーハイにガーターベルト。

 

「んん?」


 なんだかおかしいぞと思いつつ、俺は衣装を確認してみた。

 これは……この衣装は誰が見ても!


「んんんっ!?」


 メイド!ゴスロリメイド!

 どこにでもあるような白いブラウス、白エプロンに黒のスカートのゴスロリメイド!


 ヤンキー女神、フィルフィーマートの『ファイナルフィニッシュビーム』で俺は変身させられた。


 ミカンからフリフリひらひらのゴスロリメイド姿へと。


「……なんですかこの格好……?」


 あれ?なんか、声が1トーン高い……ってゆーか、女の子の声だよ、コレ!?


「なにがなんですか、だ。文句あんのかド底辺。どっからどう見てもカワイイ女の子だろうが!我ながらイイ美少女っぷりだぜ!」


「カワイイ女の子っ!?ボク、イケメン勇者って言いましたよね!?いえ、カワイイですよコレ!カワイイですけども!

 こんなカッコじゃ無双もハーレムもあったもんじゃないですよ!?

 このカッコで出来ることって『お帰りなさいお兄ちゃん♡』系のメイド喫茶店員くらいですよね!?」


 やっぱり声が高い!興奮してるからとかじゃなくて、もろに女の子の声ですよ!?

 え!?

 イケメン勇者って言ったのに!


「このあたしのセンスにケチつけるたあ、いい度胸だなド底辺……」


 あのっ!目がマジなんですけどっ!?


 女神様はオパイをプルプルと揺らしながら俺に掴みかかる勢いで近付いてくる。

 殴る気だ、絶対殴る気だよ、この女神様!


「まあ、待て。フィルフィーマートよ」


「……うっす」


 女神様は神様に呼び止められ、俺は寸での所で助かった。


 絶対、反省してませんよね女神様。

 神様、どうかお願いです。


 このヤンキー女神に天罰をお与え下さい。

 さっきみたいにグーで殴ってやって下さい。

 女神に天罰ってのもおかしなハナシですけども。

 

「良い仕事じゃ。フィルフィーマートよ」


 ちょっ!神様!?


「では後は任せた」


 おいっ!?神様!?


「あ、そうそう。フィルフィーマートよ。この少年……少女?が立派に一人立ちするまで、お前が誠心誠意込めて面倒見てあげなさい」


「「えっ」」


 俺と女神様の声が同時に重なる。


「お前はだいぶポイント不足しとるじゃろ。このままでは女神の資格すら剥奪されかねんぞ。この少年……少女?と共に地上で己を磨いてきんさい。じゃあのー。頼んだぞー、フィルフィーマートよー」


 軽ーい感じで言うと同時に、白ひげの神様はふっと姿を消した。


「ウソだろ……」


「ウソでしょ……」


 俺と女神様が続けて呟く。前者が女神フィルフィーマート、後者が俺だ。

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